日本の文学賞

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背徳のメス (講談社文庫 く 1-2)

直木三十五賞

背徳のメス (講談社文庫 く 1-2)

黒岩重吾

大阪の施療院で起こる殺害未遂事件を軸に、戦後社会の傷と人間の欲望を描く社会派ミステリー。背徳的な産婦人科医をめぐる容疑者たちの過去が、事件の追及とともに浮かび上がる。

社会派ミステリー医療戦後社会欲望と罪

作品情報

戦争の影と人間の業が、場末の病院を舞台に絡み合う。

黒岩重吾の直木賞受賞作。講談社文庫版では、戦後大阪の医療現場と人間の暗部を背景にした社会派ミステリーとして紹介され、紙版 ISBN 9784061360334、電子版の流通も確認できる。

レビュー要約

  • 事件の謎だけでなく、戦争で損なわれた人間の生き方を描く点が評価されている。猥雑な時代感と暗い心理が、社会派ミステリーとしての厚みを生んでいる。

書籍情報

出版社
講談社
発売日
1975-12-01
ページ数
272ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784061360334
ISBN-10
4061360337
価格
422 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

第44回(昭和35年度下半期) 直木賞受賞

レビュー

  • 女癖は悪いが卑怯なことがきらいなプレイボーイ医師が殺されかける。貧乏売春婦だらけの鬱な病院世界を描く直木賞作品

    満州戦争後の話を筆者が昭和30年代に著した作品が、最近復刻版として再販されることになった。直木賞作品の名に劣らぬ名作ですので安心して読んでください。 主人公の医師、植は場末のしがない産婦人科に勤める医師で看護婦にかたっぱしから手をつけるプレイボーイ。将来のキャリアは無いに等しく院内からも軽蔑されはすれ尊敬はされていない。その男が、ある日、権威主義の科長の医療ミスを発見し病院側の懐柔策にも屈せないでいるとある時殺されかけることに。そこから彼は自分を殺そうとした犯人を見つけようとする。 解説で評論家の末國善己が面白いことを書いていた。作品の時代状況(1960年代と末國は言っているが、実際はもっと前)が現代とよく似ていると。自分は黒岩 重吾の社会派小説、特に大阪が舞台になっているのが好き(西成天王山ホテル等)でなんとなく共感できるのも今の時代と似ているからかも。この作品が再版されたのも、ちょっとまえに蟹工船がはやったのも今の時代の未来に希望を持てない鬱とした空気がそうさせるのかも知れない。

  • 医療ミステリーの金字塔

    時代は昭和。だが、令和の人間でも十分楽しめる医療ミステリーです。

  • 社会情勢が古すぎて、何といえばいいのかわからないくらい。

    身長が尺で体重は貫で記されていて、目眩がした。 三十三で女一人で生活することを卑下する、植の視点。 オールドミスは今や死語だし、セクハラワードと言っていいだろう。 屑拾いという職業、今は、リサイクル業者か廃棄処理業者とでもいうのか、規模が違うから、何といえばいいのかわからない。 色ドン、という不明な日本語。 極め付けは、鍵穴から、室内の様子が詳しくわかるというところ、などなど、一つや二つでなく、現代と社会情勢が異なりすぎて、本筋のミステリー部分に全く入っていけない。 本書は直木賞を獲ったという。当時の選評を読むと、推理小説にする必要性に疑問を持つ審査員が少なくなかった。あえて今これを読むとしたら、社会情勢を比較するための歴史書というべきなのかもしれない。源氏物語や枕草子を、誰も古いからダメとは言わないように。

  • 人間の愛の執着

    女性関係で放蕩な生活をつづける産婦人科医師 植秀人は、上司の医療ミスを告発しているさなか、命の危険にさらされる。犯人は、そしてその動機とは ・・・ やくざや売春婦が患者の大半をしめる総合病院。患者、医師らの姿が、重苦しくはあるがいきいきと描かれている。犯人探しそのものよりも、彼らそれぞれの過去や憎悪が明らかにされていく過程が面白かった。ラストで、植がたとりつく人間の愛の執着は、全編をとおしての人々の行動によって、なまなましい説得力をもってくる。このリアルさは、作者の波乱の多い人生が、文脈に反映されているからなのだろう。 特に期待していたわけではなかったので、予想外に面白かった。

  • 黒岩シリーズを初体験!

    大学の大先輩執筆なので、黒岩シリーズ初トライでした。時代背景が現代とは全く違うので昔を思い出させて貰った。ストーリーは抜群に面白く、電車の中で読むだけなのに3日で終わった!のめり込んで読んでしまった感でした。

  • サスペンスものとしてはわが国では古典の部類に入るだろう

    当時のすさんだ雰囲気を知るには良い作品かもしれないが、主人公の植秀人が女たらしでほとんど強姦のように関係を結ぶ男なのに、いやに正義漢ぶってるのがいけ好かない。話の軸は誰が当直室のガス栓をひねったかの犯人探しだが、こんな男が殺され掛けたって当然と思えてどうでもよくなってくる。ガス栓がひねられたときも短時間のうちにあまりに多くの人間が当直室に出入りしていて、設定に無理がありはしないか。読後感もあんまりいいものではない。

  • 国家と戦争および個人を考える

    本書もやはり1960年代の主題である戦争を背景にした物語であることは特筆されてよい。確かにハードボイルド的な描写と権威主義的な病院に対する闘争というあまりにもステレオタイプな「社会派」の側面はこの際無視してもよかろう。問題は社会派なるものを基礎づける要因を本書も確実にもっているということなのだ。「愛」をめぐる悲劇と片付けられそうな本書も、実はそれが戦争という時代によって「愛」なるものの存在を享受できなかったがゆえに、その歪みが犯罪として生じていることを描くのである。というよりも信ずベきものをもちえなかったことに対する悲劇というべきか。天皇制でもなく大東亜の共栄でもなく、そして「愛」すらありえなかったという側面。偽装された信念の対象をどこに見出すべきなのか、という戦争批判すらここには内包されており、かなりの射程を持った作品である。しかしミステリ的にはさほど大したものではなく、一応Whodunitを効かしているがおまけ程度であり、やはり犯罪にいたる犯人と国家の問題、そして売春婦を生産する国家への刃が秘められている。世評とどの程度かみ合っているのかわからないが、本作は確かに評価さるべきである。

  • 素晴らしい

    ある医師を通じて、病院、医療、医師の世界、一方で、場末の人間の底辺を見事に描いている。黒岩重吾のファンになる一冊である。

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