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忘却の河 (新潮文庫)

新潮社文学賞

忘却の河 (新潮文庫)

福永武彦

冥府の河レーテーのイメージを核に、過去の事件と記憶、愛と死の影が交錯する長篇小説。叙情的な文体の奥で、人が忘れようとしても消えない罪や喪失の感覚を見つめる。

記憶喪失愛と死芸術家の内面

作品情報

忘却は救いであると同時に、過去から逃れられない人間の悲しみを映す。

『忘却の河』は、福永武彦の叙情性と観念性が強く表れた長篇である。冥府の河の名を手がかりに、過去を忘れること、忘れられないこと、愛する者を失うことが重なり合い、静かな緊張を保って進む。新潮文庫版では現代の読者にも届く形で読み継がれている。

レビュー要約

  • 詩的な文章と濃密な心理描写が評価されている。物語の展開よりも、記憶と死をめぐる感覚の深まりを味わう作品として読まれている。

書籍情報

出版社
新潮社
発売日
1969-05-02
ページ数
368ページ
言語
日本語
サイズ
14.8 x 10.5 x 2 cm
ISBN-13
9784101115023
ISBN-10
4101115028
価格
649 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

孤独と愛と死と芸術を凝視し続けた小説世界――。 いまもなお鮮烈な傑作長篇。池澤夏樹氏の解説エッセイを収録。 「忘却(レーテー)」。それは「死(タナトス)」と「眠り(ヒュプノス)」の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという――。 過去の事件に深くとらわれる中年男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱えて救いを希求する彼らの葛藤を描いて、『草の花』とともに読み継がれてきた傑作長編。池澤夏樹氏の解説エッセイを収録。 【目次】 一章 忘却の河 二章 煙塵 三章 舞台 四章 夢の通い路 五章 硝子の城 六章 喪中の人 七章 賽の河原 初版後記 解説:篠田一士 今、『忘却の河』を読む:池澤夏樹 【著者の言葉】 約一年半の間殆どこの作品にかかりきりだったから、私としては多少の思い出がある。特にこの作品の発想となった一昨年の晩秋、旅行の途中で見た石見の国波根(はね)の海岸の風景は忘れられない。私はその風景を作品の中に用いたわけではなく、賽の河原にしてもまったくの空想であるが、この作品の全体にあの海岸の砂浜に響いていた波に弄ばれる小石の音が聞えている筈である。(本書「初版後記」より) 福永武彦 (1918-1979) 福岡県生まれ。一高在学中から詩作を始める。東大仏文科卒。1948年、詩集『ある青春』、短篇集『塔』、1952年、長篇小説『風土』を発表、注目を集める。1954年、長篇小説『草の花』により、作家としての地歩を確立。以後、学習院大学で教鞭をとる傍ら『冥府』『廃市』『忘却の河』『海市』など、叙情性豊かな詩的世界のなかに鋭い文学的主題を見据えた作品を発表。1961年『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、1972年『死の島』で日本文学大賞を受賞。

レビュー

  • 40年振りの読書。

    40年以上振りに読んだ。 ほとんど覚えていなかった。 読んだはずなのに。 この読後感はなんだろうか。 三途の川を渡る時、その水で洗うことで障りが流れていく。その水を飲むことで忘れて行く。まるで赤ん坊のような存在となると思う。 閻魔大王は行状をご覧になって、再生か極楽かを決める。 亡くなった夫人を除いて、家族は最後は再生したかの様に見える。夫人もあの世で、かつての彼と会って再生しているのだろうか。 別の作品も読んでみたい。

  • 短歌を引用し、繊細な心情を表現した第4章が際立って素晴らしい

    ある家族の物語。夫、妻、2人の娘、娘の一人に関わる男の独白で、物語が進んでいく。 会話に「 」を使っていなかったり、三人称が混ざったりする独特の文体だが、とまどうことなく読める。 この本は仕事の休憩時間に少しづつ読んでいたのだが、第4章の「夢の通い路」があまりにも素晴らしく、気がつくと涙が滲んでいたので、あわてて持ち帰って、続きは家で読んだ。式子内親王のいくつかの短歌を自然に絡めた文章で、見事に妻の心情を表現している。人生何十年も生きていると、だんだんスレてきて、本を読んで泣くことなどそうそうなくなってくるのだが、久しぶりに本を読んでいて泣いてしまった。 福永作品は、時に「甘すぎる」(文章が感傷的すぎる)と言われ、軽んじられることがあるが、ここまで極めていると凄いと思う。 どの章も完成度が高くて、それぞれ短編としても出せるくらいじゃないかと思っていたら、本人のあとがきによると、実際に、ひとつづつ連作形式で発表したものだそうだ。 テーマは、愛と後悔だと感じた。あるいは人生のあきらめ(若い娘2人については、まだそんなに重い話はない)。 この物語の夫婦ほど重い体験はそうそうないにしても、誰でも人生でひとつやふたつは、家族関係にしろ恋愛にしろ、苦い後悔を抱えているものだ。 それを普段は思い出さないように、蓋をして生きているものである。あの時は、仕方なかったよねと自分に言い訳しながら。そのへんの痛いところを突かれるので、この小説は凄いのだと思う。 家族の構成員の中で、この2人はこのことを知っているが、あとの2人は知らないというようなことも実際にはよくある話で、そういう細かい描写があるのも、この物語にリアリティーを与えている。 『草の花 』も悪くないのだが、『忘却の河 』のほうが、ずっと深くて素晴らしい。福永武彦は、もっと読まれるといいなと願っている。

  • 頼まれ物

    親からの頼まれ物で、手頃な値段で購入出来て良かったと思う、親からも、感謝されたので、良かったと思う。

  • 心の背景が切実に迫る

    ネタバレを含みます。 実は、或るお世話になった方から、「同じ読むなら、こういう作品をお読みなさいよ」と、昔に私、言われていたのでした。それが、『忘却の河』でした。 時代は、戦後すぐか、戦後二十年ほどたった頃といった処のようだ。 主人公(初老の社長)は復員して帰ってから会社を興し、今では秘書つきの社長になっている。 主人公は、戦友が死なず、自分が生き残ったことに後ろめたさを抱いている。 また、妻との間の初めての子を幼い内に病気で失くす、という経験もあり、その二つの事が、主人公のなかで大きなトラウマになっている。 颱風のある日、自社ビルの脇で蹲っていた女を、主人公は善意から彼女のアパートまで送っていく。 ところが、彼女の容態は急を要するほどに悪かったので、そのまま救急車を呼んでやる。(携帯電話など勿論なかった時代に、公衆電話を探しまわって救急車を呼ぶ) 水商売で生計を立てていた女だったが、病気に罹り経済的に困窮している。 主人公は、金銭的に彼女を助けたり、病院に見舞いに行ったりする。 この行動は、実は、二つの罪への罪滅ぼしの意味が内心にあったのだと、読んでいて感じた。 退院後の女が無事にやっていけるだろうか、との心配から、主人公は女のアパートにときどき伺うようになる。 そのアパートの前に掘り割りがあり、ーーー水の澱んだゴミの浮く猥雑な所ーーーその掘り割りを、初めは川と思いこんでいたので、象徴としてタイトルに結びつく訳だが。それに、主人公自身、ローマ神話の忘却の河という存在を記憶していた。 全てを忘れてしまう、という死人がその水を飲む川、それが忘却の河としている。 久しぶりに訪れた彼女の部屋は、既に引き払われていた。 管理人に訊き、彼女の実家へ伺うと、彼女は身ごもって海に身を投げて死んだのだと分かる。 明らかに、自分との関係で出来てしまった子だった、と思える。 せめて、相談してくれたら、認知してやるつもりも生活を全面的に支えてやるつもりもあったのに……。 嗚呼、自分とは、何と罪深いのだろうか。戦友が死んだのに自分は生きて帰ってきた。妻との子は幼い内に失した。そして、今度は、顔も見ない内に子の命を奪ってしまった。 女の故郷の近くの賽の河原へ行って、小石を積んで懺悔して帰ってくる。 忘れてしまいたい。忘れさせてほしい。自分の罪をなかったことに出来れば、どんなに自分も周りも救われるだろうか。そういう思いが、ひしひしと伝わる。 女が、「私には、これくらいしかお返しすることができないで」(本文の文章通りに再現できていないかもですが)と、主人公に身体を供しようとする。女の独り言のような話しの描写が、切々と胸に迫り、琴線を刺激する。 素朴な言葉。繰り返す単純なモノローグの文体。 それだからこそ、著者の内面がダイレクトに伝わるのだろう。

  • 昔読んで印象に残った本

    だったので、また読みたくなり、購入しました。昔とはまた別な感想を持ちましたが、話の面白さは衰えてないと思いました。

  • 素晴らしい感性

    大好きな作家です 文章と文章の間にも詩と言うか情感を感じます。もっとKindle版に福永武彦の作品をお願いします

  • 古典

    あまりにも古すぎた。古いだけで、これを古典と言うには本当の古典文学に申し訳ない。

  • 家族の軋轢・愛

    大学の講義で読みましたが、とても面白かったです。 父、母、長女とその彼、次女 この5人が、各章に分かれて読者に語りかけます。 教会にある懺悔室で、この一家の人々の独白を聞いているような気分になります。 それぞれの心の痛みが、お互いを歪め合い、複雑に密接に絡み合っている様子は 実際の一家を福永武彦が横で見ていたのではないかと思うくらい、リアルです。 人の性格や、心のひずみは、変えようと思っても中々変わらない、 全編通して暗い小説ですが、最後にささやかな救いがあってよかった。 美しい小説でした。

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