作品情報
戦時下の厦門で、二人の女性の愛と葛藤が流転する。
第35回小説すばる新人賞受賞作。2025年に集英社文庫として刊行され、廈門を舞台に流転する女性たちの愛と葛藤を濃密に描く。
書籍情報
- 出版社
- 集英社
- 発売日
- 2025-02-20
- ページ数
- 264ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 10.5 x 1.2 x 15.2 cm
- ISBN-13
- 9784087447415
- ISBN-10
- 4087447413
- 価格
- 726 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
1941年、日本占領下の福建省廈門。 大阪松島遊廓から逃走して、上海、広州、香港と渡り歩き、廈門に辿り着いたリリーは、抗日活動家の楊に従い、カフェーで女給として働きながら諜報活動をしていた。ある日、楊から日本人諜報員の暗殺を指令され、その実行者として、琥珀色の瞳と蛇の刺青が印象的なヤンファという女性を紹介される。 中秋節の晩をきっかけに強くヤンファに惹かれていくリリーにとって、彼女と過ごす時間だけが生への実感を持てるひとときになっていた。 しかし、楊から秘密裏に出されていた指令は、暗殺に失敗した場合はヤンファを殺せというものだった……。 戦時下の中国・廈門を舞台に流転する女性たちの愛と葛藤を描く、圧巻の熱量を放つ第35回小説すばる新人賞受賞作。 【著者略歴】 青波 杏(あおなみ・あん) 1976年、東京都生まれ。近代の遊廓の女性たちによる労働問題を専門とする女性史研究家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。2022年、『楊花の歌』(「亜熱帯はたそがれて――廈門、コロニアル幻夢譚」を改題)で第35回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。著書に『日月潭の朱い花』がある。
レビュー
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スルスル読めた
とある機会に人から勧められて購入。最初は個人的に馴染みのない題材に読むのを遅らせてしまっていたが、読み始めてみれば風景や生活感、当時の情勢といった情報が負担なく入ってきた。また、各章の引きも良く、中弛みしないまま最後まで読み進められたように思う。とても面白かったです。
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名前という呪いから自由になれ
たけもとあかるさんの素敵な装丁画に惹かれて福岡・天神の大型書店で購入。それを進呈してしまったので、Amazonでもう1冊求めた。 読み終わった後、ほっとした様な、まだ居続けたい物語世界からひとり取り残された様な、不思議な感覚に陥るのはこれが良く出来た小説である証拠だろうと思う。続きが読みたい。 主人公は、ふたりの女性である。 1941年、無謀な戦さの果てにやがて消滅することになる大日本帝国の、その版図の内であった台湾と厦門。流転の果てにそれぞれ厦門へ辿り着いた二人は抗日活動家の配下にあり、暗殺者として抜き差しならぬ境遇にある。 物語は、迫り来るその日と、ふたりの出自と流転、やがて辿る道を描いたものである。 主人公が女性であることが、小説に独特の世界を与えていると思う。もし男であったなら、もっと定型化された矮小な物になっていたかもしれない。主人公はせっぱ詰まっているのに、「あたし」形式で語られる優しい筆致と言い、本作の世界は柔らかで、広い。 全体で220頁程の物語だが、妓楼主、主ギ者らしき作家、特高、抗日活動家、記者を装う諜報員、台湾原住民の世界、そして日本名を名乗らざるを得ない様々な女性たちなど、多様な人物の思惑や過去が交差しつつ進行する物語は、まるで野上弥生子の「迷路」のような群像ものとしても成立しており、引き込まれた。 自分なりの解釈を手短に表すと「名前から自由になる物語」と言えると思う。 名前とは本人や近親者にとってより、組織にとってより重要なものである。たとえ名前がなくとも親子の関係は不変だが、学校や妓楼主、そして国家といったガバナーたちは、どうしたって人に名前を欲するからだ。彼女らはその生い立ちと流転の日々によって背負わされて幾つもの名前と、名前を付ける事によって誰かが規定しようとした生き方を持たされている。そこから果たして自由になれるのか、が物語のコアなのだと感じた。 少しネタバレになってしまうが、物語の中盤に台湾原住民の少女が登場する。霧社事件を連想させる出来事により村を離れた少女ははるか遠くの集落に逢着するが、言葉がうまく通じない。台湾の原住民はセディックやアミ族をはじめ幾つもの部族に分かれているが、言語は共通性に乏しく、通じない場合が多いのだ。自分のことを伝えようと必死な彼女は、聞きかじりの日本語〜当時の台湾の公用語〜で自分のことを「バンジン」と表す。歳なのだろうか、不覚にも泣いてしまった。これもまた、統治者が背負わせた「名前」の一つではないか。 もちろんフィクションなのだが、このような境遇の人が現実にいてもおかしくないのだと思うと、思わず泣けてきてしまったのだ。 そういえばだけど、台湾を新日的と称揚する傾向が日本には強い。日本に親しみを抱いてくれる人が多いのはもちろん嬉しいことだ。しかし、帝国時代の統治すらまるで慈善事業でもあったかのように吹聴する人もいて、これには正少し驚いてしまう。確かに、一面ではそのようであったかもしれない。でもそれを現代の台湾人が日本と親和的でいることと結びつけることには強い抵抗を覚える。それってまるで「好意」という薄氷の上で無邪気に足を踏み鳴らしダンスを踊るようなものではないか。台湾を少しでも近しく想うのであれば、そのくらいの礼節は持って然るべきじゃないのか。 そんな事も思わせてくれる一冊でありました。 なお、台湾と並んで本作の舞台である厦門は、台中のほぼ対岸に位置する大陸側の都市であり、金門島が間近にある。17世紀には平戸生まれの軍人・海賊である鄭成功が拠点を構えていた。彼は東インド会社を台湾から一掃したことでもよく知られている。日本の台湾統治時代には「対岸経営」と称して大陸側への影響力拡大を目論む政策もとられたから、日本・台湾ともに廈門とは浅からぬ縁がある。物語が進行する時代、厦門は「抗日運動の策源地」と呼ばれ、廈門総商会会長、廈門勧銀の重役、全閩日報社長などが次々と狙われる一方、抗日と目される人々への弾圧は苛烈を極めた。 そんな事知らなくても楽しめる作品であるけれども、知るとより楽しめるのではないかと思い書き加えた。
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満足
美容雑誌の中に宣伝でチラッと載っていた表書きに惹かれて買ってみました。戦時下の中国、スパイ、女性同士。受賞作品ということでそれなりに期待していましたが、面白かったです。綺麗にまとまっていて、情景もリアルに浮かんでくる文章でした。 綺麗な話でした。
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