日本の文学賞

文章を磨く 5 つの基本原則

余分な言葉を削る、能動態と具体名詞を選ぶ、リズムを整える、声に出して読む、最後に通しでチェックする。読みやすい文章のための 5 原則と、推敲時に使える 10 項目のチェックリストを、具体例とともに紹介します。

公開
2026-04-22
更新
2026-04-28
カテゴリー 基本の文章術

文章を磨く 5 つの基本原則

物語がどれだけ面白くても、文章が引っかかれば読者の足は止まります。 比喩や構成を磨く前に、まずは一文ずつを読みやすくすること。 ここでは、推敲で必ず見たい 5 つの基本原則と、提出前に通しで使えるチェックリストを紹介します。 ひとつずつ手を入れるだけで、文章の見え方は確実に変わります。

1. 余分な言葉を削る

書きはじめは、誰でも「念のため」の言葉を多く付けてしまいます。 意味の重なる言葉や、無くても文意が通る言葉は、思いきって削ってみてください。

Before After
何となく寒さを感じた 寒かった
その日の朝、彼はゆっくりと歩き始めた その朝、彼はゆっくり歩き始めた
とても多くの人が集まっていた 大勢が集まっていた
まさに彼女こそが、この物語の主人公である 彼女がこの物語の主人公だ
理由は分からないが、不安があった 胸の奥がざわついた

削ったあとに違和感がなければ、その言葉は本当に余分だったということです。 削れない言葉だけが、その文の骨格を支えています。

「削る」と言われても怖くて手が止まる場合は、次の三つを目印にしてください。

  • 「とても」「すごく」「かなり」「ちょっと」のような程度の副詞
  • 「〜ということ」「〜ということになる」「〜について」
  • 主語を二度以上明示している箇所 (一段落のなかで彼/彼/彼が三回出てきていないか)

これらは多くの場合、削ってもまったく意味が変わりません。

2. 能動態と具体名詞を選ぶ

「〜される」「〜という人物」「〜だと言える」のような遠回しな表現は、能動態と固有の名詞に置き換えると、文章に体温が戻ります。

  • 「彼は怒鳴られた」 → 「父が彼を怒鳴った」
  • 「ある花が咲いていた」 → 「桜が咲いていた」
  • 「強い感情が彼を支配した」 → 「彼は震え、息を止めた」
  • 「車に轢かれそうになった」 → 「軽トラックが彼の鼻先をかすめた」

抽象的な言葉ほど、読者の想像を曖昧にします。 「何が・誰が・どうした」 が読者の頭に像を結ぶよう、具体性を選んでください。

形容詞を動詞に置き換える

形容詞を重ねる文は、書き手の頭の中では強い情景に見えても、読者にはぼんやりと届きます。 形容詞のかわりに動詞を使うと、文章のなかで人や物が動き出します。

Before After
部屋はとても寒かった 部屋に入った瞬間、息が白くなった
彼女は悲しそうな顔をしていた 彼女は唇を噛んで天井を見ていた
街は活気にあふれていた 商店街では呼び込みの声が重なり、客の足は止まらなかった

読者が頭のなかで再現できる動きを差し出せると、形容詞は要らなくなります。

3. 文のリズムを整える

長い文ばかり、または短い文ばかりが続くと、読者は呼吸を奪われます。 3 文連続で同じ長さになっていないか、読み返してみてください。

雨が降っていた。傘を忘れていた。電車に乗り遅れた。

短文だけだと、世界が断絶して見えます。 ここに長めの文を 1 本混ぜるだけで、流れが生まれます。

雨が降っていた。傘を忘れたので電車を一本見送り、駅前のコンビニで一番安いビニール傘を買った。

長短の波が、読者を物語の中へ運びます。

同じ文末の形を 3 連続させない

リズムが単調に聞こえる原因のほとんどは、同じ文末形の連続です。

彼は歩いた。雨は降っていた。傘は壊れていた。

過去形「〜た」が三つ続くと、文章は事務的な報告書に近づきます。 ひとつを現在形に、もうひとつを体言止めや別の構文に変えるだけで、段落が呼吸を取り戻します。

彼は歩いていく。降りやまない雨。壊れた傘の先から、しずくが膝へ落ちた。

同じ要領で「〜である」「〜だろう」「〜のだ」も、3 連続したらどれかを差し替えてみてください。

4. 声に出して読む

書き手の頭の中では成立していても、口に出すとつまずく文があります。 推敲のときは、必ず一度、声に出して読んでください。読みづらい場所には、たいてい原因があります。

  • 同じ語尾が三度続いている (「〜だった」「〜のだ」が連続するなど)
  • 主語と述語が離れすぎている
  • 接続詞 (「しかし」「そして」) が多すぎる
  • 句読点の位置が不自然
  • 漢字が続きすぎて目が滑る (「状況確認資料作成」などの塊)

これらは黙読では見逃しがちですが、音にした瞬間に違和感として浮かび上がります。 スマートフォンの読み上げ機能に任せるのも有効です。書き手以外の声で聞くと、自分の癖がよりはっきり見えてきます。

5. 推敲チェックリスト

提出前に、次の 10 項目を一通り確認してみてください。 全部に丸が付かなくても構いません。気になった項目だけ手を入れれば、原稿は確実に前進します。

  • 同じ単語を一段落で 3 回以上使っていないか
  • 「〜こと」「〜という」「〜について」を機械的に使っていないか
  • 一文が 80 字を超えるとき、本当に切れないか確認したか
  • 比喩が意味を補強しているか (飾りで終わっていないか)
  • 主語の省略が読者を迷わせていないか
  • 段落の頭で場面・視点・時間が読者に伝わるか
  • 読み返したとき、リズムに息継ぎの場所があるか
  • 同じ語尾が 3 連続している箇所はないか
  • 形容詞が並ぶ場所を、動詞や具体的な動作に置き換えられないか
  • 冒頭の 3 行で、読者がページに留まりたくなるか

この 10 項目を毎稿確認するだけでも、文章の精度は確実に変わります。 書く力は、推敲で伸びる。 その自覚を持って、自分の原稿に向き合ってください。

コラム: 推敲は何回までやるか

「いつまで直していいのか分からなくなる」は、書き手の永遠の悩みです。 ひとつの目安として、推敲は次の 3 周で区切ってみてください。

  1. 1 周目: 構成の推敲。 場面の順序、章のつながり、不要な場面の削除を行う。
  2. 2 周目: 文の推敲。 ここで紹介した 5 原則を当てる。語尾、リズム、語の重複に手を入れる。
  3. 3 周目: 音の推敲。 声に出して読み、つまずいた箇所だけを直す。

3 周を超えると、改善より書き換えに近づくことがよくあります。 直すたびに別の問題が気になり始めたら、いったん原稿を寝かせて翌日に見直す。 そのくらいで止めるほうが、かえって仕上がりが安定します。