大逆事件――死と生の群像
『大逆事件-死と生の群像』は、田中伸尚によるノンフィクションです。受賞対象として記録される作品で、題名が示すイメージと作者の関心を手がかりに、人物や土地、記憶、感情の動きを描きます。
作品情報
『大逆事件-死と生の群像』は、田中伸尚の表現を受賞作として伝えるノンフィクションです。
『大逆事件-死と生の群像』は、田中伸尚によるノンフィクションです。受賞対象として記録される作品で、題名が示すイメージと作者の関心を手がかりに、人物や土地、記憶、感情の動きを描きます。
書籍情報
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 2010-05-29
- ページ数
- 360ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 13.5 x 2.6 x 19.5 cm
- ISBN-13
- 9784000237895
- ISBN-10
- 4000237896
- 価格
- 392 JPY
- カテゴリ
- 本/ノンフィクション/歴史・地理・旅行記/歴史/日本史
日露戦争を経て韓国を併合し、植民地帝国と化していく大きなうねりの中で、天皇制国家が生み出した最大の思想弾圧事件「大逆事件」。巻き込まれた人びとの死と生、遺族の苦しみ、タブーをめぐって変容する社会意識、そして権力に抗う民衆の姿。100年もの時を経て綴られる群像劇が日本史の暗部を照らし出す。
田中伸尚(たなか のぶまさ) 朝日新聞記者を経て,ノンフィクションライター. 『ドキュメント憲法を獲得する人びと』(第8回平和・協同ジャーナリスト基金賞)『ドキュメント憲法を奪回する人びと』『ドキュメント靖国訴訟――戦死者の記憶は誰のものか』(以上,岩波書店),『教育現場に「心の自由」を!――「君が代」強制を問う北九州の教職員』(岩波ブックレット),『日の丸・君が代の戦後史』,『靖国の戦後史』,『憲法九条の戦後史』(以上,岩波新書),『これに増す悲しきことの何かあらん――靖国合祀拒否・大阪判決の射程』(編著,七つ森書館),『ドキュメント昭和天皇(全8巻)』(緑風出版),『国立追悼施設を考える』,『合祀はいやです.』,『不服従の肖像』(以上,樹花舎),『反忠 神坂哲の72万字』,『さよなら,「国民」――記憶する「死者」の物語』(以上,一葉社)など著書多数.
レビュー
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100年前の大事件はまだ終わっていない
大逆事件に関する日本人の平均的な知識は、たぶん、次のようなものではないだろうか。 「日露戦争後、明治天皇の暗殺を計画したという理由で、多くの社会主義者がとらえられ、幸徳秋水らは死刑になるという事件(大逆事件)もおこりました」(教育出版 中学 社会教科書)。 1910年5月25日、爆弾製造の疑いで長野県の宮下太吉ら4名が逮捕された(信州明科爆裂弾事件)。その後、この事件は大きく展開し、社会主義者・無政府主義者の根こそぎ検挙が行なわれ、結局幸徳秋水や菅野須賀子ら計26名が天皇の暗殺を計画した疑いで起訴された。大審院での非公開の公判は異例のスピードで進められ、1911年1月18には、死刑24名、有期刑2名の判決が下された。1月24日には幸徳秋水ら11名が、25日は菅野須賀子が処刑された。死刑を宣告された残り12名は、直前に無期刑に減刑された。その後、無期刑中に獄死したのは5名に及び、仮出獄できたのは7名に過ぎない。 敗戦後発見された関係資料により、暗殺計画に多少とも関係していたのは宮下太吉ら5名に過ぎず、残りの人々はでっち上げにより事件に巻き込まれ、刑死あるいは獄死し、また長期の刑を課されたことが判明している。 本書は、100年を経た大逆事件の関係者(被害者やその遺族など)を全国に訪ね歩き、現在と100年前とを交差させ、家族や地域に愛され、無念な死を遂げた人々とその背景を浮かび上がらせている。100年前の負の記憶のインパクトは大きく、いまだに誤った知識のまま、国民の大部分に刷り込まれている。その中で、かすかな希望は、被害者の出身地や所属した宗教団体で名誉回復の動きが生まれていることである。 権力によるでっち上げとしての大逆事件がわれわれの常識となるまで、大逆事件は終わらない。空恐ろしくなるのは、検察のシナリオを前提に取調べが行なわれ、それがそのまま裁判で採用されるというスタイルはこの大逆事件だけでなく、現在の特捜部の捜査にそのまま継承されていることである。本書は、現在も終わっていない大逆事件を鏡に、今の社会や政治を観るための良書である。
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真実の判断が及ぼす人の生涯
田中氏は新聞社出身のジャーナリストであるが、真実を追いかけてきた報道の自らの人生で 忘れ去られようとしている歴史の中に埋もれた人の人生の哀歓を鋭くえぐった快作である。 一世紀前の国家権力と司法の判断の誤りの中で有能な人の埋没と一族に及ぼした人生への影響が 噂話で語られる以上に重い影響を残してきたこと。今もそれに類した司法検察の判断の誤りが 続いていることに、実績主義で通過しようとする現代社会で、今一度立ち止まってこの人を裁く難しさを再度思いなおしていただきたい一冊であると思う。
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できそうで、できない労作です。
大逆事件の受刑者26名の、その後を追ったルポタージ ュです。わたしも著者がいうように、幸徳秋水や管野須 賀子な宮下太一などのことは知っていても、他の人達の ことの多くは知りませんでした。死刑12名とそして獄死 者、無事に出獄してからも周囲からの冷たい視線と、彼 や彼女らを待っていた過酷な運命が克明に記されていま す。中でも、岡山の森近運平の遺族が辿ったの道のはか なさには、胸が塞がれる思いがしました。 それだけに、無実を晴らすための復権運動の記録には 一層興味を引かれました。坂本清馬の再審請求が棄却 (このときの最高裁長官が、国際派で知られた横田喜三 郎というのにはやりきれぬ思いがしました。)された後の 弁護士森長英三郎の「これからは市民的な復権をやって いったらどうか」という言葉には、何にも代えがたい重み があると思いました。 著者は本書で、度々現在の冤罪との連続性を指摘して いました。ここには、現在まで続く国家権力と市民という 永遠の対抗関係の原型が刻まれていると思いました。 <付記>『世界』2011.3での著者との対談(「大逆事件 100年」)で、山泉進さんは布施辰治を例に、人・市民と しての権利をセンスとして磨くのに大逆事件は絶好の「鉱 脈」としています。含蓄のある言葉だと思いました。 (2011/03)
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国策捜査によるでっち上げの源流
2010年9月。折しも検察特捜部により「郵便不正事件」で起訴された厚生労働省村木厚子元局長(休職中)に対する地裁判決が下され、検察特捜部の主張したストーリーは虚構として完全に否定された。しかし、その直前、国策捜査によりねらい打ちされた鈴木宗男議員は外務省関連で立件出来ないため受託収賄で有罪判決となり、上告が棄却されて失職・収監が決った。これらの関係者による供述調書の作られ方はまさに本書の中にあった。 「大逆事件」は明治政府による思想弾圧であり、でっち上げであることが本書から容易に理解出来る。遺族や出獄者の悲惨な生活は悲痛の思いなしには読めない。ただ、平出修の業績や徳富蘆花の勇気を知り得る事は貴重だ。戦後に出獄者坂本氏による再審請求が棄却される経緯は、戦後の司法が戦前からの残滓を引きずっていることを明示している。マスメディアの追究不足は戦前戦後ともにいらだたしい。一部に被害者の名誉回復の動きが出ているのは救いだ。 著者は元新聞記者だけあって流麗かつ具体的な文章だ。しかし文中の姓名が初出だけ肩書があっても「上野」のように繰返されるのは分りにくい。おまけに活字が肉細の明朝体(引用は教科書体で区別しやすい)で、改行が少なく、小見出しもないので、活字の密集したページ面が多い。読者にとっては読むのに苦労させられる。 被害者など関係者の肩書付一覧表と関係を示す図表があればもっと読みやすく、分りやすかったと思う。