日本の文学賞

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魚雷艇学生

野間文芸賞

魚雷艇学生

島尾敏雄

魚雷艇学生は、島尾敏雄による受賞作です。人物や時代の手触りを軸に、題材の背景と登場人物の選択を落ち着いた筆致で描きます。

受賞作時代と記憶人物描写

作品情報

魚雷艇学生の世界へ読者を導く、受賞歴を持つ一作です。

島尾敏雄の魚雷艇学生は、受賞対象となった作品として、題材の背景をたどりながら人間の行動や記憶を描く。書誌情報は確認できる範囲で単行本・文庫を優先し、雑誌掲載情報は識別子に流用していない。

レビュー要約

  • 題材への誠実な向き合い方と、読み進めるほど輪郭が深まる構成が評価されている。派手な展開よりも、人物や背景を丁寧に追う読者に向く。

書籍情報

出版社
新潮社
発売日
1985-08-01
ページ数
184ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784103101055
ISBN-10
4103101059
価格
26 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

第38回(1985年) 野間文芸賞受賞

レビュー

  • 島尾は「正統」モダニズム文学の騎手だ

    島尾敏雄は戦後しばらくの間、「南島」を背景に現実と夢とが織りなすシュールな短編小説を書いていたが、1949年に至って「出孤島記」で戦争文学作家として名乗りを上げ、実体験に基づく、リアルだが精神分析的な独自の作風を確立した。その後亡くなるまで断続的に、「出発は遂に訪れず」(1962)、「その夏の今は」(1967)、「魚雷艇学生」(1979-1985に亘る7篇の連作短編を合わせたもの)、「<復員>国破れて」(1987未完)、と書き続けた。その発表順は時系列ではなく、どうしても書かねばならぬことを先ず書き、それから前後を埋めていったと思われる。ゆくゆくは「長編」戦記文学として纏めたいとの思惑もあったというが、死によってかなわなかった。特攻士官のクロニクルとして読もうとすれば、本書を皮切りに、「出孤島記」、「出発は遂に訪れず」、「その夏の今は」と読み進めるのが適切だと思う。 本書は、語り手の<私>」が海軍兵科予備学生に志願し、「特攻」少尉として奄美・加計呂麻島に渡るまでの1943年9月から44年11月までの体験記である。多くの戦記小説の例に洩れず、物語は一人称の語りで進められ、「記録文学」としての外形を保っているが、良く読めば、主人公<私>の心理小説だということが判る。 <私>がそれまで何をしていたかは記されないが、予備学生の平均年齢より4歳年長の28歳、軍隊を少し斜に見る程の「年功」を積んでいる。だが旅順の予備学生教育部での4ヶ月の肉体鍛錬は彼のいじましさを筋肉の中に埋没させてしまうほどの効果を持つ。 促成教育終了後、<私>は第3希望にした魚雷艇勤務を命じられる。表題にもある魚雷艇(Torpedo boat)とは、ケネディ大統領の逸話で有名だが、アメリカの発明兵器である。乗員6-7名の小型の高速モーターボートに魚雷を積んで、戦闘の間を縫って敵艦に近づき、魚雷を発射して逃げるという「海上ゲリラ」で、日本海軍も相当痛めつけられた。日本も慌ててそれを真似、兵士を訓練しようとした。<私>はその第1期生となる。教師・生徒とも初体験ということが、こちこちの軍規から距離を置いた、なんとはなしの開放感がある。 しかし戦況は既に魚雷艇訓練の暇を許さず、230キロ爆弾を船首に取り付けて敵戦艦に体当たりする特攻艇乗員の志願が行われ、<私>は「予感」通りに応募してしまう。少尉となった<私>の任務は12隻の特攻艇を率いて体当たりまでの指揮を取ることである。「私」には「戦争というもののかたちまで、何やらつかみ所のない幻想じみたもの」に思えながら、部下を確実に死に至らしめなければならない責務との間で引き裂かれる。常にしゃちこばった自分を見ているもう一人の自分を意識する。まもなく死ぬという眼で見るせいか、何気ない景色にも「既視感」を感じてしまう。 日常生活のとの乖離もある。死ぬと決めた者の優越感から来る日常生活への傲慢と怠惰があり、制服を家族の前にひけらかし、彼らのために死すというロマンチックな思いの「固着化」にすがる面があり、しかしその特攻艇なるものが、ベニヤ張りの船体に飛行機のエンジンを搭載した、騒音ばかり大きいが速力のでない代物であることを知り、「ヒロイズム」が木端微塵に打ち砕かれる現実がある。 本書の「記録文学」としての読みどころは一人の学生が海軍士官となって行くまでの成長物語だが、それに留まらないのが、不安と自負が交差する中で浮遊する<私>の「意識の流れ」である。奇妙なことに戦争そのものに対する疑問や拒否感はない。度々「修正」(と称して行われるビンタの制裁)でも、上官に対する反発より先に思い浮かぶのは憐憫だ。社会学の視点から言えば、タルコット・パーソンズのAGIL理論がその通りに適用されそうだが、一般兵士から特権階級と見られる士官が、彼なりの「誠実さ」を示そうとすれば、<私>が取る態度しかないように思える。それが自分から見ても他人から見ても中途半端なものになるのは当然だろう。本書は右派や左派からの「戦記物」の期待を裏切る正統モダニズム文学なのである。 だが戦況はそんな猶予をも許さない。実戦経験のある指揮官の補充もないく、にわか仕立ての少尉に過ぎない<私>は、第1特攻艇隊長のまま、総員180名からなる第18震洋隊(特攻艇の正式名)司令官として、1944年8月18日、既に制海権を失っている奄美大島南端の小島、加計呂麻島に赴任する。果たして彼らに死に場所は与えられるのか、と言うところで本書は終わる。続きを読まずにはいられない。

  • 極限状態に置かれ、むしろ平静になる人間心理

    戦争文学、特に海軍を描いたものとして名高いのは、大岡昇平や阿川弘之らの作品だろう。本書はこれらに比べると知名度は劣るが、今年、本書を素材の一つとした映画が公開されたということもあり、本書をはじめとする島尾敏雄の作品が静かなブームを迎えているらしい。本書は、私にとって初めての島尾作品だった。大岡や阿川の作品とは異なり、本書は、筆者が実際に体験した海軍での生活を淡々と描写している。大学を出て急に予備士官として海軍に配属され、旅順で教育を受け、数百人の軍曹や兵士の指揮官となるに至るプロセスを、筆者の正直な感情の吐露を交えて描いている。上官から部下に対する「修正」と称する鉄拳制裁や、部隊間の果たし合いなどが頻繁に行われていたことが明らかにされている。 主人公=筆者は、特攻を命じられ、特攻基地である奄美まで派遣されるのだが、筆者自らが明らかにしているように、意外にも平静な気持ちを保っているのが興味深い。特攻というと、今では特攻兵士の手紙などが流布しているが、国民生活全体が窮乏化している中で、家族の生命を守るためには自分の命を犠牲にするのは致し方がない、仕事だから致し方がない、として淡々と特攻までの日を過ごした人も少なからずいたのではないか。これが極限状態に置かれた時の、むしろ自然な人間心理なのではないかと思われる。本書の素晴らしさは、この点を喝破したところにあるのではないか。 本書は、筆者が特攻基地である奄美に着いたところで突然に終わってしまい、やや尻切れトンボになってしまっているのが惜しい。奄美での生活については、別の作品で描かれているようなので、そちらを読まなくてはならないようである。

  • だらだらとしている

    島尾敏雄は「第三の新人」だが、少し年をとっていて、終戦時は二十代後半である。 三島由紀夫や橋川文三といった日本ロマン派にいかれた世代のような、「人生二十五年」というデスパレートな態度もなければ、大岡昇平のような戦争に対する確固たる態度もない。全体を通して、受動的だし、深い思索があるわけでもない。 行き遅れた特攻兵という島尾の経歴は、文壇において彼固有の経歴であり、それゆえに評価もされたのだろう。特攻兵の生活や、当時の心境を垣間見ることができる。 ただ、読み物としてはさして面白くない。山場もなければ、わくわくもしない。ただ、だらだらと出発の日が訪れないばかりである。

  • 島尾敏雄

    これは、昔読んだはずである。しかし、読んだ感じがしなかった。

  • 特攻志願の海軍予備学生の心理の一端を垣間見る

    特攻と言えば、航空特攻のイメージが有り、その心境についても、海軍飛行予備学生のものが多いように思う。 本書は魚雷艇震洋の隊長経験者の私小説である。 従来認識していた飛行予備学生の信条との違いが顕著で戸惑いさえ覚えるが、こうした学徒も居たのであろうと納得もする。 学生から、200名弱の部隊を預かる隊長へと1年程度で変わりゆく中で、組織運営への適応をしていく姿など、現代のリーダー向け参考書にもなるのではないか。 自身を見つめる視点を持つとはこうしたことかと、参考になるのではないか。 戦記物というより、マネジメント研修で教材にしても面白いだろう。 この続きを読みたいが、kindle化を待ちたい。

  • 中身は固くがっちりした文体

    ベニヤ板張りの小さなただのモーターボート(音がやたら大きい割りに速力が出ない)に、爆薬を積んで敵艦船に体当たりする特攻兵器「震洋」の乗組員で隊長であった著者の代表作。作品は昭和54年から60年までに発表された短編7編の連作という形がとられていて、奄美大島加計呂麻島の特攻基地に向かうところで終わっていて未完だが、その後のことは別作品で描かれている。 時代の波と組織に取り込まれた個人の内省を描いた作品だが、中身は固くがっちりした文体なので、今の軟弱な文章しか読んだことのない人には手がつけられないかもしれない。そういう意味では読者を選ぶ作品である。

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