作品情報
幕末は過去の事件ではなく、いまにも回帰する時代の気分として読まれる。
幕末の事件や人物を、現代社会の空気と響き合うものとして読み解く。歴史の細部を追いながら、時代が終わるときに現れる欲望や不安を描く評論。
レビュー要約
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幕末を現代にも通じる空気として読む視点が支持され、歴史評論でありながら事件や人物の描写に物語性がある点が読まれている。
書籍情報
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 2002-02-01
- ページ数
- 284ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784062110921
- ISBN-10
- 406211092X
- 価格
- 1 JPY
- カテゴリ
- 本/歴史・地理/日本史/一般/日本史一般
大混乱時に人はこう動く テロに不況の現代と同じく、わけのわからなくなった将軍藩主兵隊たちの焦りと遊びの意外な実相 サントリー学芸賞受賞の学者が暴く幕末期。 幕府軍の兵隊の異様な遊びっぷり、吉原へ攻め込んだ寄せ集め兵、芝居そのままに狂乱の終末を迎える様を上野彰義隊や徳川慶喜の実像など新資料で描く歴史エッセイ。
■野口武彦(のぐちたけひこ) 1937年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程中退。神戸大学文学部教授を経て著述業。日本文学・日本思想史専攻。著書『江戸の兵学思想』『江戸の歴史家』『萩生徂徠』『日本思想史入門』『忠臣蔵』『「源氏物語」を江戸から読む』『江戸のヨブ』『幕末パノラマ館』など。
レビュー
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味わい深い作品
標題は「幕末気分」とありますが、「幕末七つの物語」とも言うべき作品のように思えます。 かなり面白いです。出色の出来のように思います。とても味わい深い作品です。三回読み直しました。 それぞれ異なった視座から投射された光線によって各人物あるいは出来事がそれぞれ固有の色彩に彩られ甦り、そして踊っているように感じられます。 確かに一定の考証が基礎とはされています。しかし、描き顕れたのは、結局は江戸っ子としての、そして一度はマルクシズムの洗礼をうけ、さらには三島由紀夫と正面から対峙した作家の真情のようであり、また作家としての見事な包丁さばきにようでもあります。 多くの印象深い記述がちりばめられています。それぞれが、時には詩情に溢れ、時には鋭利な分析精神の輝きを帯び、さらには勝手きままな奔放さに彩られていることさえあります。 まさに巻を措くに能わずです。 ただ、慶喜については余程相性が悪いのでしょう、個人的不快感を隠そうとしないその筆致にはいささか過激を感じます。大阪城をこっそりと退去する直前、籠城して一戦交えんと具申する老中板倉勝静に慶喜は詰め寄ります。「そもそも我方に西郷は在りやなしや。しからずんば大久保はいかに。いずれも在らずして如何にして戦わん」ヤッチャアオレナイよ、というところです。それじゃあ指導者として無責任だろう、といえばそれはそうでしょう。しかし、このようなところにどこか日本的な大時代的おおらかさを感じます。またこのような精神は、別のところで記述されているように、明治維新という一大政府転覆劇の過程で失われた人命が2万人弱と、欧米のそれと比較して一桁少なくすんだという要因に、遠く共鳴する部分があるように感じます。 なお、本作家には、できましたら大仏次郎の「天皇の世紀」に匹敵する大長編に取り組んでほしいと強く思います。本書のような作品にとどまるのはいかにももったいないと感じるものです。
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幕末マニア向け
ある新聞に掲載された著者の寄稿文が面白かったので早速本書を注文してみたわけではあるが、なんとなく幕末好きレベルのわたくしのような者が手にすべき書ではなかった。まずなんと言っても史料からの抜粋が多く、しかもかなりの長文なため一気に読み通すのは骨が折れた。史料部分をとばして読んでもなんとかなりそうではあるが面白味は半減するだろう。それよりなにより幕末史についても相当深い知識がないと読み通すのさえ難しいかと思われる。エンターテイメントを志向した歴史小説ではないので、誰が読んでもわかる(あるいは楽しめる)というような配慮はなく、言ってみれば幕末マニア向け。
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幕府側から見た瓦解史
新聞で紹介されていたことから手にとったが、かなり面白かった。 幕末維新ものの多くは、薩長土肥の側から描かれており、幕府首脳や幕臣たちは封建的陋習に凝り固まった者として描かれがちである。全体としては間違ってはいないのかもしれないが、現実の歴史は、イデオロギー的な二項対立でもってスパッと説明できるような単純なものではなく、むしろもっと即物的な動機による影響を受けることが多いとわかる。 七編からなるエッセイ集となっているが、普通の歴史家はあまり取り上げないであろう卑俗な一次史料から長州征伐時の幕軍の能天気さを描き出すなど、これまでにはなかった視点を多く与えてもらった。 全体的に幕府側のだらしなさが浮き彫りにされるなかで、最後に紹介されたフランス軍士官ブリュネの言葉には、感動させられた。
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本当の幕末の雰囲気かも
例えば大河ドラマ。徳川慶喜からみたものと、近藤勇からみたものとは同じ時代背景とは思えない。 本書は、幕府の長州征討に従軍した侍たち、井伊直弼の若かりし頃、幕府の組織した歩兵(鉄砲隊)、彰義隊などについて、幕末に書かれた市井の人の日記を引用し、この時代の人々の様子を描いている。 歴史を語るときに、現在の価値観で評価してはならないというが、農民が刀を持ち、既存の士族社会に割り込んでいくといった、その社会の根幹を揺るがした様子がよく分かった。 ただ引用が多いので、古典の成績の悪かった人にはつらいかも。引用の後には、ちゃんと解説はしてくれているけれど。
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奇妙な本
七本の「史伝」というより「史談」で、井伊直弼とか鳥居耀蔵とか徳川慶喜とか彰義隊を主題に、『群像』に99年から01年まで断続的に掲載されたものだが、まず書き手が文藝評論家として名高い野口武彦で、フランス史との比較などはあるが外国語文献を使ったわけではなく、歴史学者なみに調査はしているが、はてどの程度オリジナリティがあるのかといえば分からないが、確かに面白い。小説か評論か、どこに位置付ければいいのか分からない奇妙な本である。この後野口は元禄時代に向かうが、それらもそれなりに面白い
関連する文学賞
- 読売文学賞 第54回(2002年) ・受賞