作品情報
温泉宿での不思議な出来事が、コンプレックスを照らし返す。
第39回すばる文学賞受賞作。2016年に集英社から単行本刊行。
書籍情報
- 出版社
- 集英社
- 発売日
- 2016-02-05
- ページ数
- 136ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784087716504
- ISBN-10
- 4087716503
- 価格
- 1973 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
美しい母親と姉のもとで育ち、容姿コンプレックスを抱えて美容整形を繰り返す27歳の絵里。 大きな二重、高い鼻、脱色した髪と青いカラーコンタクトで、外国人のふりをして田舎の温泉宿に泊まるのが趣味の彼女は、ある日、向かった旅館で、「影」と呼ばれる嫌味ったらしい中年男と出会う。 そして、人生初の驚くべき入浴体験をすることに――。 「小説をいちばん野放図にさせている『温泉妖精』に、私は魅力を感じました」江國香織氏(選評より) 「逸脱のスリルの楽しさがあった、とはつまり、小説を読む愉悦があったということだ」奥泉光氏(選評より) 作品が内包するエネルギーとリーダビリティを高く評価された、第39回すばる文学賞受賞作。 【著者プロフィール】 黒名ひろみ(くろな・ひろみ) 1968年、香川県生まれ。同県在住。武庫川女子大学短期大学部卒業。 脚本家を目指し10年間シナリオの勉強を続けた後、地元の小説教室に通う。 2015年に本作で第39回すばる文学賞を受賞。
レビュー
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小説の行く末の一枝の形、なのかもしれないが。
容姿にコンプレックスがあっても、整形手術のために金を貯める以外の努力はしない。 外国人のフリをするのを楽しみにしているが、外国語の習得には無関心。 偽名で泊まった宿は、衛生基準も満たしていないような、 快適な滞在とは対極にあり、同宿の客も金にものを言わせるだけの中年男。 当然、食事も風呂も、もてなしとは対極。 読む価値があるのか、時間を使う価値があるのか、1200円+税を出して、得るものがあるのか。 何かを哲学したいのか、それとも現代社会の病理でも浮き彫りにしたいのか、 共感できる人がいない、とまで断定はしないが、文学とは何か、何か虚しいものなのか、が後味。 箸にも棒にもかからない、暇つぶしにしても、まったく薦められない。
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生ぬるい温泉
第39回すばる文学賞受賞作。 なんとも生ぬるい読後感を残す小説だ。 27歳の岡本絵里は、ブスで骨太でおまけに毛深い自身の容姿に強い劣等感を持つがゆえに美容整形手術を繰り返す。 絵里はお気に入りのブロガーがブログで絶賛している東北の温泉に滞在し、そこで浮世離れした金持ちのおっさんに出会い、自分を偽る生き方に虚しさを覚え、上辺ではなく本音で生きたいと思うようになる、らしい。 らしい、と書いたのは、釈然としないストーリーに消化不良を起こしてしまったからだ。一応、カタルシスらしき場面はあるのだが、登場人物たちの関係性が湯けむりのごとくもやもやとしていて腑に落ちない。 腑に落ちないことは他にも多々ある。絵里が白色人種を目指して整形手術を繰り返す理由がよくわからない。絵里と家族の関係がことさら重要であるかのように書かれているのに、物語に大した影響を及ぼしていないのも首を傾げる。温泉宿で出会うおっさんのキャラ設定も、狂人を書きたいのか、単にピュアなオタクを書きたいのかはっきりしない。そもそも、なぜに絵里は温泉に行ったのかがわからない。どれもこれも中途半端なのだ。 文体も中途半端である。一人称だと思い込んで読んでいたら、忘れた頃に「絵里は思わず叫んだ」などといった文が紛れ込み、ようやく三人称だったのかと気づく。その繰り返しなものだから、読んでいるこちらが「どっちだよ!」と思わず叫んだ。 展開も現在と過去の回想の書き分けがあやふやで、現在の話を読んでいるのかと思えば回想であったり、またその逆であったりもする。 小説の分野としても、純文学なのかエンターテイメントなのかが判然としないし、かといってハイブリッド文学でもない(ある意味、これはすごいことなのかもしれないが)。 すべてにおいて生ぬるい小説ではあるが、生ぬるいがゆえに文章自体は読み易く、情景描写もそれなりに映像が浮かぶ。また、一箇所か二箇所、笑わなかったけれども笑いそうになった場面がないわけでもなく、星ひとつを付けるのはなんだか忍びないので星2つ。オススメはしない。
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面白そうな要素を盛り込もうとしたのかな、という印象
第39回すばる文学賞受賞作品。 面白そうな突飛な要素をこれでもか、というほど詰め込んだ印象。こんなに面白要素に溢れているのだから、短編で終わらせるのは勿体ない。 それにしても、タイトルで勝手にふんわりしたファンタジー作品だと思っていたので「温泉妖精」が何かを知ってしまった瞬間思わず笑ってしまった。でもこれ、私や若い世代は「妖精」「魔法使い」のネタに馴染んでいるからすぐ理解できるけど、上の世代の人は???って感じなんじゃなかろうか。 絵里と影は良い関係に見えるけど、決して恋愛に発展はしないだろうな。絵里が影に緊張しないでいられるのは、相手が「妖精」だから。その心情が違和感なくすんなり受け入れられた。 ただ影の人物像、ネットのこじらせ「妖精」のステレオタイプそのまんまで、作られたキャラクターという感じを拭えなかった。もう少し生きて呼吸している人間としてのリアルさが出ていればよかった。
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感動しました、特に後半
すごく読み応えのある小説。400字詰め原稿用紙で220枚と、そんなに長くない作品だが、男女を問わない現代人の孤独さや、少女時代に夢を追いかけていた女性の挫折後の人生における身の処し方などなど、今日的なテーマが非常に直截的に提示されている。 整形手術や自己否定→西洋人になりすまそうとする涙ぐましいような努力、自己戯画化等々の果てに《温泉》という救いの時間がおとずれる。 感想を言葉で書こうとすると何だか抽象的になってしまうが、終りの方、「影」と呼ばれる冴えない中年男と、ヒロイン絵里とが、温泉の湯船で、文字通り裸で対峙する場面は圧巻で、才能のある書き手だと感じた。 読者に何とも言えないカタルシスが訪れるのは、この湯船での対決の場面だ。二十代後半の絵里が裸で湯船から立ち上がり、四十過ぎの理屈っぽいオヤジ「影」が度肝を抜かれながらも何だか哲学めいたことを宣(のたま)う。久しぶりに読み応えのある純文学に出会いました。昨年(2015年)、すばる文学賞を受賞したばかりの新人作家さんのようなので、次の作品を期待せずにはいられません。 『温泉妖精』の続編を読みたい気もします。ヒロイン絵里、そして「影」のその後はどうなるの?みたいな。
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星は2.5 毒にも薬にもならない。
主人公は容姿に大きなコンプレックスを持っている。本作のメインテーマだ。 冒頭から読んでいくと美に固執した整形やカラーコンタクトで装いそれがエスカレートし、ある種の凄みや狂気に近い精神状態が全編を彩るモチーフとテーマになっていくのではないか、と思った。しかし、途中で小金持ちの「影」という男が出て来てしまう。影というのは本心では善人で様々なコンプレックスをもっている。僕はその男と主人公の関係性がどうなっていくのかと思っていたが、あれほど主人公がもっていたコンプレックスが影と対決(?)する事によってあっさり解決してしまうように読めた。それは裏を返せば純文学としての掘り下げが浅く、作品全体が迫力を持って迫ってこない結果におわっている。極端な結論を言えば、その結果、純文学とも中間小説=エンタテイメントともどちらでも取りようがある中途半端な作品になってしまっているのだ。 そしてタイトルにも記載したが、作品から著者の黒名さんのソウル現れていない事とストーリーテリングが冗漫な為、素直に心揺さぶられる様な小説になっていない。僕はこの小説を本作掲載の『すばる』で読んだのだが、佳作になった竹林さんの『地に満ちる』という作品の方がソウルもあり完成度が高く純文学として成立していた。佳作になった結果は書籍として出版されないようだ。それが残念でならない。 ■蛇足:「すばる」は何時からこんな温い小説を受賞させるようになったのだろう・・・?新人賞受賞そして芥川賞受賞というサクセスパターンから遠ざかってしまったからなのか?僕個人としては「文学界」「新潮」「群像」「文藝」にお株を取られず『純文学文芸誌』としての気概と体力を取り戻してほしいと願うばかりだ。
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