星新一 一〇〇一話をつくった人
星新一の生涯と創作を膨大な資料と取材で追い、日本SFとショートショートの成立を描く評伝。
作品情報
星新一:一〇〇一話をつくった人は、評伝を軸に読者を作品世界へ引き込む。
星新一の生涯と創作を膨大な資料と取材で追い、日本SFとショートショートの成立を描く評伝。 受賞歴により再注目され、現在も著者の代表的な仕事として参照される。
レビュー要約
-
題材への切り込み方と読みやすさが評価されている。一方で、扱うテーマの重さや独特の語り口に好みが分かれる読者もいる。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2007-03-01
- ページ数
- 571ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 20 x 14 x 4 cm
- ISBN-13
- 9784104598021
- ISBN-10
- 410459802X
- 価格
- 2980 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
第28回(2007年) 日本SF大賞受賞
レビュー
-
星新一という人
星新一。説明は要らないだろう。ショートショートを確立した人である。 新一は星製薬の創業者の息子である。父親の星一は、20歳で渡米し、コロンビア大学を卒業している。アメリカでは野口英世と出会い、親友になっていた。 その後、星製薬を設立する。経営はうまくいき、世界的な製薬会社になっていく。経営を多角化し、化粧品や食料品の店も出した。星製薬商業学校(後の星薬科大学)という学校まで創立していた。 そんな父を持った新一は、国語は得意だったが、意外なことに作文の評価は低かった。文章は短いものばかりで、感情表現はほとんど入れなかったという。思えば、この頃から後のショートショートの名手としての片鱗を見せていたのかもしれない。 そして新一が中学生の時、太平洋戦争が始まる。そんな中、理系科目が得意だった新一は東京高等学校に進学する。しかし、戦争の影響で授業は減らされる。代わりに軍事訓練や勤労動員が行われたのだ。徴兵検査では合格になるが、理系だったため徴兵猶予となった。 そして新一は東大農学部に進学する。大学ではペニシリンについて研究していた。卒業後は役人になる予定だったのだが、星一の意向で星製薬の営業部長になる。しかし、その後星一は亡くなり、新一は会社整理を始めることになる。 私は星新一に経営の才覚がなく、星製薬を潰してしまったのだと思っていたのだが、星一が生きていた頃から星製薬にはかなりの借金があり、倒産するほかなかったということのようだ。 新一は星製薬の社長だったが、その後副社長に降格され、する仕事がほとんどなかった。そのころから小説を書き始めた。同人誌「宇宙塵」に掲載した「セキストラ」が評判になる。雑誌「宝石」にも転載され、江戸川乱歩が手放しで褒めていたようだ。 その後の作品「ボッコちゃん」では、すでに星新一特有の文体、リズムができ上がっていた。それでも、最初のころは作品1つ書いて80円(ラーメン2杯分)にしかならなかった。だが、その後直木賞候補にもなり、ショートショートの先駆者となっていくわけだ。 印象に残ったのが、星新一の「健全な常識があってこそ常識の枠を取り外した意表を突くアイデアが生まれる」という言葉である。翻訳でも同じことが言えると思う。まず「カタ」をしっかりと身につけた後で、初めて「型破り」な仕事ができるようになると思うのである。基本的な「カタ」を身につけずに自由にやろうとしても「形無し」で終わるだけである。 結婚もして、作家として順調に歩む新一。スランプもあったようだが、そこを乗り越えてショートショート1001編という偉業を成し遂げる。そんな星新一の人生を読みやすい筆致で描ききったこの伝記。5つも文学賞を取ったのもうなずけた。面白い読書であった。
-
星氏の苦悩・・・ファンとしての悔しさ・・・
この本は、ショートショートの第一人者でありながら、ご本人亡き今も随一の作家である 星新一氏の生涯を氏が遺した大量の「資料」と関係者への取材を元に、ルポライターの 最相氏が精魂込めて纏め上げたものでありますが、氏の作家デビューが日本のSFジャンルの 誕生と発展に大きく関わっている為、氏の生涯と平行して日本におけるSFジャンルの黎明期 を詳細に知ることが出来、それがこの本の評価を高めている要因の一つとなっています。 ここからは私の個人的な感想なのですが、 今尚これほどまでに読まれ続ける氏の作品が、文学界では一向に高く評価されないことに 驚きました。そして、氏は苦心しつつも非常にストイックにショートショート1001編の 創作に作家としての人生注ぎ込みます。この流れが私としては、結果的に氏をショート ショートに縛り付けてしまったのではないか?と思えてならないのです。 もし文壇において、早い時期に少しでも高く評されていたら、氏はショートショートに 縛られること無く、その才能を発揮した長編や伝記もの等をもっと多く遺したかもしれ ない・・・。そう思うと、ファンとして非常に悔しい気持ちが湧き上がります。 未読の方は、氏の「明治の人物誌」「アシモフの雑学コレクション」「声の網」辺りを 是非読んで頂きたい。氏の文章の上手さや、驚異的な未来への先見性を垣間見ることが 出来ます。
-
知られざる星の素顔
本書はその星新一の生い立ちと父親,生涯つきまとう星製薬との関わり,そして作家’星新一’と日本SFの誕生とその生涯をまとめた多くの証言と資料に基づいた評伝であり,傑作である.星新一の作品はショートショートを問わず長編やドキュメンタリーでも,簡明な文体に醒めた視点が特徴であり,私はその作風から長年,飄々とした印象を持っていた.確かに,SFファンにとっては宇宙塵やSF作家クラブなどの例会における星の言動はよく知られていたことである.しかしながら,本書では確かに星のそのような面があったことを述べながら,それとはまったく異なる星の一面を描いており,それは私にとっても大きな衝撃であり,それは多くの他のファンも同様ではないであろうか. そもそも,私が星新一のショートショートに出会ったのは小学生であり,やがて星から離れファンタジーやサイバーパンクに移った.星を読まなくなったのは,この作家は子供向けであるというイメージがどこかしらあったためであろう.星の作品には血湧き肉躍るわくわく感や男女の機微はなく,思春期の少年には物足りなかったろう.また太宰や三島のような高尚な文学とも感じられなかった.とはいえ,書店では平積みも多く大変売れていたという印象がある. しかしながら,本書はそれこそが星の苦悩であったと指摘する.確かに売れ続けてはいても,所詮は子供向け,ただのエンターテイメントと見下され,かつては直木賞の候補にもなったが受賞できず,その後もほとんど賞らしき賞はなく,文壇に認められぬことを愚痴り,苦悩していたことは,一般的に星の作品から受けるイメージとはまったく異なるものである.名誉や評価を欲した醜さ,そして晩年の作品の生き残りをかけた手直しは,ほとんど妄執ともいえる執念を感じるのである. まったく「人間を書いていない」と言われた星の,なんと人間的であることか! 作品から読み取ることのできぬ作家の素顔,それは星が書き手として一流であることの証である.しかし,本書で明かされたその素顔との差はあまりにも大きい. 今,あらためて『最後の地球人』(『ボッコちゃん』収録)を読み直してみた.物語のラスト,聖書から引用した「光あれ!」という言葉を原稿用紙に記したとき,星は何を思ったか.SFが遂に文学として認められる未来を見たのだろうか.
-
高校生の頃の抱いたイメージ
みなさんがよく書かれているように、読書生活の過渡期に私も読みました。 私は、単に読書が嫌いだったので、周りからどう言われようが自分から読書を積極的にしようとは思っていませんでした。読書は、学校での読書感想文のためにするものと認識していました。 でも、本音のところで読書がいかに人生を豊かにするかもなんとなく感じていた(実際は、受験のために読書も必要みたいな...)頃、たまたま兄の本棚で「声の網」を見つけました。そもそも、長い文章を読めなかった私は、その短さがえらく気に入りました。その後、この一冊を起点としてほとんどの彼の文庫を読みました。中には、いえ結構よく分からずに読んだものも多いです。たぶん、読み始めて何冊かになった頃には、数をこなしている自分がえらく読書をたくさんしている気分になっていたのでしょう。 結果、彼の長編も読めるようになり、さらに他の作者の通常の中編や長編もだんだんと読めるようになったとき、自覚しているか否かは別にして、自分以外の思考を知ることの楽しさを発見したようです。 ですから、星新一とは、私を読書の世界へ導いてくれた方なのです。そしてまた、本書を読み、他の方がおっしゃっていたように、いまだに残るダンボールに詰め込められたままの彼の文庫本を読んでみたいな、と思っています。 最後に、おそらくこれはこの本に対する書評ではありません。本としては、私にはあまり読みやすいものではありませんでした。だからの「☆3つ」です。 ですが、基本的に私は本で語られる本質に焦点を当てているつもりなので、本書の著者についてはそれほど大きな影響を受けません。もちろん、私の常で誰が、そしてどんな人が書いたのかなど著作に至る背景を求めたりしますが。私の頭の中では、星新一についてのイメージを、本書に書かれたこと(特に、事実の箇所)をヒントに広げて創造(想像?)していることに喜びを感じているのです。 本書を書かれた最相 葉月さんに、私の読書の原点に回帰させて頂けたことをただ感謝するのみです。ありがとうございます。
-
内容も非常にいい。
星新一の人となりもよく分析してあるし、面白い。どうして、星新一という得意な作家が生まれたのか分かった。
-
正統的伝記
15年くらい前の作で当時話題になり大佛次郎賞などもとったが、私は星新一が面白いと思ったことがないので読まなかった。先日星の『祖父・小金井良精の記』を読んだら面白かったのでこれも読んでみた。他のレビューにあるように最初のほうは父星一とその周辺についてくどく書いてある感じがして退屈したが、後半になると普通の伝記になった。東海村とか、小松左京相手のブラックジョークなどは、知らない側面だった。しかし「平成」で西暦表示をしないのは困る。あと「太陽の季節」の主演は石原裕次郎じゃないが、これは文庫では直っているのだろう。星新一にも、最相にも嫉妬を感じつつ読んだ。
-
思春期、いろいろお世話になったあの人のリアル・ライフ
星新一を読み出したのは5年生の頃で、気に入ってからは乏しいお小遣いで毎月のように文庫本を買った。 ネットのどこかのページに、星新一が不幸なのは、多くの読者にとって彼の作品が通過点であったことだという記述があったが、わたしも、彼を足がかりに、筒井康隆や小松左京、海外のSF作品と出会ったのだが、高校生になると星新一のショートショートは全く読まなくなった。1001話のニュースを知ったのは、社会人になってからだったかなあ。その後は、ほとんど情報がなくて、90年代に噂の真相のページのはじっこに二度ほど悲しくなるような記事を目にして、数年後、訃報となる。 本作品は、星新一の生い立ちから亡くなるまでを詳細に綴ったもの。星製薬の二代目となったが、結局、うまくいかず、作家へ転身するまでの経緯は、これまで、星製薬の初代社長であった彼の父に関する作品「人民は弱し官吏は強し」(読んだ後、この作家はこんな作品も書けるんだ。何故、こういう方向の作品をもっと書かないのだろうと思った記憶がある。)や、星新一によるエッセイの一部にしか記述されていなかったが、これが詳細にわかる。また、晩年、特に、1001話から亡くなるまでも詳しい。 60年代から70年代にかけての、筒井康隆、小松左京、星新一、豊田有恒、タモリなどのメンバーによる交流の様子は、筒井康隆のエッセイによく描かれていて、非常におもしろおかしく、その関係が晩年も続いていたのだろうと思っていたのだが、決してそうではなかったようで、とある賞を受けた筒井康隆に投げかけた星新一のセリフは、衝撃的であった。 思春期、いろいろお世話になったあの人。また、会いたい。そう思っていたのに、気が付いたら亡くなっていた。で、会わなくなった後、いったい、どうしてたの。というのが、やっとわかったような、本でした。
-
星新一という人物
星新一の物語に一度ならずとも触れたことがある人は多いのではないでしょうか。 親しみやすく、普遍性をかねそろえた物語。ついと読み進めてしまう。 そんな星新一の生涯を精緻に追い纏め上げたのが本書になる。 その人柄と作品への影響などなどに思いを馳せる。
関連する文学賞
- 講談社ノンフィクション賞 第29回(2007年) ・受賞
- 日本SF大賞 第28回(2007年) ・受賞