海辺の光景 (新潮文庫)
The story follows Shintaro as he visits his mentally ill mother in a seaside hospital with his father over nine days. The mother's approaching death, memories of postwar hardship, and the family's fraught emotions overlap in a tense, restrained portrait of love, resentment, and emptiness.
Work Information
Nine days at a mother's deathbed illuminate family memory and the postwar void.
Centered on the title story, this collection compresses encounters with an ailing mother, conflicted feelings toward a father, and memories of poverty into a plain, controlled style. Through intimate domestic moments, it sharply portrays love and aversion toward those closest to us and the helplessness felt in the face of death.
Review Summaries
-
Readers value the unsentimental treatment of autobiographical material and the dry precision with which the distance between mother and son is drawn. Many respond to the oppressive hospital atmosphere and the interwoven memories as a powerful expression of postwar fiction.
Book Information
- Publisher
- 新潮社
- Published
- 2000-08-01
- Pages
- 336 pages
- Language
- 日本語
- Size
- 14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-13
- 9784101130019
- ISBN-10
- 4101130019
- Price
- 737 JPY
- Category
- 本/文学・評論
母との最後の九日間。母を狂わせたのは、父か私か――。 家族の相克と虚無的な心象風景を重ねた、戦後最高の文学的達成。 不思議なほど父を嫌っていた母は、死の床で「おとうさん」とかすれかかる声で云った──。精神を病み、海辺の病院に一年前から入院している母を、信太郎は父と見舞う。医者や看護人の対応にとまどいながら、息詰まる病室で九日間を過ごす。 戦後の窮乏生活における思い出と母の死を、虚無的な心象風景に重ね合わせ、戦後最高の文学的達成といわれる表題作ほか全七編の小説集。 【目次】 海辺の光景 宿題 蛾 雨 秘密 ジングルベル 愛玩 解説:四方田犬彦 【本書収録「海辺の光景」より冒頭】 片側の窓に、高知湾の海がナマリ色に光っている。小型タクシーの中は蒸し風呂の暑さだ。桟橋を過ぎると、石灰工場の白い粉が風に巻き上げられて、フロント・グラスの前を幕を引いたようにとおりすぎた。 信太郎は、となりの席の父親、信吉の顔を窺った。日焼けした頸を前にのばし、助手席の背に手をかけて、こめかみに黒味がかった斑点をにじませながら、じっと正面を向いた頬に、まるでうす笑いをうかべたようなシワがよっている。…… 安岡章太郎 (1920-2013) 高知市生れ。慶大在学中に入営、結核を患う。戦後、カリエスを病みながら小説を書き始め、1953(昭和28)年「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞受賞。弱者の視点から卑近な日常に潜む虚妄を描き、吉行淳之介らと共に「第三の新人」と目された。1959年「海辺の光景」で芸術選奨と野間文芸賞、1981年「流離譚」で日本文学大賞、1991(平成3)年「伯父の墓地」で川端康成賞を受けた。
Reviews
-
圧倒的な読後感
江藤淳の『成熟と喪失ー母の崩壊』でとりあげられているので本書を読む気になった。本書には表題の「海辺の光景」の他6編の小説がのっている。中でも中編「海辺の光景」は、母の死と戦後の滑稽なまでの窮乏生活が描かれており、主人公の信太郎の気持ちに共感した。
-
近い将来、わが身にも確実に訪れるその瞬間を想像しながら読んだ。
表題作『海辺の光景』は昭和34年の作品。母危篤の報を受けて高知へと帰郷した主人公が父とともに母の最期を看取るまでの九日間を描いている。主人公の母はまだ六十代前半。しかし痴呆がもとで言動も行動もおかしくなり、入院させられた先が格子窓のついた精神病院という、今では考えられない設定。まこのあたりのいきさつは省略するが(かなり込み入っているので)、親の最期を看取るとはどういうことなのか、近い将来、わが身にも確実に訪れるその瞬間に、人は何を思い、どのように親の死と向き合うのか、ということについてとても参考になった。死にゆく母親と向き合う主人公の心情は、母親がすでに衰弱しきって意識がないということもあって、悲しみに沈むというよりは、どことなく虚ろで、感情の起伏に乏しく、虚無にとらわれているようである。戦後、貧しく、決して幸せとは言えなかった父母との暮らしの記憶が蘇る。肉親の死と対峙せざるをえなくなった時、案外自分もこんな感じなのかな、と思いながら読んだ。なかなかいい作品だった。
-
うみへんの光景です。
約30年振りに読みました。同時に当時の記憶も蘇りました。すらすらと読める作品だと思います。
-
ラストシーンには凄みがある
やっぱり短篇はどれも凡庸で退屈だが、表題作はなかなか良い。死に至る母の姿を通じ、主人公が抱く両親との葛藤が一応の解決に向かっていく様が描かれる。病者の姿が様々に出てくるが、いずれも専門的な目によるものではないためかリアリティを欠き、どうしても白けてしまう。文章に衝動性や落ち着きのなさが滲み出ていて読みづらいなとも感じる。しかし、ラストで主人公が見る寂寞とした光景の持つ存在感はなかなか凄みがあって、他に類を見ない。 そういえば、先日読んだ岩波文庫『安岡章太郎短篇集』ではあまり詳細が読み取れなかった母の狂気だが、狭義の精神病や一般的な認知症ではなく、おそらく某身体疾患に起因する外因性の精神障害だろうという印象を受けた。これでもやもやが少しすっきりしたのは良かった。
-
荒涼としながらも一条の光降り注ぐ
身近な人を亡くした後、 この本に描かれた海辺の光景を、 本当に見た気がした。
-
産まれた時期が悪かった。
後味が悪い作品。
-
戦後最高の私小説
感動した。「死の棘」と並ぶ戦後最高の私小説と思う。最後母が亡くなった日に、海辺に干潮で黒々と現れる多数の杭の光景で小説を閉じるところは見事と言うほかない。著者の肉親を喪ったばかりの心象風景をまざまざと表現している。
-
良かった
とても面白かったです。 現代の文学にはない文体でとても良かったです。 又読み返したいです。