作品情報
不毛の火星で、護送任務は異形の襲撃によって闇のバラードへ変わる。
角川春樹事務所から2003年に刊行された上田早夕里のデビュー長編。小松左京賞受賞作として発表され、のちハルキ文庫版 ISBN 9784758433723 も刊行された。
レビュー要約
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心理描写とエンターテインメント性の均衡が持ち味として語られている。火星の不穏な舞台とサスペンスが、デビュー作らしい勢いを生んでいる。
書籍情報
- 出版社
- 角川春樹事務所
- 発売日
- 2003-11-01
- ページ数
- 392ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784758410212
- ISBN-10
- 4758410216
- 価格
- 649 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
第4回(2003年) 小松左京賞受賞
レビュー
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Dark end
また、特殊能力を持つ人が、不幸になった。
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エンタメ作品の奥に感じる作者の思い
最近『リリエンタールの末裔』を再読したので、同じ著者のデビュー作である本書を初めて読みました(私のは2024年1月発行の第二刷.ちなみに第一刷は2008年10月発行).タイトルが最高.私は光瀬龍氏の『東キャナル文書』が好きだったので、ツボにハマりました(『東キャナル文書』には『火星人の道Ⅱ調査局のバラード』という短編が入ってます).中身は火星の大都市(環境が地球化されている)を舞台にした活劇です.ストーリーはテキパキと無駄なく進行し、約520頁と割と長いのに一旦読み始めたら読者を掴んで離さないドライブ力はなかなかのもの.文体は丁寧かつ簡潔で清潔感ありますが、少し生硬さも残り、また登場人物もやや類型的ですね.バイオテクノロジーによって超常能力を持った美少女、少女の育ての親でもある所有欲の強い研究部長、その秘密計画に触れた為に罠に嵌められた一匹狼の刑事、少女を巡る愛憎感情と取引交渉、エスカレートする暴力と破壊、など、そのプロットにはなんとなく吉田秋生さんのマンガ『BANANA FISH』『YASHA-夜叉-』『イブの眠り』の構成要素がうまく小説化されたような感もします.本書は、誰もが楽しめる優れたエンタメ作品と思いますが、しかしその奥には「自分のやりたいことを、やりたいようにやれ」など、作者の生の心がそのまま記されたような箇所もあり、温かみを感じます.
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文庫をはやく読まなくちゃ…
「小鳥の墓」(『魚舟・獣舟』所収)を読んで、 この主人公が重要な脇役になっているという 『火星ダーク・バラード』をはやく読みたいと思った。 この作品の中で、人はぽきぽきと折られ、くしゃっとつぶされる。 しかし人々の感情の動きはしっかりと描写されているので 熱く生々しく、それなのに機械のように冷たく、もう、なんだかわからない。 綿密に計算された、世界。 それなのにラストは、単行本と文庫で違うらしい。 それじゃまったく別の作品ではないか。はやく読まなければ。
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アデリーンの物語
「魚舟・獣舟」もそうだけど、読ませられます。 自分は女性のせいか、アデリーンという、遺伝子改変技術で生まれた少女の、自立と恋の物語として読んでました。話の骨格は火星で起きた不可解な事件、幾多の妨害を振り切りながら、事件の濡れ衣さえ着せられながら、事件の真相を追う水島が主役といえば主役だと思いますが。個々の人物がそれぞれの傷を抱いて選んだ現実がぶつかり合い、結末になだれうっていくさまがいいです。 SF+ハードボイルドといえばそうかもしれないけれど、むしろ連続殺人犯のジョエル・タニの幼少期を描いた「小鳥の墓」のほうがよりハードボイルドな気がします。 ラストが少し自分の好みと外れるので星一つ減らしましたが、文庫版は小松左京賞の作品にかなり改稿を加えておりラストも違うようなので、元の作品と読み比べてみたいです。
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火星を舞台にしたSFで、アクションあり人間ドラマありの楽しい小説
舞台は人類が移民した火星。殺人犯を列車で護送していた治安管理局の水島は、猛獣に襲われるような幻覚を見る不思議な事件に遭遇した。その騒動で水島のバディである神月が射殺され、護送していた殺人犯は逃亡していた。水島は治安管理局から神月殺害の疑いをかけられ、真実を明らかにするために奔走する。事件の裏側には、総合科学研究所が研究している“プログレッシヴ”が大きく関与している。プログレッシヴは超共感生を持っており、他人の心を読み取るようなことや、人・物を考えた通りに動かすことができる。プログレッシヴのアデリーンは水島が事件に遭遇した列車に乗車しており、アデリーンは水島を探し、水島は事件の真相に迫るために行動を共にする。後半はSFというよりアクションがメインになる。水島のマッチョな行動とアデリーンの特殊能力を使いながら、人間の尊厳を問う行動に至る。火星都市の破壊などスケールも大きい。文句なしに楽しめる。
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テンポの良いSF活劇
40間近の不器用な刑事と遺伝子改良によって生み出された新人類の少女、女性しか殺さないシリアルキラー、無人の建設機械による都市開発がすすむ火星の情景。わくわくするような要素が揃った作品で、かなり期待して読み始めました。 近未来の火星を舞台にしたSF活劇ですが、いわゆるテラフォーミングの描写などがしっかりしていて(作中では惑星の一部だけを改造するパラテラフォーミングと呼ばれる技術になっています)、ファンタジーのようになっていないのも好みです。フォボスが観光資源となるために残されているという設定がそれらしくて面白いと思いました。 しかし、通読するとSFの設定は思ったより生かされなかったなというのが率直な感想です。特に「一人では能力を発揮できない」「火星の生物の遺伝子を組み込んでいる」「嫉妬や羨望が無い」というプログレッシブ(新人類)の特徴は、もっとそこから展開するのかなと思ったのに深く突っ込まれず、勿体なく感じました。 処女作という事で、描写にもちょっと無粋なところがあると思います。全体的に行間や文脈というものをあまり使っておらず、人物の内面などを言葉で描写しすぎなきらいがあり、野暮だな〜と思ってしまった箇所もいくつかありました。逆にそういった言外の意を汲み取るタイプの作品が苦手な方には読みやすく感じる点だと思います。 また、登場人物達が自己犠牲的・同情的な行動をとる場面がちょこちょこあって、少し安易に感じました。男性キャラクタは多数登場しますが、どこか「男性不在」というような印象が残りました。 マイナスの面ばかりあげてしまいましたが、テンポが良く、雰囲気もある作品です。 クライマックスの思い切った大仕掛けはSFならではのスケールの大きさで、一読に値するアイディアだと思います。 文章は平易で読みやすいように工夫されていますし、過剰な暴力や性的表現もなく、間口の広い作品です。
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宇宙と犯罪と人の可能性
パラテラフォームと軌道エレベータという、何だか実現しそうな火星未来都市が舞台。地球から月、スペースコロニー、火星と、徐々にスペースノイド化していく背景がしっかり見えた。 連続殺人鬼とはみだし刑事の緊迫した場面から始まる。SFとハードボイルドは、アシモフの「鋼鉄都市」やディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」でもおなじみのように相性がいいのだ。 本作のもう一つの工夫は共感能力というワンクッションおいた超能力。自分の意志で発揮するサイキック能力ではなく、自分以外の意志をサイキック能力として発現させるというものだ。だからだれかと関係せざるを得ない。ペアを組まざるを得ないのだ。設定として非常に巧妙だった。 なのに、アデリーンの共感力がだんだん普通のサイキック能力に変化してしまったのは残念だった。 なんでもかんでもめでたしめでたしって訳にはいかない文庫本結末には納得。
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読みやすい
途中から、引き込まれていき一気に読めます。 私が読んだ文庫本と、単行本のラストは違うようですが、単行本も読んでみたくなります。
関連する文学賞
- 小松左京賞 第4回(2003年) ・受賞