作品情報
新しい町で、少女はひそかな拠り所を見つける。
第22回小説すばる新人賞受賞作。居場所を失った少女の揺れを、静かな筆致で描く。
書籍情報
- 出版社
- 集英社
- 発売日
- 2010-02-26
- ページ数
- 360ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784087713367
- ISBN-10
- 4087713369
- 価格
- 2046 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
多感な少女の心の揺れと成長を描く 中学1年のあさぎは、母が再婚して新しい街に引っ越してきた。中学では本当の友達と言える存在はなく、新しい父にはなじめない。そんなあさぎの心の支えは、郵便局の中村さんで…。繊細に紡ぐ物語。第22回小説すばる新人賞受賞作。
1962年(昭和37年)東京都生まれ。 2009年本書で第二十二回小説すばる新人賞受賞。
レビュー
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とても自然で、とても繊細で、とてもやさしい物語
この小説は波乱万丈の物語ではありません。大恋愛も描かれません。英雄も出てきません。 ですが、凄く繊細です。そして自然です。 主人公のあさぎ、中村さんのこの世界になじめない心がとても繊細に美しく描き出されます。 この小説世界には悪人はいません。その反面完璧な人間もいません。皆が、少しの我と他人への愛情を持ち、それぞれの表現の仕方をして、すれ違いながら傷ついています。誰も否定されず、あるがままに受け止められながら、それぞれに分かり合おうと努力しています。凄く優しい世界。 特筆すべきなのは自然さです。凄みのある小説のようなリアリティではなく、ごくごく自然。セリフやキャラクターの行動、全体の雰囲気が凄く自然。特に主人公のあさぎにそれを感じます。セリフが作者を通さずまさにそのキャラクターが発生して伝えているかのよう。この自然さが独特なので、読後感もまた他では得られない独自のものとなっています。 キャラクターも、そこまで個性的なわけではないのですが、この独特な自然さの中、軽やかに自然なセリフをしゃべるので、印象もまたほかの小説とは違い、それぞれがとても印象に残る愛すべき存在となっています。 小説の冒頭で主人公あさぎが、もう一人の主人公中村さんを慕う理由として「営業用ではない個人的な笑顔」を浮かべていることを挙げています。これが小説全体の雰囲気を説明しているように感じます。社会の片隅のなんでもない笑顔、けどそれは間違いなく優しさで、その人の心の奥の何かを説明している、それは多くの人を救う事はなくても特定の誰かを救う事が出来る。この小説も社会のどこにでもある平凡なエピソードでありながら、小さくてとてもきれいな花、愛情を描き、それが誰かを救いえるという、そんな小さくて美しい物語です。 主人公はそれぞれ魅力的です。 中村さんはの魅力は先ほど挙げた「個人的な笑顔」と言うだけでも十分説明できるでしょう。 あさぎは繊細ではあるものの特筆したところのない少女ですが、先ほど書きました通りその描かれ方がとても自然で生きている。そして時として非常に大きな優しさを見せる。それが無二の魅力を発しています。 その他のキャラクターも、主人公たちと絡み合いながら、独特な自然さを持ち、かつみな多面的で、我を持ちつつも確かな優しさを持っている魅力的なキャラクター達です。 また評者は百合小説も好きで読むのですが、それほどの分量はないながらに主人公あさぎと親友あかりの絡みはそうした観点からも楽しめると思います。と、言って二人とも異性の好きな人がいるので百合が苦手でも問題なく読めます。百合好きからしたらそう見えるかなという所。 とにかく、他では味わえない読書体験で素晴らしい本でした。 以下ネタバレです。 主人公あさぎと、中村さん、それぞれの話は奇麗に終わっているのですが、二人の絡みが少ないのが不満です。本の紹介分から言っても、初めのあさぎが中村さんを唯一の癒しにしていて、中村さんもあさぎをいつか助けようと思っている所からしても、最終的に二人が(恋愛関係でなくとも)お互いにかけがえのない存在になって、お互いの傷をいやすのかなと思ったら、接触もそこまで多くなく、お互いに果たした役割も大きくなく、後に残る関係でもないと、二人の事が大好きになってしまった一読者としては寂しく感じました。 あさぎと女友達との描写も不満足です。前半女友達の中でどう自分を確立するかが大きく描かれていたのに後半殆どなく、前半のその描写がすぐれていただけに残念です。また上記でも書きました通り、あさぎとあかりの関係が好きだったので、あかりが途中から出てこなくなり、場をかき回したところで出番終了みたいになってしまい残念でした。 逆にとても満足しているのは、あさぎと義父の冬木さんとの関係。あさぎの感情が冬木さんへの嫌悪から開始して、信頼からかけがえのない人になっていく心理が細やかに描写されていました。最後の冬木さんを引き留めようとしたシーンは感涙もの。あさぎの全シーンでも一番自然で、一番彼女らしい、かつ真情の伝わる描写でした。
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ひそかに生きづらさを感じている人に読んでもらいたい。
あさぎは中学1年生。お母さんの再婚、弟の誕生、友人関係、 あれもこれもが心に突き刺さってきてうまく気持ちを整理することができません。 中村は郵便局員。物事をサクサクとこなすことが苦手です。 こどもの頃からバカにされ、いじめられ、そしてそんな自分は役立たずで申し訳ないと 思い続けて生きています。 しかし彼は、人々の目にはとまることのない美しいものに気づいたり、物事の本質を感じ取ったりすることができるのです。 「自分自身で在ること」を自分に許すことは、誰にとっても難しいものです。 ましてやこんなふたりならなおさら。 ふたりは現実生活を踏みしめながら、まるで導かれるかのように「自分自身」に向かっていきます。 物語終盤のこの様子には高揚感さえ感じました。 うまく立ち回ることの苦手なふたりの主人公の物語なのですが、 凡庸にみえていたふたりを取り巻く登場人物たちも、それぞれが繊細さと不器用さを もっていることに気づきます。 それぞれの読み手の心の琴線に触れる、「脇役」との出会いもひとつの楽しみだと思いました。
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あさぎ
主人公あさぎは私立女子中学に通う13歳。 母の再婚と私立中学への入学を機に新しい町に越してきました。 一緒に暮らしていた祖母の厳しい躾によって、 未だにディズニーランドもコンサートもカラオケも禁止。 子どもらしく心を開くことができない環境に育ったせいもあり、人と柔軟に接することは難しく、 かといって達観して一人でいることもできません。 新しい家族にも新しい学校にも馴染めない彼女の心の拠り所は、 近所の郵便局に勤める青年、中村でした。 彼はたぶん何らかの障害を抱えていて、孤独でした。 仕事上もうまくいきません。懸命にがんばろうとしても空回りしてしまいます。 そんな彼にとっても、頻繁にやってくるあさぎが密かな楽しみでした。 物語は、居場所のない中学生と仕事の出来ない郵便局員の現実を平行させながら、 絡まったたくさんの糸を丁寧にほぐしていきます。 今どきの女子中学生の日常や会話をリアルに描き、 興味を惹く出来事や物、 印象的なせりふ(EX.上級生ありすさんの「友達がいないと困るのはね。自分と向き合わなきゃならなくなるからなんだよ。」)、 魅力的な登場人物を所々に配し、 金子みすゞさんの「夕顔」の詩や、「 はてしない物語」「カラマーゾフの兄弟」「ならなしとり 」「ごんぎつね 」「銀河鉄道の夜 」など たくさんのお話を上手に絡めて奥行きを出しています。 引き込まれて一気に読みました。 タイトル、装丁がポップなものであれば、自ら手を伸ばしてくれる10代が確実にいます。 そこだけが残念です。
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やさしさは残酷なことかもしれない。。。
誰かを気遣うとき、励ますとき、助けるとき。 誰かから気を使われるとき、励まされるとき、助けられるとき。 何か変だ、くるしい、嫌だ、やめて欲しい。 やさしくされるほど自分が辛い、みじめだ。 そう感じたとき、読む本。 やさしくしたのに「うるさい!」って言われたときに読む本。 「かわいそうにね」「頑張れ」って言える側の人間になれなかった(なりたかった)人への本。
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いじけ小説
他の方の評価が高くて、書きにくいのですが(笑) 本の半分まで、主人公のいじけ、つらい、の連続です。ずっとそれを聞かされ続けます。 しかも悩みの内容が、クラスでの仲間はずれ、母の再婚相手への嫌悪感、母とのすれ違い、などありがちな、他人にとっては小さな悩み。 女性なら共感して、自分もそんなことあったとか思いながら主人公が立ち上がるまで読めるのかもしれません。 かろうじて郵便局員の視点が入って救われる、かと思いきや、こっちはこっちで悩みがある。 もう本を閉じようと何度も思いながら中間地点まで読んで、やっと展開が。。 けどまたクラスメイトのありがちな悩みを聞くことに。 出だしで躓いた人には苦行の連続となることでしょう。
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ものすごい実力です
再婚した母親への違和感、中学校での息苦しい人間関係、自閉症、とキーワードだけ見ると手垢のついた題材なので読む前はどうかなと思ったのですが、最後まで一気に読まされました。 使い古された題材で、ここまでリーダビリティのあるものを書く力量は並大抵のものではありません。 キャラクター達の、明るい部分と鬱屈した部分を描く分量のさじ加減が絶妙で、それによってどのキャラクターにも感情移入できるしくみになっています。これはなかなかできないことです。 全体的に辛い出来事が多いのに、主人公の少女が時折感じる世界の断片の美しさ(集会で、生徒達がお祈りで立ち上がる時のスカートと椅子がいっせいにこすれる音の描写など)が清涼剤となって、息苦しくなりません。 ものすごい実力を持った作家さんだと思いました。 すばる新人賞を同時受賞した浅井リョウの方が、話題性だけで売れてしまっているのが残念です。 宮部みゆきには、こちらに熱いコメントをつけてほしかったです。。。
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装幀のたたずまいを裏切らない小説です。
素敵な装幀が気になって読んでみましたが、いまの気持ちにぴったりの小説でした。 主人公は中学1年生の女子中学生「あさぎ」と、20歳過ぎの郵便局員の青年「中村」。二人の一人称で交互に綴られるのですが、ストレートな恋愛小説ではありません。「あさぎ」は郵便局を利用したときに、「にこっ」と微笑みかけられて「中村さん」の存在に魅かれる、「中村」のほうも気になって、「あさぎ」のことを「幼ごころの君」と密かに名づける。それ以上はお互いに何も知らない、知りようがない、そんな淡い淡い関係に変化が訪れ、距離がだんだんと縮まってゆきます。二人を結びつけるのは「ローズクォーツ」―「あさぎ」と、そのお母さんを捨て、家を出てしまったお父さんが「あさぎ」にくれたお守りなのでした…… 「あさぎ」(注「冬木さん」は再婚したお母さんの夫):冬木さんは知っているだろうか。私が暗い落とし穴の底にいることを。一瞬稲妻が光って、細いロープが投げかけられているのが見える。あれにつかまっても大丈夫だろうか。 「中村」:僕は奇妙な居心地の悪さを感じ始めているのに気がついた。それは本当に微妙な感覚で、自分の周りの世界が以前とはほんの少し、一ミリの十分の一くらいずれてしまっているような違和感だった。 二人をやさしく見守ってあげたい、そう思わせるような世界を構築できる、表現力がある作家さんです。いま、「ちょっとつらいなあ」と思っている本好きにおススメします。
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ここには現代の断片がある
二つの大きなドラマを交錯させ、様々な登場人物を取り込みながらも、骨格のしっかりしたブレない物語だった。起立性調節障害や高機能自閉症など、現代社会で認知されたての事象をきっちり描いた。 一つは、二代に渡る母子の支配的な子育てがもたらす家族関係のゆがみの中で暮らす中学生少女の物語。精神的に自立できない母に振り回され続ける。離婚した父は、パワーストーンに逃げてふらふらしている。中学校にも、図書室登校の先輩や、女子の友達関係(出ましたっ!)の悩みがある。 もう一方が、たぶん数字に関する学習障害を抱える郵便局員の物語。電話番号を覚えられなかったり、人の顔を覚えられなかったり、高機能自閉症と思われる症状を持つ。 ほとんどのことがうまくいってしまうようなラストシーンは、ちょっとだけ都合良すぎる感じがする。パワーストーンや超常能力がちらっと織り込まれてひやっとしたが、そこに逃げ込まない王道の描きぶり。
関連する文学賞
- 小説すばる新人賞 第22回(2009年) ・受賞