作品情報
『前途』は、個人の経験を通して時代の陰影を読ませる作品である。
庄野潤三の『前途』は、受賞当時の文学的関心をよく示す作品である。人物の心理、生活の手触り、社会の変化が重なり、静かな緊張を保ちながら読者を物語の奥へ導く。
書籍情報
- 出版社
- 小学館
- 発売日
- 2017-06-06
- ページ数
- 320ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 12.8 x 2 x 18.1 cm
- ISBN-13
- 9784093523066
- ISBN-10
- 4093523061
- 価格
- 825 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品
学徒出陣が目前の九大生を描いた自伝的作品 太平洋戦争の最中、昭和18年、九州大学に通う文学青年たちには深い交わりがあった。 文学的揺籃期における恩師・伊東静雄(詩人)から受けた薫陶、そして、学生仲間(島尾敏雄がモデルの小高、森道男がモデルの室、林富士馬がモデルの木谷)との交流が描かれている。 遼史を読み、東洋史の学問にも励むが、それ以上に仲間たちと文学を論じ、酒を酌み交わしながら、それぞれの仄暗い”前途“を案じている。 主人公の文学的形成の様を、約1年に渡り、日記スタイルで描いた“第三の新人”の代表的作家・庄野潤三の青春群像作。
レビュー
-
意外な交友関係
庄野潤三さんの若き日の作品を読むことができて良かったです。これをきっかけに潤三の一級上として認識した(島尾敏雄)の死の棘、その妻の(島尾ミホ)の愛の棘も読むことができ、作品のレパートリーが広がりました。
-
第三の新人が描く戦時中の濃密な青春。
優れた純文学の要素とは、もしかしたら「単調であること」なのかもしれません。そう思わせられるほど「一本調子の傑作」でした。 息をのむサスペンス仕立てでもなく、胸打つ恋愛模様もない。はじめからしまいまで、主人公(作者)である大学生が、仲間と酒に文学に打ち込む日々を描くばかりです。 本書はその濃密な「日々」を日記形式で描く、まさに単調さに満ちた青春小説です。著者は第三の新人の作家。「プールサイド小景」で芥川賞を受賞。生涯、日常の静謐さと不安定さを書き続けました。 この「前途」の面白さは、青春ものに見られる暴力や恋愛という題材とは無縁であることです。若い女性はほとんど出てきませんし、文学仲間と殴り合うこともなし。主人公はひたすら酒を飲み、文学を談じ、家族をいたわり、郊外を散策する。 その単調な日々が美しい。時は昭和18年、大東亜戦争も米軍に押され気味のころ。酒や食料も心細くなる。文学仲間の一人(島尾敏雄がモデル)は海軍入隊を決意する。主人公は将来の暗い「前途」を予感しつつ、仲間たちとの青春の日々をいとおしむようにすごしていく。 チャールズラムの読書会、興じる愛国百人一首、仲間と飲む酒、すする卵、恩師伊東静雄との旅行、東洋史の講義、下宿先の夫婦の気遣い。ストーリーらしいストーリーのないこの日記小説は、それら麗しい日々を丁寧に記しています。 起承転結もありませんし、読者を引き込む盛り上がりもなし。なんとも単調です。その単調さによって、青春の素晴らしさと美しさをリアルに湛えている小説と言えるでしょう。
-
是非おすすめします。
以前から、読んでみたいと思ってましたが入手がなかなかできませんでした。 予想外に安価で購入でき喜んでいます。
関連する文学賞
- 野間文芸賞 第21回(1968年) ・候補