日本の文学賞

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掏摸(スリ)

大江健三郎賞

掏摸(スリ)

中村文則

『掏摸』は、東京で裕福な人々を狙う天才的なスリを主人公にした長編小説です。かつて関わった闇社会の男・木崎との再会によって、主人公は逃げ場のない仕事を課され、運命を支配されるような恐怖の中へ引き込まれていきます。

犯罪運命都市の孤独悪の支配

作品情報

天才スリ師の手先の技と、闇社会の男が仕掛ける運命の罠が緊迫して交錯します。

緻密なスリの描写と、木崎がもたらす不条理な命令によって、犯罪小説の緊張と文学的な運命論が重ねられます。主人公が他者との小さなつながりを守ろうとするほど、暴力の影が濃くなる構造が、短い分量の中で鋭く迫ります。

書籍情報

出版社
河出書房新社
発売日
2009-10-10
ページ数
175ページ
言語
日本語
サイズ
13.7 x 2.1 x 19.5 cm
ISBN-13
9784309019413
ISBN-10
4309019412
価格
1430 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

東京を仕事場にする天才スリ師。 ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎——かつて一度だけ、仕事をともにした闇社会に生きる男。 「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前が死ぬ。逃げれば、あの子供が死ぬ……」 運命とはなにか。他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の想い、その切なる祈りとは——。 芥川賞作家がジャンルの壁を越えて描き切った、著者最高傑作にして称賛の声続出の話題作!

1977年、愛知県に生まれ。2002年『銃』で第34回新潮新人賞を受賞してデビュー。04年『遮光』で第26回野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で第133回芥川賞を受賞、10年『掏摸(スリ)』で第4回大江健三郎賞を受賞。

レビュー

  • 独特な設定

    スリのディテールがすごく作り込まれていてリアリズム寄りなのに対して、謎の犯罪組織とその幹部と思しき悪役の設定は全く象徴的で完全にディテールが不明という感じが面白いなと思った。エンターテイメントでありながら思想的でスリリングでセンチメンタルでもあって、すごく良かった。

  • ひとつの分岐点的な作品

    私が初めて中村文則作品に出会ったのが、この作品でした。 単行本で出版されたときに読んだのが最初です。 初めて読んだ時、よくできた物語だなと感心しました。 特に構成が素晴らしいと思いました。 主人公が掏摸というのも面白かったし、主人公が見ていた「塔」の存在が興味深かったし、それを作者も実際に見ていたというのはなかなか凄い感性だなと思いました。 しかし、作者の力量に感心しながらも、追って他の作品を読んでみることは、その時はなぜかしませんでした。 最近になって、気になる何人かの役者さんや芸人の方が、わりと中村さんの作品に影響を受けているということを知り、 そんなに影響力があるならちょっと他の作品も読んでみようとデビュー作から読んでいくことにしました。 すると、デビューから芥川賞をとる初期のあたりは、ずいぶんと作風が違うように感じました。 話の巧さというよりも、書かなければならないという強い迫力を感じ、ちょっと震えました。 そして「何もかも憂鬱な夜に」を読んで、ものすごく感動しました。正直、救われました。 小説を読んで、“救われる”という感覚を得たのは、それが初めてでした。 最新作の「教団X」や「あなたが消えた夜に」も読みましたが、そうやって古いものから新しいものまで辿って読んでみると、 この「掏摸」はひとつの分岐点だったのかなと思わされました。 ある種のエンターテイメント性が「掏摸」あたりからは加わったような気がします。 映像化しやすいというか。綾野剛さんも確か、白黒からカラーになった印象を受けたそうです。 たぶん、中村さんがこの作品を書くまでは、技術的なことよりも、書きたい想いの方が強かったのかな、と勝手に推測しました。 求めてくれる人、わってくれる人にさえ届けばいいと、一般向けとまでは考えていなかったのかもしれません。 でもこの作品からは、少し作品と距離を取りながら、構成とか展開とか技術的なことも考慮して、誰もが楽しめるような作品を作ろうとしているように思います。 それでも、彼がずっと描き続けてきた自分のテーマはしっかり作品の基礎に置いて、訴えるメッセージ性は損なわれていません。 「掏摸」が文庫化されていたことを知り、今回何年かぶりに再読してみましたが、もし最初にこの作品よりも前の作品を先に読んでいたら、はじめから中毒的に追っかけていたのかなと感じました。 この作品は洗練されており、そのためかそれ以前の切迫感のような息苦しさはありませんでした。 その後の作品も、同じように作品と作者にはほどよい距離感があり、職業作家としてひとつステップアップしているのかなと思いました。 でも個人的には、初期作品の切迫感がけっこう好きなんですがね。 (2017.9.17追記) 「R帝国」のサイン会で中村文則さんに直接お会いすることができました。 中村さんの小説に救われたと、なんとか感謝の気持ちを伝えることができました。 自然と涙が溢れてしまい、ちょっと恥ずかしかったけれど、中村さんはとても気さくに優しくさらりと気遣ってくれました。 中村さんにいただいた「言葉」、大切にします。一生の宝物です。

  • いまいちです。

    正直、すらすら一日で読めましたが、 全体的に面白くない。 深い話のようで浅い話だと思う。 もっとたくさん面白い本はありますので、 この本を読む必要は無いと思います。

  • 面白い

    何冊か著者の本を読んでるけど、列とR帝国は自分の思考の結構深いところに入った気がする、いろんな経験をする時にどことなく思い出す、最初は奇天烈だと思った考えもすごくらあたり前のように思える、もっとこの著者の考えを知りたい

  • 文章に難があるが、物語構成はいい。

    まず、この小説の欠点を先に書くと、次の3点となる。 ①読点を打ち過ぎている上に、打つ位置の間違いが多い。 文章の不必要な箇所に読点を打つことが多用されているために、読むリズムが乱され、読み難くなってしまっている。さらには、誤った箇所に読点があるために誤読を引き起こす場合が多い。もう少し丁寧に読点を打って欲しいと思う。 ②誤った表現がある。 「おもむろに」を突然に・急にといった意味で使用しているので、大変気になる。確かに今日、この意味で使用する誤用が多いのだが、登場人物が誤用したセリフとして使うならまだしも、プロの小説家が地の文で誤用してはいけないと考える。 ③主人公のキャラクターに不統一感がある。 主人公は掏摸として超一流で、私服刑事や万引きを見張る警備員を瞬時に見破る程の腕前を持ち、極めて困難な仕事をやり遂げる計画性と臨機応変さを示しているのに、尾行に全く気付かなかったり、危険な場所に連れて行かれる際には素人のように心理的に無防備になっていたり、フランスの貴族の話を聞いた後で、女と子どもに知り合ったことが仕組まれたものであるかも知れないという可能性に思い至らない。確かに人は完全無欠ではないが、「間抜けな超一流」感が出てしまっている。主人公にユーモアを感じさせる性格描写があれば、そのような点も納得できるだろうが、彼はクールかつ自己完結的。また、子どもに親切にしたり、かつての愛人を引きずっている割には世捨て人。彼が抱えているものが原因での行動や心理の不統一は、「塔」だけでは説明しきれていないと感ぜられた。 一方、この小説の素晴らしさは、物語構成である。スリリングな掏摸場面を挟みつつ、かつての強盗仕事に纏わるミステリーと、闇社会の仕事師の登場によるハードボイルドもしくはサスペンス・スリラーへの物語の変化の妙は素晴らしい。アルフレッド=ヒッチコックの映画のようである。闇社会の仕事師は少々語り過ぎで、その怖さが少し減るが、物語全体では説明を抑制して、読者の想像に委ねるところがいい。 もう一皮むけると、作者はソルジェニーツィンやカフカの閾に達するかな。

  • 母子の姿

    売春と万引きで生計を立てる、母子の姿が、読後も印象に強い。 母親の「化粧すれば結構マシだから。一万でいいから」という言葉で客引きをする場面に、この世界の暗黒を思い見る。 子供の方は、母親の彼氏からDVを受けたり、万引きを強制されたりと、支配から逃れられない。 この子供の存在は、残酷な運命の中で生きる主人公の写し鏡として描かれ、最後は、主人公の手によって救いの手が差し伸べられる。 その一筋の光は、作者の願いが込められた、もうひとつの物語として、小説世界を力強く支えていた。

  • 触れた途端に消える闇

    読んで感じたのは、描かれている“闇”より、 その闇を演じている感じの方だった。 刺激や虚無をまとってはいるが、実際にはどこか安全な場所で作られた過激さで、読後に残る重さはない。 こちらが人生経験で知ってしまった“本物の影”とは、質がまったく違う。 結局、ページを閉じた瞬間に思ったのはただひとつ。 これは、深みに触れる前に終わる物語だ。

  • 荒唐無稽な設定だが、エンターテインメントとして面白い。それとスリの手口の解説は面白い。

    〇 この作者の作風がよく現れた作品だと思う。ひとつは、作り話なんだからそれで良いだろうと言わんばかりの荒唐無稽な設定(確かにそれで良いと思う)。ひとつは、よく言えば硬質な、わるく言えば粗削りでぶっきらぼうな文体(それが持ち味であることも事実だ)。 〇 小説に何を求めるかは人によって異なり、小説に何を込めるかは作者によって異なるだろう。この作品は、エンターテインメントとしては十分に面白いと思う。何か深い思想や思索を求めれば不満は残るだろうけれども。それから、登場人物によって説明されるスリの手口は面白い。

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