鳳凰の船
明治初期の函館を舞台に、洋式帆船造りの名匠だった続豊治をはじめ、北海道開拓期を生きる人びとの逡巡と決意を描く短編集。表題作では、失われた造船への情熱が若い船大工との出会いで再び動き出す。
作品情報
江戸の残影が残る函館で、老船大工の胸に消えた火が戻る。
双葉社から刊行された五編収録の短編集。表題作「鳳凰の船」のほか、明治初期の函館や北海道開拓史に関わる人物を描き、第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞の対象となった。
レビュー要約
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開拓期の北海道を背景に、歴史上の転換点に立つ人物の悔恨や決意を丁寧に掬う作品として読める。派手さよりも余韻と土地の空気を重んじる短編集である。
書籍情報
- 出版社
- 双葉社
- 発売日
- 2017-08-17
- ページ数
- 248ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784575240542
- ISBN-10
- 4575240540
- 価格
- 900 JPY
- カテゴリ
- 本/歴史・地理/日本史/明治維新
箱館にて、かつて洋式帆船造りの名匠と謳われた船大工の続豊治。 だがある不運から、豊治は一介の仏壇師として20年余りを過ごしていた。 そんな豊治を伊豆の船匠・上田寅吉が訪ねる。寅吉との対話により、 齢七十を過ぎた豊治の胸に船造りに賭ける熱い想いが再燃する――表題作。 江戸の名残が色濃い、明治初期の函館を舞台に描く五編。 文芸評論家・縄田一男氏、激賞! 【2017年度時代小説ベスト10 堂々の第一位!】 この一巻は遂に刊行された作者の真価を問う名短編集だ。 舞台は、江戸から明治へと姿を変えていく北海道は函館で、 その二つの時代の狭間を生きた人々の思いを、 これ以上推敲の余地がないほどの切り詰めた文章で描いている。 ――「本の雑誌」2018年1月号
1968年北海道生まれ。千葉大学仏文科卒。 「寿限無~幼童手跡指南 吉井数馬」で2008年第30回小説推理新人賞受賞。 受賞作を収録した『吉井堂 謎解き暦 姫の竹、月の草』でデビュー。
レビュー
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函館をつくり、育てた維新後の人々
、函館でくらしたことがあるだけに、北海道の 中心だったころの函館の街、 異人館並ぶ地域を思い浮かべあの街の持つ空気を思い出した。 北海道のなかでもどこか本州にちかい歴史感じる街の原点がわかる。
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難しいと思いきや
歴史に疎い私でも理解して話に入り込めました。函館に行きたくてたまらなくなります。
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学校では習わない函館の庶民の歴史
函館は私の故郷。懐かしい古い地名が出てくるので、観光地化していなかった子供の頃の函館を懐かしく思い出すとともに、ガルトネルブナ林や七飯町やお寺の由来がよく分かりました。
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いい加減な書評だった
書評につられて購入したが、なんでこんなべた褒めな書評が載ったのか。今後気を付けよう。
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異人との関わりを切り口に、明治初期の箱館(函館)に生きる人びとの心のひだに深く入り込んだ作品
明治初期の箱館(函館)を舞台とした短編集。 幕末に洋式帆船を作った元船大工、お雇い外国人の妻となった女、藩閥政府の高官、英国商人の邸宅で働く孤児の女中、港湾技師と、主人公は性別も立場も様々。 開港地として急速に都市化する町並み、異国情緒と、そこかしこに匂いを残す江戸の風情。著者が描く箱館は、実に魅力的だ。 登場人物の心情の描き方も細やか。この点では、最後の「彷徨える砦」が、男女の機微を切なくとらえていて秀逸だった。 ブラキストン線にその名を残したブラキストンの紙幣事件や、ガルトネル開墾条約事件などの史実を初めて知ることができたのも収穫。
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北海道開拓の濃密な時間を、美しい文章で綴った素晴らしい短編集
『楡の墓』で、すっかりこの作家のファンになってしまった。何よりも美しく正しい文章による正統派の小説作品であること。読んでいて心地よい日本語なのである。言葉とはかくも素敵なものなのか。改めてそう思わせてくれる作家は、実はそう多くないので貴重である。 さらに素敵なのが、北海道開拓をテーマに、多くの魅力ある歴史上人物に焦点を絞り、彼らを生き生きと作品世界の中で蘇らせてくれる希少な作家であるということ。北海道生活に身を置くものとしては、この世界の未だ短い歴史はとても身近であり、とても心惹かれるテーマなのである。 実はこの短編シリーズは、三冊完結となっているらしく、まさに今月、第三冊目の新作単行本『小さい予言者』も発刊となる。まさに突然のマイブームとなってしまったのがこの浮穴みみという一風変わった名前の作家であるのだ。 『鳳凰の船』は船大工である続豊治と上田寅吉を主人公の邂逅の時間を描くタイトなストーリーだが、彼らの会話を通して、旧幕府と新政府に分かれ、津軽海峡に西洋式軍艦を船出させ、運命を分けた時代や世相、そしてその狭間で船造りを学び仕上げる船大工という存在の責務と苦しい立ち位置が、痛いほどに伝わる一篇である。 『川の名残』は、ブラキストン、エドウィン・ダン、ジョン・ミルンと言った函館と北海道開拓にゆかりのある外国人たちと、彼らに関わったり妻となったりした日本人女性たちの姿が描かれる。思い出と共に消えていった川の姿を通じて、札幌に創成川を通した『楡の墓』の大友亀次郎の姿も浮かび上がる。どの作品も同じ地平で繋がっていることがわかるのだ。 『野火』は、『楡の墓』中の短編『貸女房始末』で札幌の焼き払いを行った北海道庁初代長官・岩村通俊を描きつつ、七飯村で西洋農法モデルを試行したプロシアのR・ガルトネルによる果樹園という新しい未来が登場する。ぼくの住む町当別町でも、様々なリンゴ農法が試行錯誤されてきた歴史が記されているが、北海道の原野を新しく拓く気概を描いた印象的な一作である。 『函館札』は、またもトマス・ブラキストン。本州と蝦夷の地の間・津軽海峡に動植物の生息域を分ける境界線としてブラキストンラインを提唱した学者でありながら、実はイギリス商人であった彼の、経済学的才能と、その皮肉な結末を示す一篇である。 『彷徨える砦』は、弁天台場を取り壊すミッション下で悩む函館港湾改良工事監督・藤井勇の物語。クラブサン(チェンバロ)の音色が心に残る恋愛小説的側面も持つ美しい一篇である。 明治維新という名の世界転換。そして舞台は北海道という未開の大地。巨大な変革とドラマティックな舞台と背景を基にして、人間の個の魂を描く傑作短編集、その第一弾が本書である。是非とも濃密な読書的幸福の時間を味わって頂きたい。
関連する文学賞
- 歴史時代作家クラブ賞 第7回(2018年) ・受賞