作品情報
古びた日常の底から、夢幻と怪異がゆっくり走り出す。
泉鏡花賞を受けた幻想的な短篇集。後年は全集にも収録され、日影丈吉の夢幻的な作風を知る重要作として読まれている。
レビュー要約
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題材の独自性と描写の密度が評価される一方、時代背景や文体の癖に読み手を選ぶ面もある。
書籍情報
- 出版社
- 白水社
- 発売日
- 1989-12-01
- ページ数
- 220ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784560045541
- ISBN-10
- 4560045542
- 価格
- 1338 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
第18回(1990年) 泉鏡花文学賞受賞
レビュー
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むしろ新しい小説
日影丈吉小説はフランス料理留学で熟成された日本では唯一無二な作風、かと言ってフランスムードではなく日本味。だがその世界観、目線の奥深さがフランス芸術、私の心は自由に広がって行く。「泥汽車」を読んで驚愕、こんな表現があったのかと叩きのめされた思い。目に見えるものと目に見えないものが共存した世界観があった。これは古典物理学を超えた現代物理学、まだ謎の多い奇想天外な量子力学なのではないかという発見を、勝手に! 収録作「屋根の下の気象」にも量子力学感じ魅了され。全く難しくなく簡単に読める。そういう作家さん。
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珍本ですね
古本屋さんで探しても見つからなかったのが、アマゾンではすぐ手に入った。まだ全部読んでいないが、著者の雰囲気は充分。この著者が好きな人は持っていた損はありませんね。
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泥汽車
まず、表題作にして冒頭に掲載の「泥汽車」が傑作だ。餡子のような紫みのある泥を大量に運ぶ列車が何十年も往復を繰り返すうちに、湖は埋め立てられ、森はならされる。主人公がその豊かさに驚嘆したり、モノノケやスダマたちと出会ったりする舞台となった自然。それが街に呑まれて消え去っていく。粗筋というよりは細部の描写が切なく、恐ろしく、愛おしい。意外な結末も印象深い一篇。 生々しい現実と夢…、表題作に続く「じゃけっと物語」は思春期の、「石の山」は少年期のそれを描き出す。 「屋根の下の気象」は、より詳細な描写があり、それが終盤で一気に大きな世界へと開かれる。「泥汽車」と並ぶ傑作と言えるだろう。主人公の友達である庄ちゃんの一家の存在感は、本書の中でも抜きん出ている。この話がある程度の実話に基づいているか、それとも虚構なのかは不明だが、彼らが確かに存在したとしか思われない。作中に夢野久作「ドグラマグラ」を思わせる胎児の描写があるのは、作者の意図したものなのだろうか。 「かぜひき」は二話構成。十数世紀にもわたって火山灰の下に閉じ込められていたイタリアの都市に材をとったものが第一話、風邪引きの主人公の元に老子が訪ねてくるのが第二話。博学な著者らしい、夢幻的な趣きの強い一篇だ。 「媽祖(まそ)の贈り物」は台湾か中国かが舞台になった話。これもまた傑作。童話や神話にも似た雰囲気のなか、戦争の虚しさや馬鹿馬鹿しさが克明に語られる。人間離れした神の力が描かれるが、それすらも天命の残酷さには及ばないことがある。 本書は失われたもの、失われつつあるものの貴さがそこここで語られる一冊である。先に童話と書いたが、この短篇集中の全作品が童話とも言えるような読みやすさと懐かしさで満ちている。
関連する文学賞
- 泉鏡花文学賞 第18回(1990年) ・受賞