日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
石蕗の花: 網野菊さんと私 (講談社文芸文庫 ひD 1)

女流文学賞

石蕗の花: 網野菊さんと私 (講談社文芸文庫 ひD 1)

広津桃子

文学者の家に生まれた広津桃子が、作家・網野菊への深い親愛を通じて、老い、孤独、家の終わり、自身の生を見つめる随想的作品。湘南での日々と網野菊の強靭な老年が響き合い、静かな感動を生む。

網野菊老い孤独文学者の家追憶

作品情報

網野菊への親愛を軸に、老いと孤独と家の終わりを静かに見つめる。

『石蕗の花 網野菊さんと私』は、網野菊という作家の生と老いに寄り添いながら、広津桃子自身の家族史と孤独を映し出す。文学者の家の末に立つ者の視線で、親愛、記憶、終わりへ向かう時間を静かに描く作品である。

レビュー要約

  • 祖父・広津柳浪、父・広津和郎に続く文学者三代の末にいる著者が、網野菊の孤独な老齢と響き合いながら書いた静謐な作品として紹介されている。

  • 愛情を越えた親密さで網野菊を綴る本として読まれ、網野菊と広津桃子がそれぞれ背負った人生の重さが深い感動として受け止められている。

書籍情報

出版社
講談社
発売日
1994-11-01
ページ数
225ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784061962989
ISBN-10
4061962981
価格
1169 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

祖父広津柳浪、父和郎、そして桃子。1人きりの兄が病没し、嫁がず、孕まず、“家”が消滅する宿命を担う湘南での日々。名作『一期一会』を残し、孤独な老齢を靭く生きる網野菊へのひとかたならぬ親愛と深い交響の中で生まれる静謐な感動。文学者3代の末、広津桃子の女流文学賞受賞の名品。

レビュー

  • 独女二人の温かな交遊録。

    著者は広津和郎を父に持つ女流作家です。 表題作。 網野菊の思い出。生涯、地味な心境小説を書き続けました作家ですが「甘い気持ちや楽しい気持ちでばかりでは書いて居られない」と真摯に取り組む姿には凛としたものがあります。暮らしも楽ではなかったようですが、猫や花など身の回りの小さな存在にも気持ちを配る丁寧さがあります。逆に、社会的なことには「身をもって知ったとは言えぬできごとに、軽軽と調子を会わせる」ことはないというのも好感が持てました。SNSで世の中の事をけっこうな頻度でポストしている身には耳が痛いですw 「紅椿」 ここでも二人の交流が描かれる。ともに独身で文楽や歌舞伎を観に劇場に足を運び、手紙も細やかにやり取りする。しかし、ついに別れが。入院した網野菊の、与えられた環境にじっと耐える姿勢が悲しく痛々しい。それでも、弔いの場に集まった人たちの温かさに、著者も救われる思いがしています。 「米食いねずみ」「志賀直哉先生と網野さん」 網野菊の思い出に志賀直哉の死を重ねる。恩師の死に打ちひしがれながらもそんな自身の心さえじっと観察する。「網野さんの姿そのものに、その文学を感じる」とは、心境小説はまさに人間修行であることが示されていますね。そんな作家を支えたのが「ひとへの信頼の不変」「愛情の節操」を教えてくれた志賀直哉への思いだったのでしょう。そして、著者自身も、網野菊との思い出の土地を歩み、故人に励まされるように生きる意志を新たにしています。 後半の掌編群の中では、著者の知人男性による「老女の艶」と「手ごたえの確かさ」があるという網野評が良い。それに対する網野菊の反応には、その清らかな人間性が伺えます。著者に問われ私小説への思いを語る場面でも、確かな手応えを大切に書き続けたこの作家らしい感想を語る。興味のある方はぜひ本書を手に取ってみてください。私も本書のおかげでますます私小説(心境小説)が好きになりました。

  • 静かな共鳴

    網野菊という作家を知る人は、そう多くはないだろう。 芸術院賞や芸術選奨を受けた近代文学の大家の一人でありながら、作風の地味さと狭小さから多くの読者に恵まれた人でもない。 しかし、四度も母が変わったり、自殺を測ったり、顔を見たことのない相手と結婚しその後離婚するなど、彼女の生涯は波乱に飛んでいた。 広津和郎の娘であり、家庭を持たない女という点で網野菊と通じていた広津桃子が、彼女の視点から見た網野菊の姿を描き出したのが、この地味だが奥深い一冊である。 父和郎が仕事場にしていたアパートに網野菊も住んでいたことから、両者の交遊は始まったという。 控えめで口数の少ない、でも師・志賀直哉の話題には、活き活きとなる網野菊の様子が窺える。 病床の網野菊を見舞う広津桃子の胸には、いつか自分も一人旅立って行くのだという思いが去来していたのだろう。 網野菊はなかなか自分から語ろうとしない人である。でも広津桃子が、この先輩の人と人生に親しみと敬意を抱いていたことがしみじみと伝わってくる。 広津桃子が作家として巣だった作品であった。

関連する文学賞