作品情報
芥川龍之介賞で評価された、吉目木晴彦の作品です。
『寂寥郊野』は、吉目木晴彦による作品で、芥川龍之介賞の受賞作です。講談社、1993.5の刊行情報が確認でき、作品の中心には登場人物の切実な経験や時代の空気が置かれています。
書籍情報
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 1993-06-01
- ページ数
- 208ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784062063432
- ISBN-10
- 4062063433
- 価格
- 1708 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
第109回(平成5年度上半期) 芥川賞受賞
レビュー
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アメリカ地方都市の郊外という荒野
農薬の航空散布の会社を経営していた夫リチャードは, ある事件が起こり, ミスなのか嵌められたのか不明瞭なまま、 会社も倒産し,職を失います。 そして社会的制裁を受け、地域社会で孤立します。 いわゆる戦争花嫁の幸恵は, 日本人も少ない南部の保守的な土地柄の中, 息子のために学校に怒鳴り込むなど 気を張って生きてきました。 しかしだんだんと痴呆の症状が出始めます。 リチャードはベトナム戦争の戦友のツテでささやかな職を得ますが, 幸恵はついにはリチャードのことや英語さえ忘れてしまい, リチャードは二人の過去さえ失ってしまったのではないかと感じます。 筋にしてみれば特にひねりもない,それだけの物語なのですが, この物語の醸し出す「寂寥」感が, 読了後何か月たっても頭から離れないのです。 一度も読み返していないのに, 本がどこに行ったかもわからないのに, リチャードと幸恵のことを度々思い出してしまうのです。 おすすめです。
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老年を扱った異色の芥川賞受賞作。内容が濃い
「概して芥川賞受賞作は良いと思わないがこの作品は格段に良い」というようなことを言う人がいるので、どういうことか知りたくて読んでみた。そして、ああそういうことかと納得が行った。 小説が、小説作成技術と、内容の二面から評価されるとすれば、この作品は圧倒的に後者の比重が大きい。老年に伴う衰え、アルツハイマー病、夫婦のあり方、アメリカに異邦人として生きるということ。このような現実的で切実な問題が扱われている。文学に特別な関心を持ちその方面の感覚を研ぎ澄ました人ばかりでなく、現代社会に生きる人ならば関心を持たざるを得ないテーマである。作者は、この問題を世に提示したいという気持ちがまずあって、表現形式としてたまたま小説という形を選んだのではないかとすら思える。 さまざまな問題が提示され展開された後、物語は最後の7ページでがらりと変わって新しい局面に入る。三週間前には妻の異変にすっかり混乱して心の平静を失っていた主人公リチャードが、どういう経緯を経たのかはわからないが病んだ妻への向き合い方を見つけて、夫婦の間に新しい安定と平安が取り戻されているのである。そこには、こういう事態に至ったならばありのままの相手を受容して生きるしかないのだ、という作者なりの答えが提示されているように見える。 念のために付言すれば、この作品の小説作成技術が優れていないというわけではない。文章は明晰で、登場人物にはリアリティーがあり、その微妙な心情も表現され共感を呼ぶし、先に先にと進める推進力もある。独創的かつ適切な比喩も使われている。ただ、思わせぶり、はぐらかしなどの「文学的な」仕掛けが見当たらない。人によってはこれを好ましく感じるだろうし、人によっては物足りなく思うかもしれない。
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いたたまれず…
国際結婚をし、ルイジアナ州で暮らす日本人妻。三十年を経て、老齢となり言動に異常がみられるようになる。 鬱症状が進行し、アルツハイマーの兆候を見せ始める妻に、外国人の夫、子供ら、周囲の人々は戸惑いを隠せない。読み進めていくと、妻の精神的に孤立していく様にいたたまれなくなる。 タイトルは、一家が多大な金銭的犠牲を強いられることとなった事故現場。ずっと心に不幸を抱え込んでいた妻の孤独の象徴だろう。夫としては、結局、受け止め、寄り添うしかないという現実が辛い。 収録作の「うわさ」も設定は違えど孤立感は同様だ。こちらは、読みながら何やら怒りが沸騰してしまったよ。 【芥川賞】
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本当の小説らしさ
この小説は、「本当の小説」という印象がある作品である。どういうことかというと、この小説によって伝えられている内容は、小説以外の媒体で伝えるのは、ちょっと難しい、ということだ。 主人公のアメリカ人男性と、その「戦争花嫁」である「ユキエ」は、お互いがお互いに、非常に尽くしているのに、結局老境に入っても、お互いのことがわかっていない。そのせいで、お互いの誠実さがむしろ、お互いに対する不信感として間に残る。これは悲劇なのだが、その悲劇性が、ユキエの「うつ病」とも「アルツハイマー」ともはっきりしない「心の病気」のせいで、はっきりと目に見える形に変わる。 社会問題、男女の葛藤、日米の文化的差異、人種差別、地域的な偽善。それらのどれもがユキエの「心の影」を説明する理由にはなりうるのだが、どれもたんなる解釈とも取れ、結局何が真の問題なのかがはっきりわからないうちに、ユキエは次々に記憶を失っていき、コミュニケーションによって心の裡を明らかにしようという試み自体が、できなくなってしまう。 こういう、かなりの言葉を持っても説明し尽くしがたいような心理的事件を、かなりよく伝えている。さすが芥川賞と思わせるような作品である。
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芥川賞受賞作にしては
駄作が多い大江健三郎以後の芥川賞受賞作にしては、あるレベルに達した小説である。作者がその後書かなくなってしまったために埋もれているのは惜しい。 米国人と結婚した日本人女性が、老齢期を迎え、夫が事業で農薬を撒いたことから発生した訴訟が原因とも、日本人がずっと外国で暮らすことが原因ともいえる、不安定な状態に陥っていくさまを描いている。
関連する文学賞
- 芥川龍之介賞 第109回(1993年) ・受賞