作品情報
熊の爪痕と宗教バッジが、戦後の闇を浮かび上がらせる。
第10回江戸川乱歩賞受賞作。講談社文庫版は1982年刊で、戦争体験と戦後社会の歪みを背景にした異色の本格謎解きとして知られる。タイトルの意味が終盤で反転する構成も印象的。
書籍情報
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 1976-07-01
- ページ数
- 300ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784061360433
- ISBN-10
- 4061360434
- 価格
- 57 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
第10回(1964年) 江戸川乱歩賞受賞
レビュー
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戦争への呪詛と生々しい怒りに満ちた作品
誰も責任を取らなかった理不尽な太平洋戦争への怒りと呪詛が剥き出しになった筆致は生々しく、異常な迫力がある。青春を犠牲にされた戦中世代の憤懣を描いて山田風太郎の『太陽黒点』と比較したくなる程だ。 ミステリとしても、異様な凶器トリックが単なる趣向に留まらず、プロットと必然的に融合している点は素晴らしい。題名が示唆する大戦中の凄惨な犯罪の全貌を途中で割ってしまうなど、構成の破綻が目立つ上、明確な探偵役が存在しない為、推理的なカタルシスに乏しいなどの難点はあるが、後世の作家には絶対書けない時代の証言であり、非常に熱のこもった、忘れられるには惜しい作品だ。
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とっちらかった感が残念
1964年第10回江戸川乱歩賞受賞作 井之頭公園内にある動物園の、羆の檻の前で、男の惨殺死体が発見された。捜査当局は、掻き切られたような傷跡から、羆の仕業であるとの見解を示す。事件は解決にみえたが、新聞記者の鹿子は、檻の付近に落ちていた新興宗教団体のバッチに興味を持ち、因果関係を探ろうとするのだった ・・・ 宗教団体の成り立ちをおううち、物語は、大戦時タイでの陰惨な出来事や、今時点の貿易にまつわる死亡事故が絡み合って複雑な様相を呈していく。いくつかの犯罪が折り重なっているが、元凶はひとつに収斂するのだが、どうにも詰め込み過ぎにのように感じる。そもそも、事件の鍵として宗教団体を取り上げた理由が分からない。当時の世相を反映しているのだろうか。 「蟻の木の下で」というタイトルの意味こそ、事件の核心となるわけで、周辺にばらまかれた事物を掘り下げてしまったゆえに、読みにくさを残してしまっているのだ。事件は連続殺人へと発展するのだが、最後の事件で、解決できていない謎が放置されてしまっているから、スッキリとはいかない。 本作品には、名探偵は存在しないため、事件の結末は手紙というかたちで提示される。時と場所を超え、今明らかになるのは、「蟻の木の下」の悲しい因縁である。物語の本筋は良いので、とっちらかった感が残念だな。
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