日本国憲法の普遍と特異 :その軌跡と定量的考察
七十年以上改正されていない日本国憲法を、世界の憲法との比較から読み解く比較政治学の研究書。憲法の条文内容、改正の頻度、統治制度を定量的にたどり、日本国憲法が持つ普遍性と際立った特徴を検討する。
作品情報
長く改正されない日本国憲法を、世界の憲法との定量的比較から捉え直す。
世界の現行憲法と比べても例外的に長く改正されていない日本国憲法について、歴史的な形成過程と条文の構成をデータから検証する。人権の規定と統治機構の設計、緊急事態条項、選挙制度を論じながら、憲法が社会に応答し続けるための課題を考える。
書籍情報
- 出版社
- 千倉書房
- 発売日
- 2022-07-01
- ページ数
- 216ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 21.5 x 15.5 x 2 cm
- ISBN-13
- 9784805111215
- ISBN-10
- 4805111216
- 価格
- 3520 JPY
- カテゴリ
- 本/社会・政治/政治/政治学
75年間、一文字も変わらない世界でも希な憲法典。そのことにどのような意味があるのか、そこに問題はないのか、各国憲法との定量的比較により検証する。 【2022年10月 第34回「アジア・太平洋賞 特別賞受賞」】【2023年10月 第44回石橋湛山賞 受賞】
著者:ケネス・盛・マッケルウェイン(Kenneth Mori McElwain)東京大学社会科学研究所教授 1977年アイルランド生まれ。米プリンストン大学卒業。スタンフォード大学大学院政治学博士課程修了。ハーバード大学日米関係プログラム研究員、ミシガン大学准教授などを経て2015年から現職。専門は憲法の制度設計、 選挙法、比較政治制度、政党政治。本書が初の単著となる。
レビュー
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既存の憲法分析とは一線を画す、世界の900以上の成文憲法データからの日本国憲法分析
従来の日本国憲法の議論(護憲改憲)ではなく、世界の憲法のデータに基づいて、整理してグローバルスタンダードの視点から、日本国憲法の先進性と改正提案を提示していることは、憲法研究の新しい方向性を示していると言える。多くの図及び表は日本国憲法と世界の憲法を理解するするのに有益である。また、日本国憲法の入門書は無数にあるが、条文の説明を主とした憲法学者の図書とともに、比較政治学者によるこのような図書から日本国憲法をまず学ぶことも、日本国憲法や世界の国家像を理解する観点からも推薦したい図書である。
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日本国憲法をめぐる研究に新しい風を吹き込む一冊
古今東西の約900に及ぶ成文憲法との比較を通じた、定量的な視点から日本国憲法を考察するという何とも大胆な本である。ただし本書はデータを羅列しただけの素っ気無い本などではなく、もはや世界で最も古い未改正の憲法となった日本国憲法の考察する上で肝となる論点から鋭い分析を行なっており、非常に読みやすい内容となっている。 本書では、日本国憲法の最大の特徴を、人権に関して多くの文言を費やす反面、統治機構(政治制度)の規定については法律に委ねており、政治制度はむしろ柔軟性が高いことから、他の憲法に比べて、改正の必要性が構造的に低いことにあると主張している。同時に、世界的に新しい憲法ほど人権を保証する傾向があることから、日本国憲法は時代に取り残されているどころか、逆にグローバルスタンダードが日本国憲法に近づいていると指摘しており、大変興味深い。実際、人権が多く明記されている憲法ほど、長続きするらしい。これらを他の膨大な数の憲法との比較を通じて検証しているところが本書の醍醐味となっている。 一方で本書は、改正の必要性が低いことは必ずしも改正が望ましくないことと同義ではないとし、日本国憲法の改正の方向性について主にその選挙制度を中心に、踏み込んだ議論も行なっている。ただし、その議論も非常に客観的で腑に落ちるものばかりである。 日本国憲法をめぐる議論に興味がある人はぜひ目を通しておくべき本である。
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憲法の計量比較分析というアプローチは面白い。しかし議論は都合のいいものだけを取り上げているきらいがある
本書は、日本国憲法を他の憲法との計量分析によって議論しようという興味深い試みをしている本である。 比較データとして用いられるのは、英訳した際の文字数や用語の出現頻度、制定年からの期間や改正回数などである。 まず、憲法は改正を伴わないほど寿命(再制定までの期間)が短くなりやすいにもかかわらず、日本国憲法は改正されずに長生きという顕著な例外となっている(類例はデンマークぐらい)、という点を「謎」として提起する。 筆者は最終的にはその答えとして、日本国憲法は他の憲法と比べて非常に短い(法律での既定に委ねる項目が多い)こと、人権規定については充実していること、の二点を提示している。 前者は特に統治機構について大きく、他国では憲法改正を伴うような変更(選挙制度や地方自治関連など)が法律の改正のみで出来ることは、憲法改正の必要性を下げているとする。 後者については、まず日本国憲法の人権規定は第一世代(自由権)はすべて、第二世代(社会権)や第三世代(友愛:少数民族・文化保護や平等)も半分前後含んでいる。日本国憲法制定当時はこれだけの既定を備えた憲法は稀だったが、時代が下るにつれむしろグローバルスタンダードが日本国憲法に近づいてきたと筆者は論じる。 個別の話題としては緊急事態条項と選挙制度が取り上げられる。 緊急事態条項については、自民党改憲案の規定は他国の規定に比べて制限が弱いと批判的に論じている。 また選挙制度については、一票の格差や選挙活動の強い制限の問題を俎上に上げ、これらについて憲法で反故を定めてもよいと提起している。 ただし選挙制度の話題は憲法マターという感じではなく(実際本書の他の個所で行われるような他国との比較も乏しい)、筆者個人の関心に基づくもので本書中ではかなり浮いていると感じる。 議論の仕方は面白いのだが、そもそものデータの選び方(何を測るか)と解釈とにいささか乖離があるように見えるものも少なくない。 一番重要と思えるのは、筆者の「日本国憲法の改正規定(両院2/3+国民投票)は特にハードルが高いわけではない」という議論であろう。筆者は「議会の半数よりも高いハードルを置く憲法」も「国民投票を置く憲法」もともに多いことを挙げてこれを簡単に論じて終わらせているが、ここにはいささかトリックがある。 例えばフランスの憲法は「両院の3/5の賛成(国民投票なし)」または「両院の過半数の賛成+国民投票」のどちらかで改正できる。イタリアの憲法は「両院の2/3の賛成(国民投票なし)」または「両院の過半数の賛成+国民投票」で改正できる。どちらか都合のいい方を選べばいいので、例えばイタリアの憲法は「日本国憲法の改正規定で国民投票の義務を削ったもの」よりもさらに改正しやすいものと理解できるが、しかし筆者の方法だと恐らくフランスやイタリアは「議会の過半数よりも高いハードルを置く」にも「国民投票を置く」にもカウントされるという、大いに実態に反した取り扱いを受けていると思われる。筆者は複数の改正手続きを置く憲法の存在は本分では無言及であり、これは怪しい議論の仕方だと言わざるを得ない。 また、同じ議会の人数にしても、小選挙区制と比例性の高い選挙制度(中選挙区や比例代表)、さらには一院制と二院制とでは改正障壁は大きく異なることはよく知られている。例えば レイプハルト はそうした点も考慮した憲法の硬度比較を行い、民主国家36か国中で日本は最高ランクの改正の難しさに位置づけられている。これに対し本書ではそうした点は考慮されている形跡がない。 他に気になった点としては ・「憲法改正」と「再制定」の区分の定義として、再制定の明言以外に「憲法改正規定が変化すること」を挙げている。これには実態としての意味があるとは思えない(日本国憲法で改正発議を3/4や3/5に変えることと、人権規定をごっそり削ることと、どちらが大きな変更かは言うまでもない)ので、統計処理のための便宜的な定義でしかないはずだが、筆者はこれに実体的な意味があるかのように取り扱っている(憲法再制定は禁じられている、という議論を紹介している)。 ・緊急事態条項は、文言よりも実際の運用の方がはるかに重要で、歯止めを置いていてもイタリアやスペインのように毎年多数緊急事態条項に基づく処置がなされる国もあるが、本書は文面に終始し海外の実際の運用の議論は何もなされていない。 ・憲法改正の項目別の意見分極化について、自民と非自民の間の賛否の差で意見分裂があるか否かを論じている。しかしこれは「その項目への賛否と自民/非自民との対立とが相関しているか」を示すだけで、自民/非自民とは関係ない方向に激しい意見分断がある場合にはなにも検出できず、意見分断の度合いを測る方法としては不適切であろう。 ちなみにそもそもの話としては、憲法が完全に無視されているような国(うわべの文言だけの憲法)を考察してもしょうがないので、すべての憲法ではなく民主国家だけなどに限定する必要はあったのではないかと思う(大枠の傾向は変わらないと期待したいが)。 全体として、アプローチは面白いのだが、自分の論に都合がよくなるようにデータやその解釈を引っ張り出している面も否めない、という風に思った。 しかし比較憲法の新しいタイプの議論であり、批判的な検討は必要だが、今後の発展は期待したい。
関連する文学賞
- 石橋湛山賞 第44回(2023年) ・受賞