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性の進化史 (新潮選書)

毎日出版文化賞

性の進化史 (新潮選書)

松田洋一

多様な生物の性決定と染色体の進化を、ヒトのY染色体の現在からたどる科学読み物。性がなぜ存在し、雌雄や性転換がどのように生まれるのかを、ゲノム研究の知見とともに解きほぐす。

性決定染色体進化有性生殖ゲノム研究

作品情報

ヒトの染色体から、生き物が性を進化させてきた長い時間を見渡す。

新潮選書の一冊として刊行。精子減少、Y染色体の退化、性決定遺伝子、生殖補助医療、ゲノム編集までを射程に入れ、生命が次世代へつながる仕組みを進化史として描く。

レビュー要約

  • 専門的な話題を身近な問いから展開する点が評価されている。生物の多様な性のあり方を通じて、人間中心の理解を揺さぶる構成が読みどころとされる。

書籍情報

出版社
新潮社
発売日
2018-05-25
ページ数
269ページ
言語
日本語
サイズ
12.8 x 2 x 19.1 cm
ISBN-13
9784106038273
ISBN-10
4106038277
価格
1430 JPY
カテゴリ
本/科学・テクノロジー/生物・バイオテクノロジー

男性はいつか、この地球上から消えてしまうのだろうか? 地球に暮らす175万種類近くの生物には、温度などの環境によって雌雄の比率を変える生物もいれば、性のない生き物すらいる。そもそも、なぜ性は存在するのか? なぜヒトには雌雄同体がないのか? 性転換する生物の目的とは? 命を次世代に継いでいくため、驚くほど多様化させてきた生き物たちの「性」の通史。

レビュー

  • 染色体に焦点を当てた丁寧な記述

    これまで私は、生命科学の「最先端」は、「クリスパー・キャス9」などDNAレベルのもので、「染色体」というのは、普通の顕微鏡でも見える高校の生物学レベルの話だと勘違いしていた。とんでもない! 本書によって、生命体の進化などは、性決定に関わる染色体の解明に大きく負っていることを知った。ヒトの染色体数が分かったのは何と1956年であり(DNAの二重螺旋の発見より後)、そして、ヒトのY染色体上に性決定遺伝子SRYが発見されたのは1990年である。遺伝子やゲノムの研究は、生命の生殖をコントロールする性染色体の解明と平行的にしか進まない。遺伝子の位置を示す「染色体地図」が重要なのだ。ヒトでは性染色体異常が他の動物より圧倒的に多いのは、SRY遺伝子がX染色体やY染色体の「くびれ」のすぐ近くにあるために、組み換えの「間違い」が起きやすいことから説明される。本書でもっとも驚かされたのは、X染色体とY染色体の非対称性の巨大さもさることながら、この非対称性が進化を解明する重要な着眼点になることだ。D.ペイジらのアカゲザルのY染色体の進化の研究は凄い! 3億2千万年前の哺乳類分化から現在のヒトやアカゲザルまで、Y染色体におけるたった5つの遺伝子がずっと変わらずに生き延びて、性決定に関与していることが明らかになった。卵子や精子は減数分裂するが、その際の「組み換え」がポイントで、女性はX染色体が二つあるので、損傷したり突然変異した遺伝子は、組み換えの過程で修復される。しかし男性はX染色体もY染色体も一つしかないので、組み換えによって修復ができず、傷ついた遺伝子はそのまま次世代に伝承される。Y染色体に至っては、それが極限まで進み、30個程度しか生きた遺伝子は残っていない(それに対して、女性のX染色体は1098個の遺伝子が生きている)。つまり、Y染色体における遺伝子のDNA配列のばらつきを、他の哺乳類と比較すれば、進化の経過が分るのだ。3億2千万年前まで遡れるとは何と凄いことだろう。男性のY染色体はあと500万年ほどで消滅し、ヒトに男性はいなくなるというジェニファー・グレイブズの説は疑わしいという、著者の見解も面白い。進化におけるY染色体の「退化」と、生殖補助医療によって欠陥のある生殖遺伝子が次世代に持ち越されるという問題は、まったく時間もレベルも違う問題であり、それぞれ真剣に考えなければならないことが分る。「もうすぐ男性はいなくなるから婚活を急ぎたまえ」といった悪質な冗談に振り回されないためには、性決定関わるX染色体Y染色体の正確な知識が必要である。本書の意義はとても大きなものがある。

  • 雄とは何かを探求している

    化学的進化により有機物が誕生し、生物が発生。単純な分裂増殖から性が誕生するも、その誕生は単純ではなかった。更には、性の進化の成れの果てを予測する。神秘から真実を探る展開は読みふけってしまいます。少し専門的にはなって初めての方には難しいかもしれません。

  • 大宇宙を見るかのような染色体

    名前だけは知っている染色体。ヒトの染色体の中で、いま何が起きているのか。 いままで専門書はあっても、高校大学、あるいは一般の社会人が手にとって読めるような本はなかった。 それを書いてくださった。だから一から始めて、最後には、山中ファクターも、うん、そうかとわかるようになったし、最先端まで連れて行ってもらえた。 なんと不思議な大きな世界だろう、我々すべてが持っている肉体の中で、染色体がどのような動きをしているのか、大宇宙を見るような気分だ。 なぜ、性が存在するのか。ここから始まるが、そもそも女性になるようにできているのだという。アダムとイヴの正反対だ。 血友病などの伴性遺伝の章では、ロシア・ロマノフ王朝の例が、ヨーロッパ王室の家系図を示して解説される。結果、思わぬところでアナスタシアの結末に納得することができた。 どの章も、わかりやすく、丁寧で、しかも伝えようという情熱があふれていて、その気持ちが読む側にダイレクトに伝わってくる、まるでレクチャーを受けているような貴重な本だった。 やがて最後の12章にくると、人類の未来が嫌でも視界に入ってくる。 そこには、生殖補助医療なしには子が生まれない、脆弱なヒトが増える世界が見えてくる。 生命の誕生を補助するという生殖補助医療の本来の目的から逸脱し、人為的に作り出された精子と卵子から新たな生命を誕生させることの危険性が強調される。 ゲノム編集が本来の目的から逸脱してデザイナー・ベビー作出という発想に至る、この危険性を指摘している。 著者は、「遺伝子操作によって、子供の遺伝子を改良し、欠陥がなくて(これも個人的な価値基準に基づくものですが)強く、美しく、そして健康な子供」を造り出す(造り出してあげる)ことは、決して親の権利でもなく、ましてや親の愛情などであるはずはありません。このような発想自体が、優生学的思想を彷彿とさせるものであり、大きな危険性をはらんでいる」と書いている。 この通りだと思う。 染色体というものを知らなかった時代よりも、はるかに難しい困難な思考と判断を迫られることになっている今、学ばなければならない。

  • 染色体の観点から,1000万年後にはヒトの雄がいなくなる?

    50年をまたいだ2つの時点で精子量の差を比べています(p16). 地球温暖化問題と同じで,もっと長いスパンで見たら違う見方が得られるかもしれません. 「食品添加物や...まだ疫学的なデータはまだほとんど得られていません」(p19)とあります. ほとんど(とは?)得られていないからといってそれらが原因でないとは言えません. 食品添加物や電磁波は最近出てきたものなので,最近の精子量しか見ないのであればなんとも言えないです. 精子間競争の話があります. 自然淘汰によって,精子の運動能力が高い個体が生き残ったのでしょうか. ハムスターの卵子を使った実験が紹介されています(p20)が,なぜヒトの卵子を使わないのでしょうか. 途中で自然に細胞分裂が止まる必要があるのでしょうか. また,この本は2018年出版ですが,この実験は1986年のものです. もっと最近では,違う種の卵子を使う問題点を克服した実験が存在しないのでしょうか.

  • まぁ、そうなんだろうけどなかなか大きな声で言えないよね

    本書で言っているのは、男性に必要なY染色体が弱くなっているのでこのまま行けば男性が消滅してしまう→人類が滅亡してしまうということ。 本書で指摘しているのは不妊治療などの生殖補助医療について。 自然界であれば自力で子孫を残せない種や個体は絶えていくが、人間の場合は補助によってその力の無いものでも種を残せてしまうこと。 その遺伝子が残れば、子孫だってそうなっていくわけで… 一夫一妻制で弱い個体でも子孫を残せるようになったし、医療の発展で弱い個体でも子孫を残せるようになった。これはこれで良いことではあるけど…弊害も。というのが本書の内容です。 みんなが子供を残すことは悪いことではない。 でも、今こういうことになっているという事実を書いた本です。

  • 一夫一婦制が男をダメにする!?

    タイトルは「性の進化史」と意味深だが、「性染色体の研究史」ですね。まじめな本です。 「染色体」って、46個あって、22対(=44個)の常染色体とXYまたはXXの2個の性染色体からなるということ、DNAの2重らせんがさらに折りたたまれたもの・・・ということは中学理科レベルで学びますが、それ以上のことはあまり知る機会がないのかも。DNA・遺伝子・染色体それぞれの関係はYouTubeなどで勉強するとよくわかります。 また、染色体(クロモゾーム)は細胞分裂の時以外は細胞核の中にほどけた形(染色質:クロマチン)として「あわあわ」と存在しています。それが細胞分裂の時だけ糸巻き(ヒストン)にまかれながらコンパクトに凝縮して23対になるというわけ。こういった基礎的なところは書いてはあるけれど端折り気味ですから予習して読むと理解が進みます。 DNAが自由自在に研究対象になる以前は染色体が研究の花形だった時代があるのでしょうね。DNA時代にはちょっと主流からはずれた分野という気もします。そんな染色体分野では性染色体のことがテーマとして面白いということで、本書もほぼ性染色体についてのさまざまな話題で飽きさせません。特にY染色体がますます壊れていって男がいなくなる?(数百万年後らしいですが)とは。 一夫一婦制がオス同士の精子の競争を封じ込めたので、競争力のない精子=Y染色体が授精したり、もともと授精能力の乏しい精子=Y染色体を生殖医療でむりやり授精させたりしていると、進化論的に弱いY染色体が残ることになるというのが一つの結論でしょうか。乱婚や婚外子の容認なんてとこまでは踏み込んでいませんが、ちらっとそんな方向性を感じてしまいました。

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