作品情報
『樹影譚』は、短い題名の奥に人物、時代、土地の気配を重ねる作品です。
文芸春秋刊行の『樹影譚』に収められた作品です。『樹影譚』は丸谷才一による、人物の記憶や関係の揺らぎを通じて、時代や人生の陰影を描く作品です。受賞作として、題名が示す主題を軸に、読後に残る余韻を重んじた一作として位置づけられます。
書籍情報
- 出版社
- 文藝春秋
- 発売日
- 1988-08-01
- ページ数
- 172ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784163103303
- ISBN-10
- 4163103309
- 価格
- 120 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
自分でも不思議な樹木の影への偏愛を描いて川端康成賞を受賞した表題作ほか、秀作「鈍感な青年」「夢を買ひます」の二作を収録する
レビュー
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不思議な印象が
20年ほど前に単行本で読み不思議な印象が残っていたので文庫購入。 丸谷さんの小説は正直あまり好きではなかったがこの本だけは特別。 広い壁に写る樹木の影に美しさを見いだす感性は素晴らしいと思う。 わたしは首相官邸裏側の壁を何度か見に行って、感銘を受けました。 旧かなづかいも、この小説の雰囲気にマッチしていると思います。
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技巧的な語りの妙
3篇の短編が収録されていますが、「樹影譚」は噂通りの秀作でした。語り手がずいぶん偉そうに語るのですが、それが実は意図的な仕掛けだというのは、「樹影譚」を最後まで読めば明らかでしょう。最初の「鈍感な青年」では語り手が主人公をずいぶん突き放して語るのですが、これはもし主人公に共感的に語ってしまうと、隠すべきことが隠せなくなってしまうのだと思います(するとベタな話になってしまいます。三浦雅士氏の解説の理解に賛成します)。3篇目「夢を買ひます」は女性の一人称語りですが、彼女が「先生」を変な人として語る口調が豊かで生命力に溢れているから、この作品は読んでいられるので、そうでなければただの甘いお話になってしまうでしょう。作者はこの女性を魅力的にしゃべらせる自信があるのだなあと思いました。
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巧み。
"垂直に立つ面に映る樹の影、殊に並木の影がいい。何かなつかしいような、やるせないような気分にひたることができる"1991年発刊の本書は川端康成賞受賞の表題作を含む三篇。上手くて豊かな傑作小説集。 個人的には主宰する読書会の課題本として手にとりました。 さて、そんな本書は壁に映る樹の影というイメージへの偏愛宣言と小説論を 披露した後で、幼少時の記憶までさかのぼっていく表題作『樹影譚』図書館の閲覧室で並んで本読む男女の話『鈍感な青年』"ね、聞いて聞いて聞いて"と宗教学者に女が語る『夢を買ひます』の3つの短編が収録されているわけですが。 どの作品も冒頭からの始まりが見事で、また【軽快で知的な作品を書くことを目指した】著者らしく文章全体からも余裕が感じられて小説の面白さを堪能させていただきました。 またやはり表題作の『樹影譚』は構成含めて巧みだと思いましたが、収録作の中では何故か太宰治の『女生徒』を思い出した『夢を買ひます』がその流れるような軽快なテキストもあって気に入りました。 著者の手に取りやすい短編集として、また精緻で大胆な小説。としてもオススメ。
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「ぢやあかういふのはどうだらう?」
『鈍感な青年』『樹影譚』『夢を買ひます』の3つの短編を含む本短編集が単行本で出版されたのは1988年と言いますから昭和63年、翌年から平成がスタートするという時期にも関わらず、本書の短編はいずれも旧かな字が使われており、これがなんとも味わいがあります。 たとえば 「ぢやあかういふのはどうだらう?危険なことはないとぼくが約束する。それを君が信用する・・」 「さういふ約束つて、ぜんぜん信用できないんですつて」 「それはまあ、さふだな」 てな具合。 そして個人的に面白いと思うのは、いずれの作品においても、本筋ではない視点から物語が導入していく点が共通するということです。 『鈍感な青年』は、二人の若者を主に備えた物語ですが、スタートは図書館の館員の視点から始まります。館員が仕事終わりに酒を飲みながら図書館を訪れる若い女学生と別の大学生らしい若者の関係を想像しながら話をしている場面からスタートし、これが気が付いた時には若者の視点に移っている。 『樹影譚』では丸谷才一による、どういうわけか以前から樹の影に心を惹かれる、そこで、これからこういう小説を書きますよと宣言した後、小説家古谷逸平を主人公とした物語が始まる。さらに古谷逸平の考える小説が物語内物語として入れ子形式のように展開され、見事な着地点を迎える。 『夢を買ひます』でも主人公リカが近くに住むマユミと雑談している場面からスタートした後、本筋のリカと先生の物語へと展開していく。 個人的には、落語でいうマクラのような効果があるように思いますがいかがでしょう。 何度も繰り返し読み返さないとホントの理解はできないようにも思います。 そして何度も読み返してみたいと思わせる文学的技巧の凄さを感じます。 丸谷才一作品を読むのは本書が初めてだったのですが、他の作品も読んでみたくなります。
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樹影譚から
村上春樹が取り上げたことで注目された「樹影譚」 理由はどうあれ、これで若い人の目に留まればと思います。仮名遣いが古いと言うことで、違和感をもたれるかもしれませんが、文章自体は難しい事も古めかしいこともなく、割と楽に読めるはずです。個人的には村上春樹よりずっと読みやすい。 ホラーではないのですが、ホラーより怖いと言っても過言ではない。何が怖いかよくわからないけど、最後まで読むとかなりぞっとします。 世代が違うと名前も知られていないかもしれませんが、短編を入り口に触れてもらいたい作家です。
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初の丸谷才一作品
歴史的仮名遣いでいてポップ。
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今回の主人公は小説家
村上春樹に「こはい、こはい」と言わしめた作品。一貫して職業人を主人公として描いてきた丸谷氏が、ついに主人公を小説家に設定(この時点で凄まじい蘊蓄が、さりげなくかつその職業に従事している証拠のように滔々と語られることが覚悟される)。コンクリートの灰色の壁に映ずる樹の影に何故か魅了される主人公。断片的な現実と構想世界、あるいは幻想と意識が流れるままに小説は完結する。川端康成文学賞受賞作。
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終端の小説世界の飛躍にただ驚かされました
淡々と語る、淡々とした主人公達の世界が最後の最後で驚異的な展開を持って異次元のような別世界へ読者を誘う稀有な短編小説3編でした。 図書館で出会った男女の最初の恋と急激な女性の心理変化を描いた物語「鈍感な青年」。樹の影に心魅かれる著者自身と老小説家と悠久の時を描いた物語「樹影譚」。若い女と宗教学の教授の不倫関係が奇妙なテーマで結ばれ解れ(違った形で再び)結ばれる物語「夢を買います」。 村上春樹氏が本書に収められた「樹影譚」を自著で取り上げていたので購読しましたが、最後の展開を体験するだけでも一読の価値があると思います。個人的には著者の他著を購入するのは遥か先になりそうですが。。。 2021年に村上春樹さんのBRUTUSからの批評追記 「少し長めの短編小説というところだが、文章にまったく無駄がなく、物語の奥が深い。読み返すたびにその印象が少しずつ変わっていく。色合いが変わり、風景の角度が変わり、肌触りが変わってくる。紛れもない名作だ。」
関連する文学賞
- 川端康成文学賞 第15回(1988年) ・受賞