暗殺百美人
『暗殺百美人』は、飯島耕一による作品。bunkamura-deux-magots-literary-awardの受賞作として知られ、作者の関心や表現の特徴を示す一作である。
作品情報
飯島耕一の表現世界を伝える『暗殺百美人』。
『暗殺百美人』は、飯島耕一による作品。bunkamura-deux-magots-literary-awardの受賞作として知られ、作者の関心や表現の特徴を示す一作である。
書籍情報
- 出版社
- Gakken
- 発売日
- 1996-10-01
- ページ数
- 214ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784054007666
- ISBN-10
- 405400766X
- 価格
- 109 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
第6回(1996年) Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
レビュー
-
われわれは二つの時間を”またぐ”ことで生をまっとうする存在なのだろう
「小説はこの二種類の時間(「詩的な輝かしい時間」と「空しく流れ去る瞬間」)を統一できるのではないか」(ミシェル・ビュトール)。ここから、この小説は出発しているのではないか、と当たりをつけてみる。これは飯島の1966年の文章(「ブルトンの小説観」)に引かれている。ブルトンは、「詩的な輝かしい時間」のみに価値を置いて、「空しく流れ去る瞬間」を“描写”することを嫌って「ナジャ」を書いた。これに対して、「空しく流れ去る瞬間」をも救出するという立場で書こうとしたのが『暗殺百美人』だったのではないか。この長編小説は1994年に書かれたものだから、もしこの仮説が妥当だとすれば、飯島はこれを30年近くに渡って熟成させたことになる。だから、飯島はブルトンを否定しているわけではない。現に、この小説は“ナオミ”という彼にとっての“ナジャ”をめぐっての物語でもある。「闇の中に濃い緑が匂った」のだ。「序章」の冒頭に置かれた、いわば「序詩」によって大方の見当をつけることができる。「二百年前のノルマンディー」と幕末明治の血なまぐさい歴史的事実がもたらす覆った宝石のきらめく時間と1994年の東京の腥いのらりくらりした日常的な瞬間がふいに解剖台上で出遭うことによって起こるシュルレアルなまたトタリテな新鮮な現実の出来を狙った小説であることが。「明治二十五年、浅草十二階の凌雲閣で、当代美人の写真投票が催され、百美人が選ばれた」こと。8頁目に登場する本編の主人公「脱色金髪の三十四歳の青年」の名が明かされるのは、ようやく48頁目であること。ナオミの弟の良夫は坂本龍馬からとって“りょうふ”と呼称すること。彼らのホテルには、何の前ぶれもなく「灰色の南軍兵士の金髪もブラウン」も現れること。そして“ナオミ”は第二章あたりからちょくちょく姿を消しはじめ、最後には世界の果てに消え去ってしまう。しかし、そこからはじまるものをも示唆してしょうせつはいったんおわる…。