月のころはさらなり
母に連れられて田舎の古い庵に来た少年・悟が、不思議な力を持つ少女や生意気な少年と出会う。閉ざされた場所の習わしと謎に触れながら、忘れがたい夏を過ごす青春ミステリ。
作品情報
田舎の庵で過ごす夏が、少年に異界と成長の入口を開く。
井口ひろみのデビュー作。古びた庵、鈴ならし、預かり子といった言葉が、少年の目を通して少しずつ意味を持ち始める。夏の記憶とミステリの緊張が重なる物語。
レビュー要約
-
民俗的な雰囲気と少年の戸惑いが読みどころになっている。大きな仕掛けよりも、夏の閉ざされた空気と謎めいた人間関係を楽しむ作品として受け止められている。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2008-01-01
- ページ数
- 186ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784103063612
- ISBN-10
- 4103063610
- 価格
- 2251 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
Amazon.co.jp: 月のころはさらなり : 井口 ひろみ: 本
レビュー
-
懐かしい,怖い夢を見た ...
タイトルは枕草子,夏は夜.舞台となる御千木という地名の読み方が頭に入らず,この物語のもつ怖さが募る.御茶ノ水と同じだ,と気が付いて安心するが,奇妙な怖さはそのまま.それなのに不思議と違和感のない非日常性.サトルが母と故郷に行き,いろいろな非日常的体験をしたあげく自らも非日常的能力を身に付けて帰る.怖さは次第に薄れ,なんだか読んでいる方もそんな能力があるような奇妙な気になる.読んだあとの気分は爽快.何故非日常が当たり前に思えるのか,考えた.そうか,これは夢なのだ.サトルが大人になって,父親を他人と思えるようになるために見る夢なのだ.男の子は遅かれ早かれ父と精神的に別れる.その通過儀礼としての夢だから,読んでいる方も共感するのだ.それにしても何たる巧みな文章だろう.先が楽しみな作者だ.
-
綺麗な風景画
第3回「新潮エンターテイメント大賞」受賞作品。 訳あり的な親子は、17歳の息子悟とその母園子。 この二人が奇妙な庵にやっかいになる数日間の物語。 悟の緊張がほぐれていくのと並行して、物語の謎が消えていく。 奇妙な庵も、小さな村で生まれた逃げ場所であり、人が生きる知恵の一つだと言える。 丁寧に日本の古い暮らしを描いているのだけど、人間関係の描き方が希薄なのだ。 人と人のしがらみが持つ哀しさが描けていたらと思う。
-
田舎に行きたくなる本
読み始めは大した出来事も無く、退屈な本だな〜と 思って読んでいましたが、読み進めると田舎のキレイな情景描写に 次第と引き込まれていきました。 鈴鳴らしや魂振り、その他風習など 不思議な世界観があり、いい感じに陶酔できます。 方言も私の地元のものと似ており、懐かしかったです。 田舎に行きたくなりました。 しかし、気になる点もいくつかあります。 真のボキャブラリが多過ぎ、小学生にしてはかなり不自然です。 (妹とのギャップも激しすぎる) 悟と茅の心理のやり取り(特にラスト)が 安っぽい恋愛ドラマのようで興ざめでした。 そこらへんの高校生でも書けそうです。 文学部西洋哲学科を卒業している著者には 大人でも楽しめる心理描写をお願いしたかったです。 真彦が最後『すっげえ、感動してる』との伝聞があったが、これは無い。 寧ろ、人の家庭の問題にずけずけと入り込んでくる青二才の悟を 無視するでなく、丁寧に対応していた真彦はかなり人間ができている。 真を見送りに行かせたのは、園子・悟・真に対する 真彦の優しいサービスだと解釈しています。 全体的に人間全般の描写が物足りなかったです。 情景描写・世界観・清涼感の出し方はグッドです。
-
実は現代社会の深層を田舎暮らしに照射して見せた深い話
だった気がする。 序盤は単調で退屈だったけれど、だんだん引き込まれた。 お母さんの顔がなかなか見えなかったんだけれど、ラストできちんと描写されていて一安心。 筆者の抑えた筆致もよくて、ラストの主人公と茅の会話などは、シロウト作家ならずぶずぶのお涙頂戴ものに流れてしまうところを、きちんと踏みとどまって描いているなあと感じた。 『人はいつだって幸福でなければいけないなんて考えはおかしい』 この一文がいたく気に入った。