日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
ダンボールボートで海岸

すばる文学賞

ダンボールボートで海岸

千頭ひなた

地方都市の小さな街でバイトに励む二十歳の僕を軸に、元同級生との関係や母親殺しの気配が日常へ忍び込む。いつか自分だけの海岸へ行くという願いをにじませる、第27回すばる文学賞受賞作。

地方都市青春暴力の気配家族逃避

作品情報

小さな街の息苦しさを抜けて、自分だけの海岸へ向かう。

第27回すばる文学賞受賞作。2004年に集英社から刊行された単行本で、地方都市に生きる若者の焦燥と孤独を描く。

書籍情報

出版社
集英社
発売日
2004-01-05
ページ数
152ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784087746822
ISBN-10
4087746828
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

年下の男と出奔した母親の借金を抱え、バイトに励むボク、20歳。元同級生相手の売春、女二人男一人の奇妙な同居生活…、不穏な気配が日常に忍び寄る。自分をリセットできるだろうか…。川上弘美氏絶賛。第27回すばる文学賞受賞作。

レビュー

  • 抱きしめたくなる主人公

    まず、文章のテンポがよく、非常に読みやすかった。 主人公「アオ」という女性の日常は、非常に無感動で無気力、ストーリーは淡々と進んでいくように見えるが、時折覗く感情は切なくて、生き生きとした描写は、音楽や本、食べ物のことだけ。 アオの元に集うのは、女装癖のクロ、自称アーティストのハナ。 その面々とは対称的に「世間で上手く立ち回れる」シモムラやその彼女、そしてアオの母親が登場する。 「上手く立ち回れない」アオは、みんなに利用されても、感情を押し殺して、現実から逃避を図る。 おそらく彼女は「ダンボールボートで海岸へ行けないこと」を、本当は知っている。 最後がどうなったか作中では書かれていないが、どうか、隣にいる人の手をとってくださいと願わずに居れない。 私はこの作品が本当に大好きだ。

  • すばる文学賞受賞作

    自らを“ボク”と呼ぶ若い女性宅を舞台にした群像劇。キャラクター設定や台詞回しなどが魅力的なので中盤までは引き込まれるのですが、文体にかすかに漂うあざとさと物語の終わらせ方に物足りなさを感じました。

  • 恋の複雑な心理

    心の中のダンボールボートにのってながれついた理想の海岸をおいもとめる「ボク」という女性を中心に集まってくる人たち。「男とか女じゃなくてボクはただ自分とうまくおりあってゆきたいだけなんだ、でも今はうまくゆかない。」と大多数の中の自分をだせないため、なやむ。彼女を愛した人たち「自分とは違う感じ方をする人間がそばにいてその人が自分の行為に悲しんだり苦しんだりするってことをどうして想像しなかったの」。「誰が永遠を約束するなんて言った。...嵐のこない海なんてないでしょ。だったらその嵐を一緒に体験しよう、同じ気持ちも違う気持ちも一緒に冒険しよう、楽園をめざしてよ!」 思春期の、そして、恋の複雑な心理たちに共感を覚えた作品

  • 気にならない・・・

    すばる文学賞受賞作品。同時受賞の金原ひとみよりは、文学っぽくて好感が持てたが・・・。 なんつーか、ダルイ。 出だしからね、続きが気にならないんですよ。これからどうなるの?っていう興味を惹かない・・・。 主人公である「僕」(実は女)のつまらない日常が延々と書いてあるだけで、だからどうした?って感じ。 一応それなりのハプニングは起こるものの、なんか地味。 私は五分の一で本を閉じたので結末を知りませんが、別に知りたいとも思わせてくれない。 やっぱ小説は、最後まで読ませてナンボでしょう。いくら全体的には良い作品でも、途中で飽きさせてしまうようじゃダメ。 時間があったら最後まで読んでみるけど、その時はまたちゃんとしたレビューを書こうかな。 現時点で良い作品とは言えません。

  • 行けるか、ボクの海岸

    まず、装丁に惹かれた、次にオビの川上弘美さんの言葉を信じた、そして「千頭」という名字が読めなかった、などなどの理由で手にした本です。ボクとハナとクロの、奇妙な共同生活。母の借金返済のため、バイトせざるを得ないボクの生活は、非常に苦しいことになっている。青春小説なんだけど、とても観念的な部分があって、特に作品半ばでハナがクロと喧嘩して、語りまくる場面は、ああ、千頭さんは、こういうことを書きたかったんだろうなあ・・・と、ちょっと透けすぎの感がありました。何が起ころうとボクは、淡々と日を過ごし、傍観者のような立場をくずさないまま。ボクだけの「海岸」を心に秘めて、いつか行くと決心して。この「海岸」とは、ボクにとっての彼岸なのだろうけれど、ハナやクロを、心底受け入れられないボクって、やっぱりちょっと可哀想。ハナにしろクロにしろ、友人のシモムラにしろ、けっこうインパクトのある人々を、しらっとあしらうボクと世界との関係が希薄。そこをできれば、もうちょっと書いてほしかったかな~。でも、けっこう引き込まれて読んでしまいました。

  • 次の作品に期待

    第27回すばる文学賞受賞作(ちなみにこのとき同時に受賞したのは金原ひとみ)。川上弘美が「いちばんに推した」と帯にある。カヴァーはダンボールっぽくてかわいい。作者の苗字は「ちかみ」と読むそうです。 まず文体が面白い。すごくおちゃらけている。話し言葉と、ですます調が入り乱れているせいで、文語っぽい文章に対して難しい熟語を覚えてた子供がそれを用いて文を書きたくなっちゃったような印象を受ける。楽しい。 話もけっこう面白くて、次々に登場してくるなんかよくわかんないひとたちが結構いとおしいかも。 この小説は、オーソドックスな小説の構成を目指していると思うんだけれど、例えば起承転結で言うと、「起」「承」の部分はけっこうひきこまれたけれど、盛り上げようとした「転」と、そこからきれいにまとめようとして、読者を宙吊りにしようとしたらしい「結」が、あまりよくない。 母親の不倫相手の奥さんがやってくるあたりから、あまりおもしろくなくなってきた。自称芸術家の女の子が告白しはじめるシーンには辟易。あの部分をもしマジで書いているとしたらちょっと……。 それに、主人公はこんなにいろいろな人にかまわれているのに、なんで、あんな結末になっちゃうんだろう、というのが腹立たしい。あの説明のつかない無力感が、読者としてはとても気持ち悪いものとして感じだ(そう感じさせる筆力があるのだ)。 でも主人公のあんまし内省的にならないところもいいし、作者のすべての出来事に意味付けをしないというところもよかった。 個人的な印象を言えば、あんまし才能のない篠原一って感じだったけど、化けた時が楽しみかも。次回作を読んでもいいかな、と思わせる妙な魅力がある。これ一作で終わってほしくない新人。

関連する文学賞