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エチオピアからの手紙 (文春文庫 な 26-5)

Akutagawa Prize

エチオピアからの手紙 (文春文庫 な 26-5)

Kashi Minaki

A landmark debut collection of five stories about young doctors facing illness, death, and the demands of honesty.

medicinelife and deathyoung doctors

Work Information

Five stories about young doctors confronting life and death.

A landmark debut collection of five stories about young doctors facing illness, death, and the demands of honesty.

Book Information

Publisher
文藝春秋
Published
2000-03-10
Pages
315 pages
Language
日本語
ISBN-13
9784167545055
ISBN-10
4167545055
Price
49 JPY
Category
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

文學界新人賞を受賞した「破水」をはじめ、人間の生と死を日常的に受け止めざるを得ない医師の内面を、濃密に描ききった短篇五篇

Reviews

  • 「木の家」で死にたい。

    短編作品5作品の中で、私は「木の家」が一番好き。老いて、死んでいく時の選択肢として、自分で選択できる部分を知ってよかった。真面目な問題を作者南木様はちょっとユーモアを含めて教えてくれる作品。特に「木の家」は60歳以上におススメ。

  • 世界が産まれる瞬間

    谷川俊太郎の「夜のラジオ」という詩に、「生きることを物語に要約してしまうことに逆らって」という一節があって、僕はこの本の中に収められている「破水」を読みながら、それを思い出した。 南木さんが好きだ。優しくて、読み易い。それでいて、素直な文章の中に、ときどきさくりと鋭すぎる一文が紛れ込む、文章が好きだ。だから、そんないつもの文章とかけ離れている南木さんのデビュー作、「破水」にびっくりした。 読み易くないのだ。読者をおいてけぼりにする文章。 たとえば、「スチームはまず空気からあたためにかかってくる。あたたまり始めた空気は頬に粘りつき、ぴんと張りつめていた皮膚をだらしなくさせる。だらしなさが伝染するのはいつでも容易だから、そんな変化があっけなく角膜にも移行してくる。」という文章がある。ん? と思う。この「だから」が、すんなり入ってこない。連想のしりとりだが、この連想は作者独自の感覚で、読者の共感を無視して進む。読者を待ってはくれず、作者は強引に世界を創りだしながら、白紙の世界をペン一本で切り開いていく。必死に。命がけで。これ以外の作品には、もうこんな文章はないが、この作品には、こういう「から」が何度も出てくる。 物語の主人公は、望まれない子を身ごもった妊婦の女医だ。彼女は、周囲がどんなに反対しても、産む。また、彼女が看るのは逃れられない死期の迫った老人で、家族は色々な思いを抱える。彼女は、そんな家族の思惑と和解をしない。ただ、「生かす」。 彼女は、逆らっている。そして、彼女は、南木さんだ。ペンを使って、彼の感じる世界そのものを「写し取る」のではなくて、「産む」、妊婦としての南木さんだ。僕は、忘れていたのかも知れないと思う。南木さんの文章は、あまりに読み易かったから、その根っこにある「逆らって」いる部分を忘れてしまっていたのではないか、と。 彼女、彼はいう。自身の出世のため堕胎をすすめる、子の父に。「つまんない物語は、とにかく自分の中で完結させなきゃ。シンポジストにもなれないよ。学会の」と。 生きることを物語に要約してしまうことに逆らって。そう、それは、「逆らう」ことだ。覚悟がいることだ。今の世の中は、完結を、結論を、求める。ただ、あるものをそのままに身体に留めるという選択を容易には許さない。 「陽子にはうなだれておろす気がまずなく、胸を張って産もうという意志もなかった。ただ、ゆっくり、着実な細胞分裂をくり返している腹の中の「芽」を、異物とは認めていないらしい、下等で鈍感な神経網の中にゆだねておきたかった。」 望まれぬ「生」、望まれぬ「死」。言葉に要約するのは簡単だけれど、それをそうしないことを選択する。それは、選択しないことでもある。選択しないことを陽子が選んだその瞬間、書かれなければならなかった、作家、南木さんの世界は産まれたのだと、そう思う。 読むたびに、この作品に挑まれる。いつまでも、逆らい続ける。それが、たまらない。 僕も、ずっと、挑み続けようと思う。

  • 生と死のはざまで

    ここにでてくる医師たちは、華やかなエリートの「お医者様」ではない、医師である前に人間としてさまざまな死と生の形に向き合い、悩む一人の人間である。 本来なら死と向き合う事のない世代の若者の周りにあるのは「生」より「死」である。 妊婦でありながら、過酷な労働条件に対峙する医師のほか、故郷の山で命を終わりたいと願う老婆とそれをかなえられない医療事情、表題作である「エチオピアの手紙」は医師としての自分の無力さに悩み葛藤しながら行き詰っていた主人公の下にとどいたエチオピアからの手紙はどう生きるか、以前に「生きる」という選択肢すら与えられない人々たちの生活が短い文章の中に現れている。 作者の初期の作品だからか、若干文章に読みにくさもあるものの、若く、葛藤のある医者である作者でなければかけない作品。優雅な医師生活をしている作家ではこの作品は生み出せない。非常に意義ある作品だと感じる。

  • 距離を測ること

    南木さんのいいところは、尊厳死とか、老いとか、性とか、南北問題だとか、そういった「大きな」問題をきちんと見つめながら、それでも決してその「大きな」問題に対する判断を下そうとしないことだと思う。判断を下す必要がないからではない。ただ、それは小説がするべきことではないから。 南木さんは、あくまで人の生活を書く。医者の生活がたくさん描かれているのは当たり前なのだけど、それと同時に、彼がみたたくさんの人々の生活も描かれる。そして、その場所から、「大きな」問題をじっと見つめる。そこから見ると「大きな」問題はとても遠くに見える。でも、だからといって、南木さんは目を逸らしたりはしない。ただ、その距離をじっと測る。そのままで、自分の生活を続ける。 柔らかい淡々とした文章は現在に至るまで一緒。まだ若さが見えますが、その若さゆえの軽やかな会話文がとても魅力的です。南木さんを初めて読む人にも、最近のを読んだ人にもお勧めです。

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