日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
出星前夜

大佛次郎賞

出星前夜

飯嶋和一

『出星前夜』は飯嶋和一による大佛次郎賞の受賞作。小学館から2008年に刊行された作品で、受賞時に示された題材と語り口を通じて、人物の選択や時代の空気を描く。

ことばの響き記憶日常の陰影

作品情報

『出星前夜』は、大佛次郎賞で評価された飯嶋和一の作品です。

『出星前夜』は飯嶋和一による大佛次郎賞の受賞作。小学館から2008年に刊行された作品で、受賞時に示された題材と語り口を通じて、人物の選択や時代の空気を描く。 受賞作としての位置づけに加え、題名から立ち上がる印象と作者の関心が読みどころになる。

レビュー要約

  • 刊行情報や紹介文からは、受賞時に評価された題材の明確さと読み進めやすい構成がうかがえる。人物や状況の輪郭を追いやすい点が読みどころになっている。

書籍情報

出版社
小学館
発売日
2008-08-01
ページ数
544ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784093862073
ISBN-10
4093862079
価格
350 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

『黄金旅風』で有家の子どもを救うために呼ばれた外崎恵舟。しかし、この外崎が南目の代官所に追放されてしまう。 この事件に怒りを覚えた矢矩鍬之介を筆頭とする若衆が終結。折しも代官所で火災が発生し、 代官所はこの火災を集結した若衆の仕業と決め討伐に向かうが、返り討ちにあってしまう。それは、これまで一切の 抵抗をしてこなかった旧キリシタンの土地で起こった初めての武装蜂起だった・・・。

レビュー

  • 3人3様の生き様が素晴らしい

    大作ですね。歴史の表舞台に立つ、侍大将や芸術家や政治家が主人公ではなく、さらに主要な町での話ではなく、敗者の物語でもあるため、蹂躙された名もなき者たちの背景を書き込むための努力はいかほどだったかと偲ばれます。宗教やキリスト教の素地があると分かりやすく、さらに、城好きな方や戦好きな方も細かい書き込みがあるので、物語の背景として楽しめると思いますが、この物語の主人公は、二人の医師(外崎計恵舟と寿安)と鬼塚監物(歴史上の人物、天草四郎と共に首を晒される)。その三者三様の生き様ー迷いを含めてーその書き込みが、いずれも読み応えありました。残念なのは、末次平左衛門がほんの脇役だったことでしょうか。 飯嶋氏は、世間に阿る作品をお書きにならない。それ故、こういう骨のある男たちを書くと存在感と臨場感を持たせることが出来るのでしょう。自分の器が小さいと書けない男たちばかりを扱われています。次作も楽しみです。

  • 島原の乱がよくわかった

    天草、島原観光に行く前にと読んでみました。乱の始まりから終わりまで流れがよくわかりました。ただ天草四郎の登場シーンは少なく、印象にのこることもありませんでした。島原観光に原城跡はマストなスポットですが、何も残ってないので残念に思っていたら、なんと、島原の乱の前から既に何もなく、一揆勢は木で小屋を作って立てこもっていただけと知り驚きました。少々話がくどく、その分ページ数が多いなぁと感じたので★4にしましたが、読みやすく、島原の乱に関心のある方にはお勧めします。

  • 力作。プロらしい作品。

    なぜかこの小説が本棚にありました。上製四六判540ページ。島原の乱外史のような内容。大佛次郎賞受賞。力作。 「死こそが実は永遠の本源であり、生は一瞬のまばゆい流れ星のようなものに思われた」537ページ。ほんと、最近よく同じようなことを思いますねえ。それと、時代の流れに抗えない個人というものについても思い知らされました。残念ですが。 裏づけの細かな記述、地理的説明など、ちょっと凝りすぎかなとも思いましたが、飯嶋先生としては、こういうところは省けないのでしょうね。地理や歴史に詳しい方にはたまらないと思います。プロの作品でございます。

  • 数年に一度、読んで日頃の溜飲を下げる楽しみ

    感動的なふたつの場面がある。 ひとつ目は第1部のはじめ、外崎恵舟の夢に宣教師マグダレナが現れ、啓示を与える場面。もうひとつは第2部、島原の乱終結後、復讐を決意する寿安に、町の人々が救いを求める場面。いずれも登場人物のその後の生き方を決定する出来事として描かれているが、決してキリスト教の奇跡を讃えたものではない。 むしろ作者は、島原の乱が、無知蒙昧な民衆の信仰の極みとして起こったのではなく、身分制度にあぐらをかく理不尽な為政者に対する民衆のやむにやまれぬ反乱であり、ひいては幕藩体制そのものへの批判として勃発した内戦としてとらえている。 したがって、作者の目線はこれまでの作品同様市井におけるヒーローにあり、権力者たちはちっとも英雄にふさわしくないところが痛快であり、現代社会にも通じる反骨精神がたまらないのである。

  • 飯嶋和一の長崎物語の壮絶な結論・島原民衆の蜂起

    飯嶋和一の小説は読んだあとで読んでよかったと思わせる小説ばかりであるが、この「出星前夜」もまた、読後感が壮絶な小説を読み切ったという満足感に満たされる。長崎を題材に取った小説では著者の「黄金旅風」があるが、「出星前夜」はその後編のようなものである。黄金旅風に出てくる末次平左衛門がこの小説にも出てくる。学生時代に日本史の授業で学んだ島原の乱がどうして起きたのか、幕府の権力者とはどういう人間なのか、民衆・キリシタンがどうして死んでいったのか、という深い部分をこの小説によって理解し得た気がする。この小説には時代の権力にさいなまれる民衆の苦しみと、権力者という化け物の化けの皮がすべて書かれている。当然、疫病に冒される弱者や年貢の苦しみに泣く百姓の姿、それを救済する宗教の力とは何か?そういった種々のテーマがこの小説には含まれている。苦しく悲しい気分で読み進めるのだが、著者の筆致はそれを越えていくように書き込まれているように思われる。暗く悲しい主題の中で、ただ一つの希望が結末で提示されて行く。それが「出星前夜」という表題の答えとなっている。権力とは何か、民衆の苦しみとは、宗教の救いとは?それらに関心のある方には必読の書と思う。

  • 隠匿された歴史

    戦国の世が終わったと思われた寛政の大乱、島原の乱 しかし日本史の教科書でもどこかよそよそしく巧みに隠蔽された戦争ではなかったでしょうか。 同じ九州で生まれ育ちながらも、私は何も知りませんし、周囲の人々も無関心です。 新書版の「島原の乱」を読みましたが、幕府側の事情は少し理解できるものの、 その経緯、戦闘の実際はわかりませんでした。 きっと日本史のタブーの一つなのでしょう。 作者の「神無月十番目の夜」では、埋もれた東北地方の郷土史を掘り起こし、 凄惨、驚愕の史実の淡々、清明とした記述から大いに感銘を受けたことがありました。 天草の乱、よくいわれる肥前有馬家旧臣、所謂地方の国人ら、 中世的守旧的勢力の統一政権に対するレジスタンスという説明をよく耳にします。 しかしその国人らの生き様、生活、処世観、経済的基盤等々、私には今までさっぱり解りませんでした。 この小説を通じて決起、反乱に及んだ経緯がかなり理解できました。 実際の戦闘、一揆衆、男子戦闘員は6000名に過ぎなかったのですが、 中でも島原の国人とされる鬼塚甚右衛門の冷静絶妙、際立った戦いぶりが詳細に描写されています。 難攻不落の城塞に釘づけになる諸大名、諸侯、 戦国きっての百戦錬磨、老猛将立花宗茂が江戸より駆けつけるも手を出せず、 鍋島藩、久留米有馬藩、筑前黒田藩、二代目、三代目若殿らのズタボロの負けっぷり、 4ヶ月の包囲、干し殺し戦で辛くも幕府軍が勝利、その後の大殺戮、 これまでなかなか知ることができませんでした。 惜しむらくは、前半の主人公寿庵の遍歴エピソーがやや冗長、 対して2人目の主人公ともいえる鬼塚甚右衛門の卑屈とも言える忍従から、 死を決意した決起に至る微妙な心境の描写、必ずしも宗教的動機ともいえないのですが、 これがこの作品のキモですが、やや早足であったという点です。 歴史小説としての娯楽性をしっかりと担保しつつ 郷土史の範疇を超えた大乱を通じて、 日本人の暗部を照らし出す恐ろしい光でもある、そのような作品です。

  • 現代の問題にもそのまま通じる普遍性

    歴史に教科書にのっている,いわゆる島原の乱(島原・天草一揆) を描いたものですが,そこに至る背景に注目し,様々な視点から 描いています. . キリスト教は支配者層からは圧力の道具にされましたが, 被支配者層にとってはそれに耐える心のよりどころでした. しかしながら,皮肉にもそれが支配者層の圧政を助長させて しまいました. 本書を読んで,毎日のようにテレビで報道される,宗教の名のもとに おきている争いも,結局は同じような構図でおきているのではないかと 感じました. つい,「悪いことをしているひとがいる宗教」を「悪い宗教」ときめつけ てしまいがちですが,ほんとうはそうではないと思います. 宗教を悪いように利用するひとがいるから,そういうことが起きるんだと 思います. 本書でも,蜂起側の人間の中から宗教という名のもとに私利私欲に走り, 暴徒と化す場面が描かれています. そのシンボルのひとつが天草四郎として描かれているあたりは,教科書に 出てくる人物像とギャップがあり,非常に面白かったです. 本書は舞台となった,天草・島原の地図がのっています. 古い地名などは現在の地図ではなかなか追うのが難しいので,非常に 助かりました.

  • 「美少年」とは実は寿安のことかもしれない

    オーソドックスな時代小説である。540ページの大作ながら、文体に著者独自のリズムがあり、それに乗せられていくとスルスルと読み進むことができる。以前に学校の教師を生業とされていたらしいが、確かに歴史に詳しく優しそうな教師(著者)が生徒(読者)に滾々とストーリーを話してくれているような気分になった。前後関係を懇切丁寧に説明する文を適宜挟みながら進行させていくので、ページを後戻りして読み直す必要もあまりなかった。もちろん、史実を元に脚本しているのだから臨場感を読者に伝えるためには、多くの資料の読み込みと、現代にも通じる人間社会のもろさ、身勝手を体験したうえでの想像力を存分に至らせたことだろう。島原の乱という、殺戮がともなう題材に主人公の中に、人を救う医者を二人登場させたことで、数千という百姓の死と、幼子のひとつの小さな生との対峙を描き出すことで、作品に大きな膨らみと、エンディングへのエンターテインメントとしての読後感に持ち込んでいる。すばらしい作品。

関連する文学賞