作品情報
墓地へ向かう何気ない移動の中で、父の不在と記憶が日常の細部ににじむ。
墓地を見に行くという小さな行動を軸に、風景、連想、家族の記憶をずらしながら重ねる、尾辻克彦名義の初期短篇。
書籍情報
- 出版社
- 河出書房新社
- 発売日
- 2005-06-04
- ページ数
- 304ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784309407456
- ISBN-10
- 4309407455
- 価格
- 1868 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
父の遺骨を納める墓地を見に出かけた「私」の目に映るもの、頭をよぎることどもの間に、父の思い出が滑り込む……。芥川賞受賞作「父が消えた」など、初期作品5篇を収録した傑作短篇集。解説・夏石鈴子。
レビュー
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これからもいろんな人に「?」とか「!」とか感じてほしい
30年振りくらいの再読。30年前と言えば、好きな作家・小説など決まっておらず、文学賞受賞作を読み漁っていた頃かな。本作をきっかけに尾辻/赤瀬川ワールドに引き込まれていったんだ、確か。決定打は「少年とオブジェ」だったけど、きっかけは「父が消えた」。 不思議な読み物、という印象しか残っていなかったけれど、再読していろいろなことに気づく。 まず、尾辻/赤瀬川さんは視る人だということ。カメラ好きなのは有名だけど、いくつものレンズを駆使して世の中を視ているよう。いや、なんとも言えぬ想像力がこの小説の魅力でもあるのだけど、きっかけは何気ないことを何気なくちゃんと視る目力。ちゃんと見てるからこそ始まる想像力。 想像力と言えば、本作を読んでいると想像力と恐怖症はセットなのかな、と思ってしまう。高所恐怖症の話とか。 本書とは別の著作で尾辻さんだか赤瀬川さんだかが一時期先端恐怖症であることを読んだ。錐とかペン先とかだけでなく、机の角などが鋭角に迫ってくる。それは、とてもつらい症状なのだと思うけれど、ある時一歩引いて自身を見られるようになった時、ほかの人にはない想像力として表現に生きてくるのかな、などと思う。 そして、柔らかさと鋭さ。初期の随筆に見られる神経質さはうまく仕舞われていて淡々と時にほのぼのとした語り口なのだけど、時折りカッターで切りつけられるような物言いが出てくる。これは、後期著作にもある特徴なのだと思うけれど本書では、尾辻という名義で小説を書いているのだ、赤瀬川名義の作品とは違うのだよといった感じが、いい表現ではないかもしれないけれど、ちゃんと小説として書いているんだぜといった感じが、柔らかさと鋭さのバランスとしてして出てきていると思うのです。 30数年経っても、すごく新鮮な小説。読み継がれていってほしいとか、そんなことは思わないけど、これからもいろんな人に「?」とか「!」とか感じてほしい小説集です。
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今読むと・・・
さほど感銘を受けませんでした。ちょっと技巧が過ぎている気がします。安部公房なんかの影響が見えるかな。 私は赤瀬川原平名義のエッセイで本人のイラストが入ったものの方が好きです。
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独自な作品を生み出す悲しさ
芸術家の中には優れた作品を生み出しながらその生涯は悲しみに彩れている人が少なくない。この作者もその一人なのではないか。胸がつぶれるようなさびしさ、悲しさを感じないではいられない。
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疲れた時に癒される
この粒々の発想群とでも申しましょうか。エッセイのように書かれた小説なのですが、これが萌芽となって、その後、似たような作品が賞を取りましたね。しかし、尾辻先生の作品が一番好きです。温もりがあるのですね。読んでいてほんわりとするような。尾辻先生は、決して順風満帆な青年時代を送っていなかったように思えますし、この小説を書かれた時もそうだと思います。そんな時だからこそ、こんなに温かい小説が書けたのではないかなと思っています。起承転結で云えば、転のところからややドライな方向に転がりますが、アクセントとしては好いのではないかと思います。最後まで前半の調子でいくと単調に堕ちてしまうような気がいたしますので。同時に、併録されている「お湯の音」が好きです。ほんのりと湿った温かさの中に、もの凄い悲しみを感じるのです。それも自身に対する悲しみでなく、別の色々なものに対する悲しみを。涙は流しませんが、ほろりと来るのですね。これぞ、まさに芸術。
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やっと買えました
赤瀬川源平様が、なくなられて、がっかりです。 しかし、長い間品切れだったこの本の第2刷が出て買うことができました。 読書アドバイザー(名前わすれた)が、芥川賞100周年で、3冊選ぶとしたら の3番目に上げたのが、『父が消えた』でした。 解説で、芥川賞選考の様子が書かれていますが、文学衰退・コミック圧勝 の理由が分かる気がして興味深いです。 この、力の抜き方、まさに中年期でありながら『老人力』の発露と、 才能が感じられて、最高です。35年前にタイムスリップさせてもらってます。
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千円札ですね。
1まんえんじゃなくて。 著者の文体には独特のリズムと語彙があり、エッセイも面白いですけど小説もおもしろいですよ。 ちなみに本名が赤瀬川克彦なんですよねたしか。
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実は芥川賞作家だったのだ。
尾辻克彦は実は「トマソン」「路上観察学会」「老人力」「1万円事件」などで有名な、赤瀬川原平さんの事です。彼は実は本書「父が消えた」で芥川賞を受賞している作家でもあります。 本編は、実父の臨終の時に感じた不思議な感覚を、比較的シリアスに表現して作品です。「尾辻克彦」と 「赤瀬川原平」という二つの名前はどちらも本名ではありません。このお父さんの存在が二人の芸術家の誕生に深くかかわっている事は以外と知られていないのでは? 受賞後も「作家ずら」しないところがまったく尾辻(赤瀬川)さんらしいです。彼のファンには是非読んでいただきたい、隠れた名作です。