水の時計
脳死と診断されながら夜だけ目覚める少女・葉月が、臓器提供という選択に向き合う、切実な命のミステリ。
作品情報
生と死の境目で、少女が選んだのは誰かへ命を分けることだった。
第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作として2005年に角川書店から刊行。
書籍情報
- 出版社
- 角川書店
- 発売日
- 2005-08-25
- ページ数
- 400ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784048793018
- ISBN-10
- 4048793012
- 価格
- 792 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作! 脳死と判定されながら、月明かりの夜に限り話すことのできる少女・葉月。彼女が最期に望んだのは自らの臓器を、移植を必要とする人々に分け与えることだった。第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
●初野 晴:1973年静岡市生まれ。法政大学工学部卒。2002年『水の時計』で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞、デビュー。著書に『漆黒の王子』がある。
レビュー
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個性的なミステリ群の原点を読みました
本作品は、第22回(2002年)横溝正史ミステリ大賞を受賞し、著者のデビュー作となったもの。 私は、本作品を読む前に、長編第2作の「漆黒の王子」や第3作「1/2の騎士」、また、連作短編学園ミステリ「ハルタとチカ」シリーズを読んでおり、著者の独得の作品世界に惹かれ、原点である、本作品を読んでみることとしました。 正直なところ、ミステリとしての完成度は、第2作以降の作品の方が高いと思われます。 でも、これは読者としては嬉しい傾向で、書き進めることで、ミステリの手腕が磨かれていることを示しているからです。 とは言っても、本作品もレベル的には満足のいく作品でした。 主人公の高校生、高村はあるきっかけで、脳死状態の少女、葉月と出会う。 彼女は、「脳死」でありながら、特殊な装置を使い、自分の心情を「声」にして発することができるのであった。 高村は、葉月から、思いもかけない依頼を受けることになるが…。 という、ちょっとSFがかったというか、ファンタジックな物語世界が広がっていくのですが、テーマは、ずばり「臓器移植」です。 これは作品紹介や、本書巻末の参考文献からも明らかなことなのですが、この部分に、後続の作品にも繋がる、著者独特の作品世界の萌芽が窺えます。 それは、「社会的なテーマ」を題材に、思いがけないアプローチでミステリ作品に仕上げていく──という点です。 「臓器移植」がテーマなら、普通に書くと、「社会派ミステリ」になってしまうのでしょうが、著者はそんなことはしません。 舞台設定は、ファンタジックな装いで、現実から遊離した感じを受ける。 ところが、読み進めていくと、見事に「社会的なテーマ」が練り込まれていることに気づかされる──という展開。 本作品の難点を挙げれば、後続の作品に比べ、「意外性」や「ロジックを駆使した解決」という部分が弱い点でしょうか。 もっとも、「臓器移植」をこのようなスタイルで描いた作品は、恐らく、世界にただひとつでしょうから、著者の作品を気に入っている方なら、一読の価値はあります。
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最後の一行が好きです。
賛否両論あるようですが、私は最後の一行の、潔い終わり方がとても好きです。あの瞬間、「力を振り絞ることができた」(ネタバレ防止のため、表現をぼかしています)というだけでも、十二分に、少年の未来が見えたような気がしました。 ……というか、個人的に救われました。ああ、こんな風に、人は蘇っていくことができるんだ、と。たぶん、丁寧な後日談を描いたりせず、「一瞬の光」に全てを集約したからこそ、この物語は美しいのだと思います。 他の方が書いていらっしゃるように、幸福の王子、臓器移植、等、モチーフだけでも考えさせられる部分は多いです。でも、それだけじゃない。自分では想像もつかないようなところで、誰かが思ってくれている。誰かと繋がっている。痛いほどの孤独と、それを覆す確かな絆。それを失って尚、這い上がろうとする人間の力。文章こそ透明で儚いですが、とんでもない強さを突きつけられたような気がしました。 そしてその強さが、他のどの一行よりも宿っているのが、最後の一行だと、私は感じました。素晴らしいエンディングだと思います。一人ぼっちだと泣いてしまいそうになったとき、ぜひ、読んでほしいです。
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重い明日
2002年に出た単行本の文庫化。 第22回横溝正史ミステリ大賞の受賞作。 臓器移植をテーマを縦糸にして、6つの物語が紡がれている。幻想的かつ暴力的な世界観が、痛々しいほどに読むものの心に迫ってくる。印象に残る一冊だ。 ただ、ミステリの範疇に入るのかは疑問。 このあとしばらく著者がもがきくるしむことになるのも納得。
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伏線回収が見事
過去に読んだ事があったのですが、また読みたくなったので購入しました。 本書の素晴らしいところは、主人公の色々な描かれ方です。 多くはチャプター毎に登場する語り部たちから見た姿なのですが、特徴的な主人公の風貌が語られると、思わず登場を喜びたくなるほどの魅力に満ちた主人公です。 また、主人公が搭乗する赤い『カワサキZZR600(2005年以前のモデルと思われます)』は本書の象徴的なアイテムになりますので、一度画像で見ておくと臨場感が得られるかと思われます。 そして何より、終盤にかけて明かされていく伏線回収には見事なものがあり、感心する事請け合いです。
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未熟な作品
主人公の少年の生い立ちや、周囲の人間関係が希薄 これは「幸福の王子」を下敷きにしてるから意図的なのか? ファンタジーとしても、ミステリーとしても中途半端な完成度 人物描写が未熟なのも結末でこけた原因に感じる
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やるせなさ中にも何故だが安堵を感じさせる作品。今年一番のお奨め。
今年一番の作品。本格ミステリー好きな私だが、この作品には驚嘆。ミステリー性はやや欠けるものの、ぐいぐい読み手を引っ張っていくストーリーとプロットは新人とは思えない迫力。横溝正史という巨人が生誕し百年を超えるが、その横溝史ミステリー大賞を受賞したのも全く異論なく頷ける。この作品との出逢いに感謝すら覚える。
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キレイで純粋な話を期待してはいけない。
本の裏にあるあらすじを読むと、なんとなく透き通った キレイな話を期待してしまうのだけど、決してそんな話じゃない。 寓話ということで、幸福の王子を背景においた作品なんだけど、 妙に生々しくて(ほめてない)気持ち悪かった。 幸福の王子は、おもしろいんだけどそれをリメイクした本作がおもしろいか、 とうのはまったく別の話しで、本家にあった可愛らしさがなくなった分 ちょっと受け付けなかった。 構成はオムニバスで様々な境遇の人に臓器を届けていく。 ただ、先入観なしに読めば読めないことはない。 臓器を届けることがメインではなく、その届けられる人のエピソードが、 メインになっているので、純粋に短編として楽しめた。
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みどころのある新人
オスカー・ワイルドの「幸福な王子」を下敷きにしている、というだけで、なかなかみどころのある作家だと思う。臓器移植についての問題提起も含みつつ、ミステリーとしても上出来。主人公が、本当は勉強もできる孤児の暴走族、というのが嘘っぽいし、ところどころ「デビュー作」っぽい青さがあるけど、面白かった。頭が良さそうな作家なので、今後こぢんまりまとまらないで欲しいですね。