作品情報
『或る年の冬 或る年の夏』は、藤枝静男が人間の経験と時代の空気を作品の中心に据えた一作である。
季節の記憶と日常の断片を重ね、老いや病、家族との距離を静かな筆致で見つめる作品である。 受賞作として読まれる背景には、題材の切実さと、作者が選んだ語り口の強さがある。
書籍情報
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 1993-11-01
- ページ数
- 263ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784061962507
- ISBN-10
- 4061962507
- 価格
- 2136 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
性と思想に切り裂かれる青春を頑なまでに潔癖に生き、後年の著者の厳しく深い文学と人生を予感させる青春像。昭和初期に青春を生きた知識人が不可避だった“思想”問題、それを自らに苛酷に課した著者の苦闘、家族への深い愛。時代と自分の良心を誠実・厳格に生きた著者の青春自伝。
レビュー
-
性と受験と共産党。昭和初期の陰鬱な青春。
昭和初期を背景にした青春小説です。でもその青春はとても屈折しています。 医大を目指す旧制高校生の寺沢の恋(というより性欲)と青春(というより左翼への劣等感)の日々を綴った自伝的な作品。「左翼にあらざれば若者にあらず」の風潮だからか、やたら左翼仲間に卑屈。そして彼らに加われない怯懦な自分をやたら卑下する。陰鬱極まりない展開です。 受験勉強にも身が入らず、息子の合格を心待ちにする両親に申し訳ないと思いながらも、カフェに出入りし物欲しげに女給を見る。地下活動に邁進する仲間の話を聞いて憧れながらも逃げ腰になる自分に悪態をつく。結核で死期の近い兄妹や薬局経営に苦労する両親の姿も哀れを誘います。そんなある晩、妹が一瞬だけあざやかな回復を果たします。シモにまつわる場面でありながら美しい描写となっていて印象的です。 後半、あれほど苦学した医大受験に、これでよいのか?というやり方であっけなく合格。漕艇部に入り以後は明るい青春物となるのか? と思わせつつ、主人公は相変わらず左翼に対する良心の呵責と、「共産主義社会」への不信感の間で懊悩。まだまだ呵責の方が強いのですが。 そして逮捕。仲間とともに警察の暴力と拷問に耐えつつも、気持ちの上で左翼に対する劣等感がさっぱりと消え去るのを自覚します。この部分の心理描写はまことに秀逸。遊郭で性体験を済ませるところとともに、この作家特有の、自他を問わず対象を冷静に見抜く眼力を感じさせます。 それにしても、左翼、共産主義というものが若者たちにとってまことに光り輝いて見えた時代があったのですね。そしてそれは、多くの若者を間違った理想に走らせ不幸にしたということでもあります。女給にモテるために左翼を装う若者も描かれており、プロレタリア小説の非芸術性や政治優先の考え方にも違和感も表明しています。左翼批判にもこの作家特有の冷徹な目を感じますね。しかし、左翼が女にモテた時代があったのが信じられませんw 今は学生運動なんてほぼほぼ皆無でしょうし、してもモテないでしょう。
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