作品情報
『絆』は、短い題名の奥に人物、時代、土地の気配を重ねる作品です。
集英社刊行の『絆』に収められた作品です。『絆』は小杉健治による、事件や謎を通じて、人間関係の緊張と真相への道筋を描く作品です。受賞作として、題名が示す主題を軸に、読後に残る余韻を重んじた一作として位置づけられます。
書籍情報
- 出版社
- 集英社
- 発売日
- 1987-05-01
- ページ数
- 273ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784087751000
- ISBN-10
- 4087751007
- 価格
- 74 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
Amazon.co.jp: 絆 : 小杉 健治: 本
レビュー
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知恵遅れの子とその家族の絆、友人の思い、それぞれの偏見。
⚫︎ 著者の得意とする裁判ミステリーの一作。優しく元気だが軽い精神障害を持つ子供を、両親・姉・弟が愛情を持って育てる中で、その子がいなくなる事件が発生する。 ⚫︎ 語り手は新聞記者。子供の頃、その家族の家の近くに引越して行った。その時、荷物の運搬を手伝ってくれた見ず知らずの元気な子供がその子だった。女子高生の美しい姉さんに憧れると共に、元気で優しい弟と仲良くなるのだが、ある時、彼は姿を消してしまう。 ⚫︎ それから20年以上も後のこと。その姉が結婚した夫の殺人犯として捕らえられ自白した事件の裁判から話は始まる。記者は昔の初恋の片思いの相手の女性が被告となった裁判を、偶然、司法記者として傍聴することになったのだ。 ⚫︎ 記者は結婚後、長く子供に恵まれなかったが、第一回公判の日に妻から懐妊の喜びの電話を受ける。自分の妻と生れて来るべき子供のことが、裁判の進展と共に述べられる。やがて、友人の産科医から妻の風疹罹患による障害の可能性を告げられ、選択肢と助言を受ける。妻は、年齢からもこの機を逃すと難しい、何としても子供をと主張する。一方、記者は生後のことを案じている。 ⚫︎ 著者のミステリーだから、裁判は驚きの転回を見せて結審に至る。 ⚫︎ 結審の後の被告と家族の様子を見て、社会はもちろん、この家族も、自分も、障害者自身の気持ちを考えることなく、自分たちの偏見のもとに動いて来たのでは、という感慨を記者は持つ。その前夜、妻は陣痛を起して入院していた。被告に一言おめでとうと言ってから、病院に行って友人の医者に一言だけ言うつもりだ、・・・ と、というのが結末。 自分にも偏見が有ったと悟ったのなら、その瞬間に裁判所から病院に向けて駆け出す、というラストの方が良さそう。 ⚫︎ 蛇足:結末の上の筆者のメモ書き。 「早く行かないと手遅れになるよ。医者の方がもっと偏見に染まっているんだから」。
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途中で予想はつきます
途中で真相の予想はつきますが、筆力で読ませます。かなり有名な作品のようで映像化しやすいのでしょう。個人的にはこの弁護士さんのその後が気になります。
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仕事をとおして生きる喜びをあじわい、成長していくわけです。
1987年の作品。いま読んでも、そこで提起されている問題はある。 精神薄弱者の問題を扱っている。精神薄弱とは、知能を中心とした精神発達が幼少時期から遅れていて、社会的な適応が困難な状態を示すものの総称であり、現在では精神薄弱ではなく、学問的には精神遅滞と言われ、現在は発達障害と言っている。精神薄弱は、知能の程度によって「境界、軽愚、痴遇、白痴」と分類されていたが、執筆当時は「境界、軽度、中度、重度、最重度」に改められていた。知能指数(IQ)が、70以下を指していた。その当時は、精神薄弱者は「異常行動をする」「危険だ」「遺伝する」という偏見が存在していた。18歳まで精神薄弱児、18歳以上は精神薄弱児といった。 この本では、父親は商売をしていて、母親は元教員、三人の子供がいて、とても美人な姉の市橋奈緒子、そして、弟が二人、寛吉と晴彦。寛吉が軽度の精神薄弱児だった。 市橋奈緒子は、弓丘と結婚し、43歳になっていた。夫の勇一を殺したとして起訴される。自宅で茶道教室と生け花教室を開いていた。裁判から始まる。奈緒子は、夫殺しを認めていた。 ところが、奈緒子の弁護人原島弁護士は、論述で無罪を主張。被告人が殺人を認めているのに、弁護人が無罪と言っているのである。この物語は、記者の視点で描かれていて、記者は、子供の頃市橋家の近くに住んでいて、奈緒子に憧れていた。寛吉ともよく遊び、水に溺れていたところを寛吉に助けられたことも記憶にあった。しかし、奈緒子の結婚前に、寛吉は突然消えた。 弓丘奈緒子は、愛人と結婚するという弓丘を刃物で切りつけ出血多量で死なせたという容疑だった。 弓丘奈緒子は、何を庇っていたのか。23年前の寛吉の失踪の謎を解くことで、原島弁護士は無罪を勝ち取るのだった。 物語の核心は「精神薄弱の人の悲劇は障害そのものにあるのではなく、この社会に十分に受け入れられないところにある」精神薄弱者も「仕事をとおして生きる喜びをあじわい、成長していくわけです」という。そして、法廷で寛吉は「ワタシは知恵遅れに生まれたから不幸だったと、一度も思ったことはありません」と証言する。 この物語の進行役の記者も、やっと子供が授かったのだが、妊娠初期に妻が風疹にかかり、医者からは異常を持った子が生まれるかもしれないと言われながらも、妻が産むことに当初は戸惑っていたが、賛同するのだった。裁判を通じて、問題を明らかにしていく手法は優れている。
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感動の名作!!!
今も強く訴えかけるテーマをもった社会派ミステリーの名作です。感涙。他の作家さんたちの賞をとったりするミステリーをいくつか読んでがっかりすることも多いですが、この作品は本当に歴史に残るべき、多くの人に読んでいただきたい名作だと思った。直木賞もとってほしかった。
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多少構成に無理があっても楽しめる
小杉氏の作品はどれも内容的には無理な構成でつないでいるけれど、 読んでいて「この後、どうなるんだろう」という期待感を持たせる ような作風は興味深い。 「父からの手紙」や「父と子の旅路」ほどの感動はないが、推理小説としては読み応えがある。 最近は小杉健治氏の作品ばかり読んでいるので、なんとなくどの作品も同じような作風になっている 感じを覚える。 例えば、あまり関係ないような人物を次々と登場させて、無理矢理にその人物を事件と関係付けて 物語をつなげていくというような作風がどの作品にも見られる。 また、信じられないぐらい兄弟思いで、情の深い被告人の性格にもかかわらず、自分の娘についてはそのような深い情を示さず、 「殺人犯の娘」として今後一生を過ごさなければならない、という自分の娘が持つであろうとてつもない辛さや悲しみ については母親として全く省みることなく、無実の罪をかぶり続けるというのは、ちょっと矛盾が大きすぎて、すっきりしない。 テレビのミステリードラマもそうだけど、ミステリーというのはそのような内容にならざるを得ないんだ、と感じる。 それでも、やはり読み応えのある作品には間違いない。
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泣ける
「泣ける本を教えて下さい」とか言うやつがいるのを見て、そういう本の探し方をするんじゃねえと思ったが、これは泣く。下町で育って美貌ゆえに玉の輿に乗った女性は、夫殺しの罪で起訴された。語り手の記者は、幼い頃同じ町内に住んでいたから、あの女性が殺人を犯したとは信じられず法廷に臨む。本来の弁護士に代わって立った原島弁護士は、彼女の過去を容赦なく暴いていく。推理作家協会賞受賞作。直木賞では、文章が荒いとかで落とされたが、こういう作品に直木賞をとってほしいんだよなあ。
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二度目に読んだ時に涙が止まりませんでした。
法廷もの、裁判ものの小説をたくさん読んでいる時期に、本作品に出会いました。 一度目は、大変良く出来た作品と思いながら読み終えました。 しばらくして、再度読み直ししていたら、電車の中にも関わらず、涙が止まらなくて、困りました。 結末を知っているからこそ、登場人物の発言内容に、苦悩や深みを感じてしまったのだと思います。 裁判ものでは、最高傑作と思っています。
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発表から20年経っても色あせない、感動の人間ドラマ
’88年度「第41回日本推理作家協会賞」受賞作。文庫の帯の「書店員さん大絶賛!!」の惹句に、思わず7刷目の本書を手にとってみた。 「夫殺し」の起訴事実をすべて認めた被告人と、あくまで無実を主張する弁護人。事件の「真相」を明らかにして、無実を勝ち取ることが、被告の利益を最優先するのが務めの弁護人にとって、いいことなのかどうか、これが本書のテーマのひとつである。 裁判の進行につれて明らかになる秘められた意外な事実・・・。裁判とは何なのだろうか。真実が明るみに出ることは、ある人間の不幸を導き出す。被告人は、このことを避けるために、無実の罪を背負う覚悟をしたのだ。このドラマこそが本書のもうひとつの、そしてメインのテーマである。 本書は、終始、法廷内だけを舞台にして、‘私’こと、ある司法記者の目を通して、進行してゆく審理を追ってゆく。この独特のスタイルが、弁護人の行動、証人たちの証言、被告人の心理状態を生き生きと描写する結果を生んで、ただの法廷ミステリーの範囲を超え、本書をして、発表から20年経っても色褪せない感動の人間ドラマとならしめている。
関連する文学賞
- 日本推理作家協会賞 第41回(1988年) ・受賞