作品情報
海辺の生と死は、限られた形式の中に時代と人の気配を刻む作品。
『海辺の生と死』は、島尾ミホによる文学作品。1974年の受賞作として、題材を絞り込んだ表現と、人物や土地、時代の手触りを読者に残す構成が評価された。 受賞歴の文脈では、派手な要約よりも、形式に合った語り口と読後に残る問いが作品の核になる。
レビュー要約
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読者の受け止め方は、題材の珍しさや語り口の強さを評価する方向に寄る。作品の背景を踏まえて読むほど、構成の意図や余韻が伝わりやすい。
書籍情報
- 出版社
- 中央公論新社
- 発売日
- 2013-07-23
- ページ数
- 239ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 10.7 x 1.2 x 15.2 cm
- ISBN-13
- 9784122058163
- ISBN-10
- 4122058163
- 価格
- 713 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
記憶の奥に刻まれた奄美の暮らしや風物、幼時の思い出、特攻隊長として島にやって来た夫島尾敏雄との出会いなどを、ひたむきな眼差しで心のままに綴る。第十五回田村俊子賞受賞作。
レビュー
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選りすぐりの宝石のように美しい短編集。
まるで、心地よい言葉の連なった絵本を読んでいるような短編集。 言葉がキラリと光り、素直に描写する光景の中に入っていける。 Ⅰでは、商売が下手でいつも失敗する父親、子育てに一所懸命な母親、雌山羊 から子どもが産まれる様子、牛を解体する様子。言葉の持つ調べを横糸に、島の 暮らしを縦糸に、何ともない情景から、強く生と死を感じる短編まで五編を含む。 まったく何という美しい文章か。 「空も山もいちめん茜色に包まれ、峠に立った小さな私のからだもその中に染ま り、手をさし出せば掌に掬えそうなあかいぬくもりで、からだの芯まで染められ ていくかと思える中に、じっと空をみつめて立っている」。平明な言葉でその情 景を見事に描いている。こんな文章を書ける人がいるんだという思い。また、ハ ンセン病者への、「長い業病の果てに後生の世に旅立ち、墓までも区別されてい た淋しい人が灰になって子供たちの胸に抱かれ、明日は内地の墓地へと出立して 行き、再びは帰ることのないであろう島での最後の魂の踊り納めとあって、人々 はそのひとの霊魂との別れを惜しんで踊りました。」こうして病者を送り出す島 の人々。「島九題」では島の暮らしをゆっくりと描いている。ゆったりした時の 流れの中で、何ともない情景を胸に迫るように描写する。 Ⅱ「旅の人たち」では、沖縄芝居の役者達、支那手妻、赤穂浪士、の事など。 哀切であり余韻も深い。てらいなく文章を重ね、哀しみの漂うかすかな心地よい 匂いがある。写真で切り取ったような、情景を切り取った瞬間の美しい描写。海 に囲まれた島では旅の人は異邦人であるが、「まれ人」として歓待する。 Ⅲ「ワーキジャ(我々の慈父)」と呼ばれた、島尾敏雄のこと。乙女心のひた むきさ。島尾敏雄に会たいと最後の夜(特攻として出撃すると思い込んだ夜)に 書く、手紙のいじらしさ。一目でもよいからどうしても死ぬ前に会いたいと、そ う思うミホの姿に胸が詰まる。白装束に身を固め、ひたすらに愛する人とともに 死のうとする。濃密な愛の哀しみが二人を包んでいる。戦時下という特殊な極限 状態での愛の形なのだろう。ここまで心を燃やせるその輝かしさ。俊雄の側に行 きたい一念で、ミホは臆することなく基地に向かう。 解説は吉本隆明が書いている。確かにこの短編集では、「生と死」・「聖・賤」・ 「貴と俗」が、その境目をなくしたように互いに混じり合う。 不思議な不思議な、美しい文章。 お読み下さい。 おすすめします。
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短編集に終わっているのは期待外れ
常盤新平さんの紹介で島尾敏雄著「死の棘」を読みました。その延長上で散々旦那さんを困らせた奥様に著作があることを知り その人となりに興味を持ちました。短編集の中では「その夜」が良かったと思います。よくわからない方言に訳注がつけられていたのは助かりました。
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純真な心
実は、作者を取り違えて購入した本でしたので、余り期待をしていた訳ではありませんでした。 でも読み始めると、すぐに引き込まれてゆきました。 奄美大島の南にある加計呂麻島と言う地域性と、終戦直前と言う時代性と言う非常に特殊な状況下での、純真な少女である主人公の物語です。 物語とは言っても、この話は実話です。 作者とその伴侶となる島尾敏雄との出会いの物語です。 この本の魅力は、何といっても島尾ミホの純真な文章です。 そこには、若々しい魅力的な力があります。 島にやってくる役者衆や曲芸師、浪曲師、踊り子たちとの出会いのシーンが、多々あります。 その驚き、期待ぶりは、若さが飛び跳ねている様です。 私自身は、戦後生まれですが、子供の頃、旅役者などの興行に胸を躍らせた経験があります。 そうした感情は、大なり小なり同じものでしょう。 当時は、身の回りに娯楽はなく、こうしたことだけが唯一の愉しみでした。 そのあたりの感情の発露が、見事に文章になっていると言う様に思えました。 そして、特攻隊の隊長としてやってきた島尾敏雄との出会い。そして、憧れ。 その純情な作者の思いがよく伝わってきます。 この本を読んでいると、幼いころ、若いころの自分に戻されて行くような、そんな気持ちにさせてくれる不思議な本でした。
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個人史が神話になっていく島
私がこの小さくも、美しい本を手にとったのは、ロシアの映画作家ソクーロフの映画「ドルチェー優しく」を観たからでした。終戦の年に生まれた父の書棚に、島尾敏雄の本が何冊か並んでいるのを見かけたことはありましたが、島尾夫婦について詳しいことは知りませんでした。映画では監督の独白によって、島尾家の個人史が、どこか遠い国の民話のように優しく語られました。 こちらの「海辺の生と死」は、島尾ミホさん個人の視点から書かれています。子供の頃の奄美、加計呂麻島。海の向こう(本土や琉球)からやってくる旅芸人たち。夜毎息づく、神々の世界が、思い出話しとして淡々と語られます。 中でも興味深いのは、やはり島尾(敏雄)隊長が島にやってきたときの挿話です。島の人々は軍人を怖れていたのですが、老人の荷を持ってやったり、部下を「さん」付けで呼んだりする島尾隊長に親しみを抱きます。それがいつしか彼を神格化し、彼の唄までつくり、加計呂麻島が無事なのは隊長のおかげとまで崇めます。このように素朴な宗教感覚、あるいは神話が生まれ出ずる過程をつづった本があったでしょうか? 戦後東京に移り、夫となった島尾敏雄の顔しげしげと眺めながら、著者は島尾隊長の面影をどこにも見出すことができなかったと言います。聖なる場所や時間から離れたとき、なにか特別な力が失われてしまったのです。島尾家の人々の日常がはじまったのです。その先は「死の棘」を読んでいただきたいと思います。
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