作品情報
級友たちの生け贄として凄惨ないじめの標的にされた少年が、独自の「論理」を通じて生存の暗部に迫る。
第37回新潮新人賞受賞作。田中慎弥のデビュー作で、『図書準備室』に併録された。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2012-04-27
- ページ数
- 235ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 10.7 x 1 x 15.1 cm
- ISBN-13
- 9784101334820
- ISBN-10
- 410133482X
- 価格
- 455 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
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レビュー
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作家と世界との遭遇の瞬間
田中慎弥のデビュー作品集である。表題作と新潮新人賞受賞作の「冷たい水の羊」を併録している。僕は「冷たい水の羊」から読み始めて大変面白くて感心した。 主人公の真夫は級友たちの生け贄としていじめの標的にされている。他のクラスメイトたちは真夫と比べられることによってどうにかいじめられない側の輪の中に留まろうと必死になっている。ところが真夫はいじめられている自分を相対化するために「自分はいじめられていない」という一見矛盾する独自の論理を作り出す。 真夫は毎日のように金をせびられる。いつも用意しておいた金を渡す。金がない時は屋上に連れていかれ殴る蹴るだけでは済まない屈辱的な暴行を受ける。 論理が薄れ、いじめという三文字が近づいてくる。真夫は目だけを動かせる。海峡がぼやけて見える。 水原という女の子が唯一なぜか真夫がいじめられていることを気にかけている。ところが逆に真夫は彼女を殺そうと考える。包丁を買い彼女を殺すチャンスを待っている。そして自分も一緒に死のうとしている。 いじめを苦にした自殺というのは古くて新しい社会問題だから、それをそのまま描いても小説にはならない。ではどう描くかが問題になる訳だが、田中慎弥は徹底的に心の闇の奥の奥まで、果てしない暗部の核心へと迫ろうとしているようだ。しかも非常に高度な抽象概念を用いて。 本書の解説は新進気鋭の作家である中村文則氏が書いている。彼は「デビュー作は未知(作家)と世界との遭遇の瞬間といえる。その作家の本質的な部分が現れるともよく言われ、独特の魅力が宿る」と書いているが納得した。
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初期の頃は、今とはちょっと違う作風
この作家の作品は、むしろ芥川賞を取って少し有名になってからのものを読んでいる。そのためか、このデビュー当時の作品は、作風が今とはちょっと違うように感じた。まず、「冷たい水の羊」は表現が荒削りな感じがする。たぶん、今同じテーマで書かれれば、もう少し洗練された文章で書くのではないか。また、「図書準備室」は設定がとても不自然である。伯母に働かない理由を訊かれて、世捨て人に見えた教師から聞いた戦争中の話を持ち出すのは、(しかも、かなり長々とした話である)どう考えても、小説のために無理して作った設定でリアリティーがまるでない。どこか別の場面で、教師ではない男からそのような戦争中の話を聞いたことにできなかったのだろうか。こちらの作品も、まだ、プロとして駆け出しで、小説を書き慣れていないような感じがした。
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美しくてオリジナルな風景描写
デビュー作『冷たい水の羊』の方をおもしろく読みました。 とりわけ印象に残ったのは風景の描写。 決して美しい光景ばかりを書いているわけではないのですが、 擬人法を用いた風景、あるいは季節の推移の描き方は、 これまで読んだことのないものでした。 多くの小説では、情景描写というのは申し訳程度だったり、 紋切り型だったりしますが、 田中さんはしっかり自分で見た光景を自分の言葉で表現していると感じました。
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ギリギリくる
目を見張る展開とか深い考察とか新しい表現などは特になく、 さらっと読んでしまったのですが、後からギリギリきます。 自己投影できる部分がなかったので、昔の自分を思い出して 色々考えているうちに鬱になってしまうという自虐装置のようでした。 私は「図書準備室」よりも「冷たい水の羊」の方がギリギリ度が高くて好きです。 ただ、読んでいるとどうしてもあの受賞会見を思い出してしまい、 あの人が、ふーん、そうなんだーみたいな下種な読み方をしてしまった事を 深くお詫びしたいと思います。
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構成が変
作家本人が一押しの新人賞作品「冷たい水の羊」が題にならず、 駄作が題になって文庫になる意味が不明、でした。新潮のやりそうなこと。
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芥川賞作家のデビュー作
冷たい水の羊、デビュー作でこれは単純にすごいと思った。主人公が海で溺れる場面、最後の鳥居の場面は圧巻だった。 大長編「燃える家」にかなり濃い形で繋がっていると感じた。
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田中慎弥という名の個性
『共食い』だけではもったいない田中慎弥の秀作がふたつ。◆表題作である『図書準備室』を一言で形容すると、金八先生に 出会えなかった者のいいわけとなるだろうか。三十過ぎて働かない理由を直ぐとは答えず、尋ねた伯母も(読者も)嫌になる くらいの長話を興ずる。その中で昔、リンチを主導した中学教師の罪を白状させるのだが、その教師(吉岡)はもちろん金八 でないので生徒を懐柔する術を持っていない。挨拶されないことを咎めるでもなく、(怖がらせてしまったことに対して)頭 を下げただけ。この時もしも改心させられていたのなら、まともな大人になれただろうという理屈を答えとみるべきか否か。 いつも逃げ出す従妹の娘を飽きさせなかったことには拍手するが、金八の笑顔の裏に潜む醜態を見せてくれなかったという不 満は残る。 「もっとやれ」 ◆まさか読者の願いが聞こえたわけではあるまい。もう一つの収載作『冷たい水の羊』の大橋真夫の心の声である。この小説は、 いじめを認識しなければされていることにならないとする論理を携え、無抵抗の羊であり続ける真夫の視点を中心に、加害者・ 告発者・被害者の両親の気持ちにも触れているが、そのどれもが孤立している。例え救われないとしても、いじめの標的となっ た子供を持つ父母の苦悩が『ナイフ』や『セッちゃん』(共に重松清作)あたりで示された頃よりも、問題の深淵が深まったと 言えようか。真夫の視線は最初から向こうの世界(黄泉国)に注がれており、(水原里子の存在はさておき)そこに辿り着く方 法を画策する点が北条民雄の名作『いのちの初夜』を想起させる。だが、この著者の命の表記は、若くして死ぬ運命を背負った 北条とは比べるまでもなく軽い。言いたいことはそれが悪いとか嫌いではなく、罠を仕掛けることのみ心を砕き、そこに獲物 (読者)を引っ掛けることを愉しんでいるふうに映る。読んだ者の「三島由紀夫ごっこ」の声さえ計算済みのようなデビュー作 において、書き手の野心が形を変え、政界進出を目指す真夫の父伸二に憑依したと読めなくもない。なるほど。「もっとやれ」 とは『図書準備室』の童女の声であり、くどくどしい長話で周囲を煙に巻いた著者自身のそれである。この人なら、いつかもっ と大きい価値転倒をやってのけてくれそうな気がする。いや、未読の小説の中で既に書いているかもしれない。
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印象的な
「図書準備室」(『新潮』2006年7月号) 前半三分の二は叔母に対する一人語りで、いつものように何が言いたいかわからないが、後半に入って一気にマジックが発動する。 「冷たい水の羊」(『新潮』2005年11月号) デビュー作。中学生のいじめられっ子の話。十年掛けて書いたというが前半三分の二の語りはほぼ一気に書いたのだろう。その先、視点が巡る。顔に後を残さないように殴るとか、制服を脱がせてから冷水の入ったドラム缶に入れて小水を掛けるとか、気を遣ったいじめ描写が面白い。いじめる側の心理が入っているので重層的だが、以降の作品では、視点を移して描写しなくても、それが読み取れるように構成されているので、成長を感じる。ラスト付近の雪の赤さが印象的だが、ナイフが使われなかった(エンタメとは決別しているから)から受賞となったのだろう。
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