日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
晴れ、時々くらげを呼ぶ (講談社文庫 く 80-1)

小説現代長編新人賞

晴れ、時々くらげを呼ぶ (講談社文庫 く 80-1)

鯨井あめ

父を失い心を閉ざした高校生が、くらげ乞いをする後輩との出会いを通じて再生していく青春小説。

青春喪失と再生幻想

作品情報

第14回小説現代長編新人賞受賞作。売れない作家だった父の死を起点に、読書と友情の意味を探る物語。

書籍情報

出版社
講談社
発売日
2022-06-15
ページ数
384ページ
言語
日本語
サイズ
10.8 x 1.5 x 14.8 cm
ISBN-13
9784065272473
ISBN-10
4065272475
価格
792 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品

彼女と出会った。僕の日常は変わった。 純度100%! 小説現代長編新人賞受賞作。 売れない作家だった父が病死してから、越前亨は日々をぼんやり生きてきた。亨は、最後まで家族に迷惑をかけながら死んだ父親のある言葉に、ずっと囚われている。 図書委員になった彼は、後輩の小崎優子と出会う。彼女は毎日、屋上でくらげ乞いをしている。雨乞いのように両手を広げて空を仰いで、「くらげよ、降ってこい!」と叫んでいるのだ。いわゆる、不思議ちゃんである。 くらげを呼ぶために奮闘する彼女を冷めた目で見ていた亨だったが、いつしか自分が彼女に興味を抱いていることに気づく。 自分の力ではどうにもできないことで溢れている世界への反抗。本への愛。父への本当の想いと、仲間たちへの友情。青春のきらきらがすべて詰まった一作。

1998年生まれ。兵庫県豊岡市出身。兵庫県在住、大学院在学中。執筆歴13年。2015年より小説サイトに短編・長編の投稿を開始。2017年に『文学フリマ短編小説賞』優秀賞を受賞。2020年、第14回小説現代長編新人賞受賞作『晴れ、時々くらげを呼ぶ』でデビュー。その他の著作に『アイアムマイヒーロー!』。

レビュー

  • 心に残る魅力的な作品

    本屋さんが素敵なPoPを作っておられるのをTwitterで見つけ、欲しいと思っていました。 若いけど弾けるような力もなくてモヤモヤを抱えている高校生の、やさしい抵抗や成長がなんとも爽やかな作品でした。主人公の感情を体の感覚で描写してあるシーンが何度かあり、その言葉の使い方が印象的で、言葉にならない、言葉にして割り切れない若い心を描写しているようで、引き込まれました。 想像や思い込みで人は悩み、そして立ち直るのも想像の力によるのかな。空を見上げてくらげを呼んでみたら、少し優しい気持ちになり、まぁ良いか、と許せるような気分に。大人になって随分経ちはしたけれど、怒ってもしょうがない、と飲み込むことも多く、そんな時は、くらげを心の中で呼ぶことで許せることもあるかもしれない。この本に出会え、想像力の大切さを改めて思い出した気がします。そして、読書のすばらしさも再認。 著者は大学生ということですが、この作家さんのこれからを応援していきたいと感じた魅力的な作品でした。

  • 内容は良いけどこれ新品???

    数年前に学校で借りたのを思い出して、思い切って買ってみた。内容は良い。 だけど多分これ新品じゃない。 明らかに汚れているし、他人の栞まで挟まっていた。新品じゃないならここで買わなかった。まあ中身が重要だけどね。

  • 読みやすいです。

    冒頭から作品の中に没頭。あっという間に読み切ってしまいました。読みやすく楽しい作品でした。

  • 謝るということ、許すということ、そして優しさということ、の意味を感じる良書です!

    主人公をはじめ、登場人物の多くは高校生です。理不尽に対して無力さを感じる憤りややり場のない気持ち、 身勝手さ、自信のなさの裏返しの虚勢、必死な人を斜に構えて見てしまうこと、繊細で気づきやすいところが 丁寧に描かれています。 この本を丹念に読むなら、ここに挙げた行動や感情は、高校生特有のものではないことがわかります。 主人公の父親はもちろんのこと、母親、生徒から評判のよくない数学の先生や司書の先生など、いわゆる 大人も矛盾の多い世界に、傷ついたり、絶望したり、時には過ちを犯したりして生きている中で、でも こころのどこかに大切なものをちゃんと持っているんだということを思い出させてくれます。 この本からなにを感じるのかは、読者に委ねられているのだと思いますので、私が感じたことを書くなら、 本書の中で上級生が使った(実はこの言葉には大切なストーリーがあります)、 「優しさの本質は、他者への興味だ」 という一文に集約されています。 だから気持ちに素直に生きること。 間違ったことをしたら、謝る。 相手が真摯に謝れば、許す。 他者にこころを開き、まずは自分から相手に関心を示す。 そんな単純なこと、だからこそ難しい、「優しくあること」の大切さを教えてくれる小説です。

  • 世界中の空、皆の空に。

    クラゲは降る、きっと降る。 そのために準備して、考えて、工夫して。 振り返ると高校生の頃って、生産性なくて悶々として、ニキビがいっぱいできて嫌だったのに。 くだらない拘りがある時突然一気に消えて、スッとクリアな空が広がる。そんな経験を思い出させてくれるいい話でした。 誰の空にもクラゲは降る。

  • 読書する意義を見つけられていない方へ

    多くの方の推薦コメントがあったので読んだが、なぜ評価されているのか釈然としない作品だった。「クラゲ乞い」というアイデアは、大胆かつ奇抜で良い。しかし、それにしては結末のインパクトが弱い。個人的な解釈だが、この物語は「一冊の本はどこでつながっているか分からない。誰かの考えを根底からかえることもあり、それが滲み出ることもある。だから、読書って奇跡だ」帯のキャッチコピーには、そういう意図があると思った。 全てを読み終えなくとも、このことがある程度予想できてしまったのが残念。終盤でもう一捻り工夫を施してほしかった。 読書への情熱というものが、人物を通して伝わってこない設定だったのも評価が悪くなった要因の一つである。矢延先輩は言わずもがな、小崎さんは自慢気で如何に読書家か言い触らしたいだけに感じたし、遠藤や関岡や亨は、極端に興味がないか平凡な利用者といった感じで、温度差が生じている。私が、読書通をひけらかす人が嫌いだという点もあるからだが、嫌なこを追体験しているように思ってしまった。 もう一つテーマを挙げるとすれば「父からの解脱」だ。この点はしみじみ感じた。 気になった点として、読書の素晴らしさを伝える作者の狙いがあったと思うので仕方はないが、有名作家さんを会話の中に出して、褒めて自分を喧伝しているように感じてしまった。それについて会話に花を咲かせていたのが、矢延先輩たちなので、ますます周りに媚びを売りたいという側面を強く感じた。他の作家に気に掛けてもらいたい。存在を認知してもらいたいなどの作者のエゴだと捉えてしまった。 結末は、もうちょっと本にまつわる秘め事みたいなものが関わってきてもよかったかと。物足りなかったし、予想がつくラストでした。 文体は読みやすいのだけれども、上記の点が、私には鼻にかかるなと感じたため星1です。

  • 青春といえばなんでもいいわけじゃない

    青春が舞台だと、つまらない物語も、何となくいい感じの物語に思えなくもない、といったお話がごまんとあるが、これもそのひとつ、典型といえるだろう。 お話としては実に平凡、平凡すぎて退屈なくらいだ。 そんな退屈な物語でも、突拍子もない設定をひとつまみ入れることで、ちょっと変わった物語に見えてくる。ここでは、それがまさしく「くらげ」だ。 だが、この物語に登場するくらげは、とくに物語に深い意味をもたらすわけでも、なにかしらのメタファーでもなく、本当にただの、退屈な青春物語にアクセントをつけるだけのお飾り設定なのだ。だからくらげがなくても物語は成立するし、成立した物語はとにかく退屈と来ている、くらげがあっても退屈なのだけど。 お粗末な物語だが、とくに引っかかったのが、主人公の父親への感情だ。 はっきりいって、主人公がどうして父親のことを嫌悪するのか、呪い、なんて意味深なワードを使いながらも、まったくもって見えてこないのだ。それでいて最後になって、実は父親のことが好きだったということが明かされるのだが、そのときの記憶を主人公は、どういうわけかことごとく忘れているのだ。 まあ、親父が死んだショックから一種の健忘症にでもなった、と思えなくもないのだが(もちろん本編にはそんな記述はなく、こっちが無理やり擁護するのならそんな理由しかないと思うだけなのだが)、しかし実際のところはおそらく、都合よく忘れていてもらわないと物語として成立しないからだろうと思う。 後半、登場人物総出でくらげを降らせようと奔走する姿は、まさしく青春の1ページを思わせる、夜の学校に忍び込むシーンなどは、うんざりするほど退屈なシーンだった、なんてありきたりなシーン、くらげを降らせようという動機だけが変わっているだけで、やっていることは一緒。見飽きたというよりも、一種の目眩すら覚えさせる退屈さだった。 あと、作中でいろいろな本が登場するけれども、それらが尽く物語に意味がないという始末、これではたんなる作者の自慢、あるいは一方的な紹介だ、小説の中で作者の本の趣味を押し付けられているだけだ。 いずれにしろ、変わった設定をぶっこめばたんなる平凡な青春物語も面白くなるという安易な小説で、それでいてぶっこんだ割に全く物語に馴染んでおらず、結果平凡で退屈な物語でしかない、という小説だった。

  • 難しい感情移入

    【※ネタバレ多】主人公が嫌ってるはずの父の本棚から、嫌ってるはずの読書をしているという点から疑問でした。友達の恋心をその想い人に簡単に明かし、その上明かしてないと嘘をつく主人公に、なんで小崎さんのクラゲ乞いに付き合う心の余裕があるのか分かりませんでした。要するに感情移入が難しかったです。 理不尽にクラゲで対抗するのにしても、物凄く一時的で自己満足だと思ってしまいました。 特別面白くはありませんでしたが、思春期の葛藤が随所に描かれ、とくに現役学生は考えさせられる物語だと思います。かなり読みやすい文体で、作者の力量は充分感じられました。今回は、そこを主に評価させて頂きます。

関連する文学賞