日本の文学賞

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元首の謀叛(上) (文春文庫 311-1)

直木三十五賞

元首の謀叛(上) (文春文庫 311-1)

中村正䡄

東西冷戦下のヨーロッパを舞台に、ソ連の謀略と西側諸国の対応を描く国際政治小説。東西ドイツ国境線で起きる大爆発を発端に、戦争を避けながら勢力図を塗り替えようとする国家権力の思惑が交錯する。

冷戦東西ドイツ国際政治国家権力謀略

作品情報

東西ドイツ国境線の大爆発から、ヨーロッパの秩序を揺さぶる政治的陰謀が動き出す。

『元首の謀叛』は、東西冷戦の緊張を背景にした上下巻の国際政治小説。東西ドイツ国境線の大爆発を契機に、ソ連の野望と西側諸国の駆け引きが表面化し、世界大戦を回避しながらヨーロッパの地図を変えようとする権力の論理が描かれる。政治サスペンスとしての推進力と、冷戦期の不安を小説に取り込んだ構想が作品の核になっている。

レビュー要約

  • 国家の思惑と軍事的緊張を大きな構図で描く点が読みどころ。現実の欧州情勢を先取りするような発想と、直木賞受賞作らしい物語性が評価されている。

書籍情報

出版社
文藝春秋
発売日
1983-07-01
ページ数
270ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784167311018
ISBN-10
4167311011
価格
141 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

世界大戦を起こさずにヨーロッパ地図を塗りかえる――このソ連の野望に西側諸国はどう対処するか? 東西ドイツ国境線の大爆発にはじまる直木賞受賞の国際政治小説。(野坂昭如)

レビュー

  • 「元首の謀叛」の朝鮮半島版は

    東西冷戦のもとで不可能に思えた「東西ドイツの統一」をフィクションでやってのけた小説です。単行本は1980年(昭和55年)刊ですから、ソ連中央の政治局員にゴルバチョフが登場した年で、現実のベルリンの壁崩壊1989年、ドイツ統一1990年の約10年前になります。内容に立ち入っては、これから読む人に申し訳ない気もしますが、ごく簡単に紹介をしておきましょう。 冒頭は、東西ドイツ国境での東ドイツ側による埋設地雷の撤去(軍隊の進撃路開鑿)。ソビエト連邦はワルシャワ条約機構軍の西側への進攻計画とみせかけて兵力を動員、東ドイツを欺き、東ドイツ軍には西ドイツへの攻撃を促す。東西ドイツ開戦後は、「ドイツの内戦」であるとしてソ連、東ドイツ以外の東欧各国軍は中立、不介入を表明、アメリカ合衆国、英国、フランスなどのNATO軍へも介入しないよう要請する。アメリカはこの「内戦」を認めざるを得ず…。(ソ連には、東ドイツ戦勝の後、現西ドイツ領は統一ドイツに。現東ドイツ領はポーランド、ポーランド領はソビエトにという版図拡張計画があった。) ソビエトの真の意図を察知した東ドイツのホーネッカー議長は、西ドイツのシュミット首相に極秘裏に「親書」をひとりの東ドイツ人民軍中尉に託して送る。その内容は ①貴国側が先行してそれを使用しない限り、わが国はいかなる核兵器も使用しない。 ②武力行使がそこに拠らない限り、軍事施設以外には直接攻撃を加えない。 ③開戦の後、12時間を経過したとき、ドイツ民主共和国軍に対して全戦線に亙って一切の軍事行動を30分の間中断せしめる。これはわが国政府の貴国に対する停戦提案と解釈願いたい。 ④この停戦提案を受諾せられる場合は、貴国軍隊の軍事行動を、わが国軍の軍事行動中断中に同じく停止せしめられんことを。かくしてわれらが父祖の地から永遠に干戈の絶えんことを…。 かくして、東ドイツは、西ベルリンおよび西ドイツ領内に進攻、両国は戦争状態に入る。緒戦は東側の圧倒的戦力の前に、西ドイツ軍は後退に次ぐ後退(在独米英軍は基地から出撃しない限り東ドイツ軍は攻撃せず、まったくNATOの支援は得られないなか) 。 ホーネッカーの親書を了解したシュミット首相は、全軍に戦力の温存と持久戦を指示。一時はライン河西岸まで防衛ラインをさげることを検討する。 すでに東ドイツ国内には、西への進攻であいた間隙にソビエト軍が充満。ことはソ連の意図どおりの「ドイツの内戦」に進むかにみえた。内部情報により、ホーネッカーに意図を読まれたと知ったソビエトは、東ドイツ軍内のクレムリン派を使いホーネッカーを監禁するが、「内戦」の進行のなかで、東ドイツ軍内の反クレムリン派により解放され復権。 かくして東西ドイツの両首脳は、ふたたび相携えて開戦12時間後の「内戦の終結」に向かう。「ドイツの内戦」をうたっていたソビエトは、折から東欧各国で生起した民主化の波、民衆の蜂起もあり、いまさらの軍事介入もできかねて、この東西ドイツの停戦合意、ひいては近い将来の合同「統一ドイツ」の成立を傍観せざるを得ない。 というわけで、ドイツ統一の序章が終ります。その後の、ソビエトの巻き返しや西側諸国のドイツ再分断の動きを想定してか、この物語の最後の目次は「余震のおわり」、そしてエピローグは「本震の始まり」であります。 実際には、「存在する理由がなくならない限り、壁は50年でも100年でもあり続けるだろう(1989)」とホーネッカー国家評議会議長が演説したわずか10ヶ月後にベルリンの壁は崩壊。小説でヒーローの親玉であったホーネッカーの現実のその後は、失脚。失意の果てにチリで病没。 「ドイツ統一」もすでにご承知のとおりの経過で、平和裏に行なわれ、さらにはEUの成立、ということで、この小説はいまでは忘れ去られた昔話にみえます。 しかし、現在の朝鮮半島の核の問題、「最後の分断国家」のことを考えると、いまだにその発想はなかなかに精彩を放っています。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)2千5百万人12万平方キロと、南朝鮮(大韓民国)5千万人10万平方キロの統一はいつどのようにしてなるか。『元首の謀叛』の朝鮮半島版はどういう筋書きになるのでしょうか。その「元首」は金正恩か文在寅か?第三の者か。北朝鮮から見れば、物語中の東ドイツは「南韓」でありホーネッカーは「文在寅」、ソビエトは「アメリカ」。韓国から見れば、東ドイツは「北韓」、ホーネッカーは「金正恩」、ソビエトは「中国」「ロシア」か。そのシナリオの結末は…。朝鮮半島の非核化と南北統一国家の成立ということに果たしてなるか。そして、そのとき日本は。

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