日本の文学賞

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天盆

C★NOVELS大賞

天盆

王城夕紀

盤上遊戯を思わせる勝負の世界を舞台に、才能と執念、家族や共同体の記憶を描く長編。知略と身体感覚が交錯する緊張感で読ませる。

勝負才能家族

作品情報

「天盆」は、受賞記録と書誌確認から輪郭をたどれる作品である。

盤上遊戯を思わせる勝負の世界を舞台に、才能と執念、家族や共同体の記憶を描く長編。知略と身体感覚が交錯する緊張感で読ませる。 書誌識別子は Amazon JP、NDL Search、出版社・書店情報を照合し、単行本・文庫として確認できるものだけを記録した。

レビュー要約

  • 作品の設定や語り口に関心が向けられている。読みやすさを評価する声がある一方、公開された読者反応は限られるため、評価傾向は控えめに整理した。

書籍情報

出版社
中央公論新社
発売日
2014-07-24
ページ数
273ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784120046346
ISBN-10
4120046346
価格
1430 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

盤戯「天盆」を制する者が国を征する! 家族の思いを背負い歴史に挑む異能の十歳が辿る運命とは。C★NOVELS大賞特別賞受賞作

レビュー

  • 天に向かって疾走するかのごとき「異才」と「想い」の関係を描いた大傑作

    まずこの作品を読むにあたっては一気読みするのに十分な時間を用意した方が良いと、本作に興味をお持ちの 方々には申し上げておきたい。270ページ強のさして長いとは言えない小説であるが、ここまで全編に渡って 疾走感に溢れる作品をここ数年読んだ試しが無かった。恐らくは秋山瑞人の影響を受けた文体なのであろうが、 あの当人以外に再現不能と言われる秋山文体が持つ読者の脳内に鮮明な映像を喚起させる独特の密度と疾走感の 並立にここまで迫った文章はちょっとお目に掛かった事が無い。手に取ってしまえば一気に引き込まれページを 捲る手が最後まで止まらない濁流の様な勢いに押し流されてしまう、そんな作品なのである 物語は「蓋」と号する小さな国の東端、たびたび隣接する強国「陳」の侵攻を受ける東塞と呼ばれる町で将棋に 良く似た盤戯「天盆」にうつつを抜かす少勇という男が陳兵が攻め込んできた騒ぎの中、助け出した妻の静と ともに橋の下に捨てられていた赤子を拾う場面から始まる。凡天と名付けられた赤子は全員が捨て子であった 十二人の兄姉の下で、ロクに稼ぎの無い少勇に代わって日々の暮らしを支える静が営む百楽門食堂ですくすくと育つ 三歳になった凡天が不思議な天盆の才能を見せた事から少勇は次男で天盆士を目指す二秀に教授役を任せる事に 他の兄姉を簡単に負かし二秀とも五分という程になった凡天だったがある日、借金返済の催促に来た商人・千獄の 使いが二秀を穀潰しと侮辱した事が元で夏街祭の天盆大会へ出場する事になる この序盤での凡天の天盆大会出場を機に、凡天の疾走が始まる。舞台となる蓋は国を挙げての天盆大会・天盆陣を 通じて人材の登用をする制度が定着しているが国を四つに分けての予選、東塞の町であれば東盆陣、を平民が 勝ち抜いても都で開かれる決勝大会、天盆陣は過去三十年に渡って平民の勝者が出ていない。その裏には権力を 独占しようとするこの国の中枢に座する者たちの影がちらつき、決して表で謳われる様な天盆の才だけで立身出世を 図る事は叶わない様な仕組みが出来上がってしまっているのだが、それでも天盆陣に挑む天盆士や、彼らを応援する 平民たちはそれぞれの想いを天盆に託しているのである。本作で描かれているのは主人公の凡天の異才では無く、 その天盆に想いを託す人々の姿である この作品、270ページで完結する作品でありながら、べらぼうに登場人物が多い。凡天の兄姉が十二人もいる辺り からして普通では無いのだが、彼ら百楽門食堂の面々を始め、東塞の町の人々、裏の賭け天盆で稼ぐ真剣師、女が 天盆を打つ事を周りに疎まれている女流天盆士、極悪商人の息子や横暴な武門の跡取り息子、東盆陣を数十年に渡って 征し続けている王者、将棋の棋譜に当たる天譜を書き留める事に精を出す天譜屋とその倉を住処としている不思議な翁、 そして蓋の政治の頂点に立つ天代やその孫であり、最後に凡天の前に立ちふさがる同い年の少年・白斗…この膨大な 登場人物が各々の想いを胸に入れ替わり立ち替わり現れる 普通、これだけの人物を出してしまえば持て余し、描き分けることなど叶わない筈なのだが、天盆士には天盆に 賭ける想いを、百楽門の家族にはお互いを想う心を明確に抱かせる事によって見事に血肉の通った登場人物として、 ただの一人も無駄キャラとして使い捨てる事なく描き分け切っているのである。これがどれほど並外れた技量であるか お分かり頂けるであろうか?ライトノベルなどと違い、本作にはただの一枚もイラストは無い。でありながらも、 全ての登場人物のそれぞれに異なる顔が明瞭に思い浮かぶのは一つ一つの台詞や地の文を僅かも書き流さず、 みっちりと情報が詰め込まれた文章の密度のなせる業かと ここまで文章の密度が高いと通常は文全体のリズムやテンポが失われ、読み辛い印象を読者に与えてしまうのだが、 270ページを九十三章に区切り、猛烈な場面転換を繰り返し、視点とその章の語り手を細かく切り替える高速ザッピング的な 文体で文章に独自の疾走感を産み出しているのである。その怒涛のごときスピード感の中で何が描かれるかと言えば、 各章の語り手から次の語り手への想いの繋がり、と言うべきであろう 異能の持ち主である凡天自身はおよそ主人公とは思えないほど胸の内を語らない。ただ、時に朗らかに、時には 真剣に、そして常に目の前で展開される十二×十二の天盆の升目の中で産み出され続ける天盆の流れと戯れている だけなのである。その天と戯れる様な凡天の生き方に家族や天盆を挟みあう天盆士たちが想いを託していくのである 勝負事である以上、負ければ相手の天盆に懸ける想いは断たれるのであるが、その想いを託された凡天は想いを 重い枷の様に感じるのではなく、更に自分を天へと押し上げていく翼とするかの様に蓋の最高峰、天盆陣の舞台へと まっしぐらに駆け上がっていくのである 特に天盆陣の一歩手前、国の東で開かれる東盆陣の場面ではこの天盆士から天盆士への想いを託す流れが強調されている 武門の息子であり義と武が全てと信じて疑わない帳君、病の妻子を抱えながら今年限りと決めた天盆に挑む懐円、 女の身で天盆に挑み人生は己の力のみで切り拓く物と信じて疑わない紅英、三十年に渡って東盆陣を征し続け 平民が国の中枢に至る道を信じ続ける最善手の打ち手永涯…様々な天盆士が現れては敗れ去り、その想いを勝者に 託していく想いの繋がりが一本の太い流れと化していく様は圧巻であった。その中を無心に天盆と戯れ続ける凡天は 脇目も振らずに駆け抜けていく その「ただ天盆を楽しむ」という幼い凡天の人生観を産み出した少勇と静の出会いから始まる「家族である事に 理由なんか必要無い」という生き様がこの物語のもう一つの軸となっている。序盤の天盆大会で町を牛耳る悪徳商人の 息子を破った事から百楽門食堂は取引を断られ食材を仕入れる事にも事欠く位に追い詰められ、二秀も東盆陣に 出場する為に所属する事が必要な天盆塾を追い出されるのだが、次から次へと少勇の家族を追い詰める苦難を家族の 絆が押し返す様が途切れることなく描かれている。物語中で兄の一人、十偉が家を飛び出し闇の社会に飛び込んでいく エピソードや利発な姉の六麗が奉公先で危難に陥る話なども描かれるが、その度に「家族がいるから自分の人生は 楽しめる物になるのだ」という少勇の想いを受け継ぐ兄弟たちが苦難を押し返し続けるのである。その家族の想いが 凡天に好きなだけ好きな様に天盆を打たせようと自らの身を投げ打ってでも、権力に押し潰されそうになっても 貫かれる様はまことに力強い想いの波として読者に伝わってくるであろう この凡天に想いを託し続ける人々の流れはやがて圧政を敷く国の中枢に対する東塞の反乱へと繋がり、終盤では 都で天盆陣に挑む凡天の姿と都から乱の鎮圧を名目として押し寄せてきた都兵の軍勢に政庁へ立て篭もって都から 一手ごとに伝えられる天盆陣の様子を窺いながら抗う東塞の民の姿が重なり合う様にして描かれ、凡天の才に 腐敗し切った蓋の政治を覆す事を夢見る人々の想いが一本に束ねられていき濁流の様な想いの流れへと化していく様 が圧倒的な筆致で描かれる 天盆士たちや家族たちの想いを受けて天盆陣に臨んだ凡天の未来は思いもかけないラストシーンへと繋がるのであるが、 その最後の一文に至るまでに膨大な登場人物たちの想いが凡天という異才を軸に結い上げられ、結び付けられて 腐敗に埋もれて沈滞していた国を動かす力にまでに至る流れがただの一度も途切れる事を感じさせなかった。他人に 想いを託されるという形で「天才」を描いた作品は幾つか思い当たるが、それが世界を動かす力にまで上り詰める 作品は後にも先にもこの作品だけではないだろうか? 「家族の絆」と「勝負の世界に懸ける想い」という二つの想いを一人の天才を軸に見事に纏め上げた大傑作 これがデビュー作と言う事であれば、王城夕紀という本作の作者はいったいどこまで上り詰めるのだろうか …ちょっと想像がつかない。計測不可能な才能が現れてしまった。超新星のごとき輝きを持った作品とはまさにこの事

  • 全く知らんボードゲーム

    この世からもなくなってしまったボードゲームの最後の一瞬を描いたお話。 将棋の駒の動かし方を知っていると倍楽しめる。

  • 大切にしなきゃいけないものってあるよね

    蓋という中国の小国のような架空の国、天盆という将棋のような架空の盤戯、血の繋がらない十三人兄弟姉妹。 書きようによっては大河ロマンになってしまいそうなところを、リアリティーを求めすぎず、とてもよいテンポで話は進む。 映像化するとすれば、映画ではなくアニメか。 CGだとリアルな感じを出そうとする嘘臭さがこの物語をダメにしてしまいそう。 テンポがよい分、深みはないけれど、それぞれの人生と、夢へ突き進むというそのスピード感が、 天盆の駒の打ち筋と駒の動きと相俟って、巻き込み巻き込まれる感が心地よい。 素直に主人公である凡天の天盆好きにシンクロする。 天盆好きから来る凡天の神々しさ、その礎となっている家族やひとの繋がりに、 ああ大切にしなきゃいけないものってあるよね、と思う。

  • 何度読んでも、痛快で、ぐっとくる。

    一度目、コーヒーを啜りながら一気にめくりたおす。 二度目、人物の関係図を傍らにじっくりと追う。 三度目、珈琲と描写をたっぷり味わう。 動乱の世の中。「天盆」という将棋のようなゲームに魅せられた少年、凡天。 これを制する者は国を制するとされるため、深入りするほどに様々な危機がふりかかる。 それでも彼は、ただひたすら「楽しいから」、どこまでも追求していく。自身の生命を落としかけ、家族を度重なる危機に巻き込んでしまっても。 家族とは何か?出会いは偶然でも、絆をつくるのは当人の意志。理由なんかいらない。あるといえばあるし、ないといえばない。 凡天はある意味、『義経千本桜』の義経のようでもある。彼をめぐって魅力的な登場人物が何人もサブストーリーを紡いでいる。 それぞれのキャラがまた際立っていて、いくつもの場面が生々しく目に浮かぶ。映像化を妄想せずにはいられない。 お父さんの少勇は、『最後の忠臣蔵』の演技が浮かんで役所広司。凡天は、伝統芸能関係の御曹司。他にも、実力派俳優の活躍しどころが山盛り。 「これは、かつてどこかにあった国での物語」とは、冒頭の一文。 人間社会も地球環境ももはや限界という感が強まる時代、自由に向かい、楽しんで生きることこそが最も大切… そんなことを思い出させ、あるいは後押ししてくれるこの作品は、「いま、ここでもありうる物語」でもある。

  • 久々の大当たり

    読後、矢も楯もたまらなくなって、初めてレビューを書きます。 将棋に似た架空の盤戯『天盆』と、家族の物語。 とにかく軽快なテンポと真摯な情熱が大きな流れとなって、頁を繰る手を止められない作品でした。 登場人物それぞれが志を持ち、夢中で駆け抜ける様は非常に清々しく、美しい。 そして対局時の場面ではたっぷりと「夢中」を追体験できました。 ああいった表現ができるのは小説ならではだと思います。 久しぶりにどっぷりと読書の醍醐味を味わえたように思いました。 好みの分かれる結末だとは思いますが、情熱の奔流そのままに突き抜ける様は圧巻で、小気味好かったです。 読後は充実感で胸が一杯になりました。

  • これは…熱い

    一気読みしました。読ませます。 古代中国の一国を思わせる「蓋」という小さな国で、 将棋を思わせる「天盆」という盤上遊戯の才を持つ者たち、 その中でも際立った「天盆」の才の権化のような「凡天」が駆け抜ける軌跡の話。 勝つこととは、生きることとは、何か。家族とは。 きらめく才能があふれだし、奔流となり、そして前人未到の境地へと至る主人公。 その周りの家族や対戦者はもちろん、名前も出てこない登場人物に至るまで血が通い、 いいな面白いなと読んでいるうちに、いつのまにかこの物語の熱気に巻き込まれていました。 久々に気持ちいい話を読みました。作者の今後に期待大!

  • 突き抜けた清々しさ

    素晴らしいですね すべてが美しく、最後まで美しく こんな美しい小説は初めてです

  • 最後がちと

    楽しく読みました。 ですが最後あまりにも呆気なく終わってしまって 寂しく感じてしまいました。 この作者の他の作品も読んでみたいと思います。

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