作品情報
統一をめぐる外交の綱引きを、ゲンシャーの視点から読み解く。
中央公論新社の中公選書として刊行された、板橋拓己によるドイツ統一史。ベルリンの壁崩壊から統一までの外交交渉を追い、ヨーロッパの分断を克服していく過程を最新史料で描く。
レビュー要約
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史料の読み込みを背景に、複雑な国際関係を説得的に描く点が評価されている。ドイツ統一を外交史として立体的に読む手つきが強い。
書籍情報
- 出版社
- 中央公論新社
- 発売日
- 2022-09-08
- ページ数
- 288ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 2.5 x 13.1 x 19.1 cm
- ISBN-13
- 9784121101297
- ISBN-10
- 4121101294
- 価格
- 1760 JPY
- カテゴリ
- 本/社会・政治/政治/国際政治情勢
一九八九年に「ベルリンの壁」が崩壊し、ドイツ統一への機運が高まる。だがソ連のゴルバチョフは統一に反対。英仏やポーランドも大国ドイツの復活を危惧し、米国のブッシュは冷戦の勝利とNATOの維持拡大を優先する。冷戦後の国際秩序について各国の思惑が交錯する中、「ヨーロッパの分断」を克服する外交を展開したのが、西ドイツ外相ゲンシャーだった。本書はドイツ統一をめぐる激動の国際政治を、最新の史料を駆使し描き出す。
板橋拓己 1978年栃木県生まれ。2001年北海道大学法学部卒業、08年同大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。成蹊大学法学部助教、准教授などを経て、16年より教授。22年より東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授。専攻は国際政治史。著書に『中欧の模索――ドイツ・ナショナリズムの一系譜』(創文社、2010年)、『アデナウアー――現代ドイツを創った政治家』(中公新書、2014年)、『黒いヨーロッパ――ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋」主義、1925~1965年』(吉田書店、2016年、日本ドイツ学会奨励賞受賞)。編著に『歴史のなかのドイツ外交』(吉田書店、2019年)。共著に『EU政治論――国境を越えた統治のゆくえ』(有斐閣、2020年)。ほか共著、訳書多数。
レビュー
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外交史研究の面白さを実感できる一冊
本書では、冷戦の終焉を象徴する東西ドイツの統一という国際政治の一大事件を、西ドイツ外務省、特に連立与党の党首として18年にわたって外相を務めたゲンシャーの役割を中心に検証している。 歴史的には、NATOを東に拡大する形で冷戦後のヨーロッパの安全保障が確立したわけであるが、当時の外相だったゲンシャーはドイツの統一と東西分断を超えた全ヨーロッパ的平和秩序の構築を同時に目指そうとしていた。昨今のロシアのウクライナ侵攻を見ると、果たしてどのようにドイツ統一を進め、ヨーロッパ全体の安全保障体制を構築すべきだったのか、考えさせられる内容となっている。 最近公開されたドイツの外交文書を含む、各国の公開された資料を活用し、ドイツ外交史の新たな側面を浮かび上がらせている。あくまで史料に基づき、それらを丁寧に読み解くことで検証を行なっており、歴史学者としての誠実な姿勢も感じられる。歴史が好きな人には是非ともおすすめしたい。
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レベルの高い研究
レベルの高い研究成果。星4つなのは、ロシアに関する叙述内容(というより著者の基本的スタンス)に納得がいかなかったから。ドイツ分断の克服過程で、ロシアに対する西側諸国のアプローチが慎重→傲慢となっていったこと(NATOの東方拡大)がロシアを追い詰め、ウクライナ問題につながったことを忘れてはいけないと思う。
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西ドイツ外相ゲンシャーを軸に見るドイツ統一
本書は、東西ドイツ統一の過程を描いた一冊である。 本書の大きな特徴として、これまでのコール中心史観を脱し、西ドイツ外相のゲンシャーの外交を軸に据えて記述していることである。 基本的なドイツ統一前後の流れは、読者はある程度知っていることを前提にしている描かれ方であり、その点は注意が必要である。 ゲンシャーは、長らく第三党の地位にあったFDP(自由民主党)の党首である。ゲンシャーは長く政権に入っており、ゲンシャー外交の大目標は比較的一貫していた。それはドイツ統一、欧州統合、全ヨーロッパ平和秩序構築、軍縮緊張緩和を目指しており、本書ではコールよりもゲンシャーの方が壁崩壊以前にはドイツ統一に熱心な描き方をされている。 当初はゴルバチョフからのコールの評価は低かった(コールはゴルバチョフでもソ連は変わらないと評していた)のに対し、ゲンシャーがうまく取り持ってゴルバチョフとの関係構築をしたという描かれ方をしている。一方ゲンシャーの軍縮路線はアメリカとの緊張を生むが、それも適切に解消していったとされる。 壁開放時には、コールやゲンシャーは(ゴルバチョフなどの不安を踏まえ)人々に冷静な行動をとるように呼び掛けてブーイングを浴びたりしているのは面白い。 その後はドイツ統一に警戒する英仏をうまく押さえながら立ち回る外交の話が中心に描かれる。 ゲンシャーは東西和解による冷戦終結をめざしており、ソ連もそのために乗りやすい状況になったが、結局西側勝利による冷戦終結となった(アメリカやコールがその路線であることが確定したとき、ゲンシャーもそれに従った)、という点が、ドイツ統一におけるゲンシャーの立ち回りについての本書の軸である。 本書は最初の3章が通史で、4,5章でNATO、6章でオーデル・ナイセ線の話が出ている。国境を動かすことは全く現実的でないのにこれが論点になったのは、西ドイツ内政事情(右派の不満への警戒)からコールがギリギリまで国境画定を引き延ばそうとしたからだとされている。 ゲンシャーを中心に描いて従来の記述を刷新しようという試みなので、知っている人には面白い一方で、一冊目にドイツ統一を学ぶ際の本ではないという印象も持つ。また、本書は外交一辺倒で描かれており、西ドイツ内部での動き(例えばコールとゲンシャーの関係)も東ドイツでの動きもほとんど描かれていない点には注意が必要である。 一冊目であればサロッティの 1989 上:ベルリンの壁崩壊後のヨーロッパをめぐる闘争 やラダーの ドイツ統一 などの方がいいだろう。 また、壁崩壊そのものは本書では一瞬で終わってしまうので、そこに至る人々のドラマは 1989 世界を変えた年 などを見るといいだろう。 本書はそういう意味である程度詳しい人向けだが、知っている人ならドイツ統一における新しい視点を得られる好著だと思う。
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