日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
ジャスミンの残り香 ――「アラブの春」が変えたもの

開高健ノンフィクション賞

ジャスミンの残り香 ――「アラブの春」が変えたもの

田原牧

『ジャスミンの残り香:「アラブの春」が変えたもの』は田原牧による作品で、受賞として記録されている。受賞情報と書誌情報を照合し、作品単位の紹介として読めるよう、題名から伝わる主題と受賞作としての位置づけを中心に整理した。

受賞作現代文学書誌確認

作品情報

田原牧『ジャスミンの残り香:「アラブの春」が変えたもの』の受賞作情報と書誌状況を整理した作品紹介。

Amazon JP、NDL OPAC、出版社公式ページを確認対象として、NDL OPACで『ジャスミンの残り香:「アラブの春」が変えたもの』の図書書誌を確認した。日本の紙書籍の原則に従い、ISBN-10とASINは相互補完した。 作品紹介は、受賞回に記録されたタイトルと著者情報を基礎に、入手可能な書誌情報と照合してまとめた。

レビュー要約

  • 受賞作としての記録を起点に読まれる作品で、題名と著者の組み合わせから作品単位の関心が確認できる。読者反応の数値化よりも、書誌の確定性と受賞文脈を重視して整理した。

書籍情報

出版社
集英社
発売日
2014-11-26
ページ数
256ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784087890051
ISBN-10
4087890058
価格
2379 JPY
カテゴリ
本/社会・政治/外交・国際関係

「革命」は徒労だったのか。 この出来事は日本人にとっても、決して対岸の火事ではない。 三十年にわたり、アラブ世界を見続けた気鋭のジャーナリストが、中東民衆革命の意味を問う! [著者情報] 田原牧(たはら まき) 1962年生まれ。87年中日新聞社入社。名古屋社会部、カイロ支局勤務などを経て、東京本社(東京新聞)特別報道部デスク。日本アラブ協会発行・季刊『アラブ』編集委員。著書に『イスラーム最前線』(河出書房新社)、 『ネオコンとは何か』(世界書院)、『ほっとけよ。』(ユビキタ・スタジオ)、『中東民衆革命の真実』(集英社新書)がある。

レビュー

  • イスラム革命の奔流にのみこまれた「アラブの春」への哀惜

    この本は書かれるべき人によって書かれた。(書かれる意味もない本や書く資質を欠いた著者による駄作がこの世には氾濫している)少々大げさなもの言いになるが、この本を書くためにこの人の人生はあったという気さえした。 2011年チュニジアに端を発し中東各地に波及した「アラブの春」運動の消長を見守り、その意味を問い続ける優れた日本人ジャーナリストによる記録。一読、著者の情報収集の深さ・分析力・表現力の高さに圧倒される。ことは「革命」に関わる事柄だ。取材は独裁権力に反対して立ち上がった住民それぞれの思想と意見の聴取が中心となる。ノン・ポリで生きてきたような記者には荷が重すぎるだろう。 田原氏は高1の時からすでに新左翼系の運動に加わっていた。「当時の新左翼運動は、運動の盛りを過ぎた分、先鋭化した爆弾テロや陰惨な内ゲバに明け暮れていた。ご多分に漏れず、大学で大手の政治セクトとののっぴきならない対立に巻き込まれ、運動から離れた」。「その後バイトで糊口をしのぎつつ、無聊を託つ日々が続いた」が、新宿の本屋の片隅で「パレスチナ解放人民戦線」のパンフレットを見つけ、ダマスカスの連絡先を訪ねる決意をする。「他人には腐るほど語りながら、自分の目では一度も見たことがない、生の革命運動の現場を訪れてみたいという衝動に駆られた」。著者の中東との出会いである。その後カイロ・アメリカン大学に語学留学、帰国し中日新聞記者となった。 こういう人物のもとに、あの盤石のムバラク軍事政権がカイロ市民のデモによって倒れるかもしれぬというニュースが飛び込んでくる。チュニジアに続く革命が起きそうだ。「これまで腐るほど革命という単語を耳にし、自らも口にしてきたが、実際に革命の瞬間を見たことはなかった」。田原氏は居てもたってもいられず、止める上司を説き伏せ自費でカイロに飛ぶ。そしてタハリール(解放)広場に群がった市民を目撃し、政権の崩壊に立ち会うことになる・・・・ だが、この本は、エジプトにおける「ジャスミン革命」の興奮を伝えるための本ではない。「革命」は成程ムバラクの強権を倒したが直後に出現したムルシ・イスラム同胞団政府は一年もたたぬうちに、軍の頂点に立つスィースィー国防相のクーデターでひっくり返されエジプトは軍政に戻った。 ではあの革命は一体何だったのか、すべては徒労だったのか。答えを求め田原氏は2014年1月タハリール広場を再訪する。「裏切られた革命」の痕跡を訪ね歩き、人々に問う。ジャスミン革命は人々を変えただろうか。これらの課題に応えるのが本書である。 今にして思えば「アラブの春」はやがて訪れる「イスラムの春」への先駆けに過ぎなかったのかもしれない。専制政治を打倒した市民やリベラルの運動は抗うことのできないイスラム原理主義の奔流にのみこまれ、ついにはイラク・シリアにおける「カリフ制・イスラム国家」出現にまで行き着いてしまった。時代は今や「カリフ制」イスラム圏の再興、イスラームの国際政治への再登場をめぐって動いている。が、これら昨今のめまぐるしい動きも全て「アラブの春」を契機としている。この革命が何だったのか、運動に参加した人々の思い、イスラム主義に対する葛藤を丁寧に拾い上げた本著の価値は高い。私は感動し読みおえた。

  • アラブの春の話

    特になし。

  • 「アラブの春」の話のはずなのに、

    日本の原発批判とかが出てきます。 エジプトで「アラブの春」が起こったあと→民主主義に基づいた選挙で→ムスリム同胞団が勝利、ムルシ大統領が就任→エジプトはイスラムが国教だが、イスラム主義の活動は禁じられている(だからイスラム同胞団は活動が禁止されていた)のに、イスラム色を前面に押し出した政策を展開→軍がムルシ大統領とイスラム同胞団を拘束、軍が政権を握る(事実上のクーデター)→ムルシ大統領は死刑判決 こういう事実については事実をねじ曲げることなく記載されていると感じますが(どこまで本書に書かれていたのか記憶にない)、それ以外の著者の主張については本書の趣旨とかけ離れていてい読んでいてイライラしました。 結果的に、本書に何が書かれていたのかよく思い出せないくらい、中身の薄っぺらい本になっています。 この本が2014年第12回開高健ノンフィクション賞受賞作ということは、選考委員も原発政策に不満を持っている等、著者の主張に頷ける部分があったのだと思いますが、 「アラブの春」が変えたもの ... という副題からは大きく外れていて、私としては期待はずれの一品でした。

  • 内容はアラブ社会の放浪記

    「ジャスミンの残り香」には007pから207pまで「救い」が無い。同じ放浪記のドンキホーテ(ラマンチャの男)にしてもペールギュントにしても最後には救われる。それで田原氏は救いを求めて終章を起しているが、残念ながらアラブの放浪は政教軍民入り乱れて古くて新しい。この輪廻がどんな形で安住するのか、日本に居て思考するのは勿論無謀、永年付き合っておられる氏が現地で感覚を研ぎ澄ましても、そこから将来を見据えることはこれまでの動向を見る限り容易ではないであろう。しかし、アラブの窮状を知れば、そこに住む人達の安寧を願わずにはおられない。 田原氏の洞察がアラブの進路に少しでも光明を投じることとなるよう祈ります。 身辺の安全には十分お気を付けください。

  • 「アラブの春」は、民衆が権力を獲得したりシステムを変えたりはできなかったが、民衆一人一人を変え、強くすることはできたのだ。

    田原牧(1962年~)氏は、北海道生まれ、麻布高校在籍時に都内の定時制高校の統廃合反対運動に参加し、明大政経学部に進学したものの、新左翼セクトとの揉め事で大学を追われた。その後、小規模広告代理店勤務、フリーのジャーナリストを経て、中日新聞社に入社し、湾岸戦争、ルワンダ内戦等を取材。1995~96年にカイロ・アメリカン大学アラビア語専科留学、1997~2000年に中日新聞カイロ特派員、また、同志社大学一神教学際研究センター客員研究員、季刊誌「アラブ」編集委員等を務め、東京新聞(中日新聞東京支社)特別報道記者。紙面では戸籍名の田原拓治名義でも執筆している。2014年に出版された本書で、開高健ノンフィクション賞を受賞。 本書は、2010年末から2012年にかけてアラブ世界で発生した「アラブの春」を取材するために、2011年末~2014年初に、エジプト、シリア等の国々を繰り返し訪れ、著者が見、聞き、感じ、考えたことを綴ったノンフィクションである。同時に、日本において、東日本大震災による福島第一原発事故をきっかけに、2012年に発生した反原発デモ「紫陽花革命」にも触れ、社会運動・革命とは何なのかについて考察している。 「アラブの春」は、チュニジアの「ジャスミン革命」を発端に、北アフリカから中東のアラブ諸国にほぼ例外なく広がったが、その規模は、チュニジア、エジプト、リビアのような政権の打倒に至った国から、サウジアラビアのように小規模な抗議運動に留まった国まで、様々である。そして、「アラブの春」後の情勢は、エジプトのように強権的な軍政権に戻った国があれば、シリア、イラクのようにイスラーム過激派組織(ISのような)が台頭し混乱が広がった国もあり、その結果は「アラブの冬」と呼ばれることさえある。 各国の状況は異なる中で、取材の中心となったエジプトでは、(事実をシンプルに整理すると)2011年初に大規模な反政府抗議運動が発生し、わずか17日後に30年以上続いたムバラク政権が崩壊、2012年初までに段階的に実施された総選挙で「同胞団」が圧勝し、同年6月に同胞団幹部のムルスィーが大統領に当選した。しかし、ムルスィー政権は、公約になかったイスラーム化政策を進める一方、リベラルな公約を反故にし、市民の不満は募った。その傍ら、軍は独裁政権時代の力を維持しており、2013年初夏に同胞団政権の退陣を求める市民運動が始まると、軍は事実上のクーデターでムルスィーを解任したが、その後、独裁政権時代の実力者たちが息を吹き返し、2014年初夏には軍総司令官だったスィースィーが大統領に就任、現在に至っている。 この事実だけ見れば、エジプトは3年前に戻っただけのようであり、著者は、まず「すべては徒労だったのか?」という問いを立てるのだが、長年の中東駐在経験に基づく人脈と知識、更には堪能なアラビア語を駆使して取材を進める中で、そうではないという結論に至るのである。それは、「革命の意味はその結果ではなく、過程にこそ宿る。・・・それは革命の主人公である民衆一人一人の変化だ。人間が強くなることと言い換えてもよい。革命の理念が成就すること、あるいは自由を保障するシステムが確立されることに越したことはない。それに挑むことも尊い。しかし、完璧なシステムはいまだなく、おそらくこれからもないだろう。・・・革命が理想郷を保証できないのであれば、人びとにとって最も大切なものは権力の獲得やシステムづくりよりも、ある体制がいつどのように堕落しようと、その事態に警鐘を鳴らし、いつでもそれを覆せるという自負を持続することではないのか。個々人がそうした精神を備えていることこそ、社会の生命線になるのではないか。」ということだ。 そして、この点において、「アラブの春」と日本の「紫陽花革命」の残したものは、基本的に異なるとするのだ。 「アラブの春」で起こった事実を理解するのは、アラブ世界における、宗教(イスラーム教)はじめ、部族や国やその歴史についての深い知識がないと難しい。が、本書において著者が伝えたかったことは、おそらく、その詳細な事実ではなく、アラブ世界においては、我々日本人が表面だけを見て理解するのは難しい、様々な背景があるということと、何より、こうした社会運動は、たとえ表面は変わらなく見えても、人と社会を変えるのだということであろう。 読み終えて、小熊英二のベストセラー『社会を変えるには』をふと思い出した。 (2024年6月了)

  • アラブの革命の行方

    アラブの現在を一方的に非難したり、同情したりするのでなく、混乱を混沌のまま描いており、優れた力作だと思った。

  • 同胞団など、イスラム組織の歴史と解説。

    カイロ支局勤務もした中日新聞記者による、ジャスミン革命以降の イスラム世界の変遷。 アラビア語を話し現地に住んだ著者の取材譚はなかなか面白いが、 それはごく一部で、学生運動や原発など自らの政治信条の開陳が 半分近くを占めており、「開高健ノンフィクション賞」受賞作として ふさわしいのか疑問に思う。 残念。

  • 中東にあって、日本にないもの。

    著者は、東京新聞特報部の記者だという。 骨のある記事をいつも書いている新聞だが、やはりこういう記者がいたのか、と納得した。 本書は中東、アラブの春についての本だが、 本当のキモは、「ひるがえって、日本はどうか?」というところではないか。 くしくも同じ2011年に、中東も日本も大きな転換点を迎えた。 いまだ<騒乱>が続く中東に対し、まるで何もなかったかのような日本。 それでいいのか? このままで本当にいいのか? 著者の当てどころのない怒り、がこの本には充満している。 いまの日本人が是非読むべき、素晴らしい本だ。

関連する文学賞