日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
塔と重力

芸術選奨文部科学大臣新人賞

塔と重力

上田 岳弘(著)

阪神・淡路大震災で生き埋めから生還した語り手が、二十年後に旧友との再会を通じて、失われた相手の記憶と現代の認識の揺らぎに向き合う表題作を含む短編集。災害、テロ、インターネット以後の視点の拡張を背景に、人が世界をどう名づけ、どう関係を保つのかを問う。

震災の記憶喪失インターネット認識短編集

作品情報

忘れられない喪失が、二十年後の再会によって別の輪郭を帯びていく。

新潮社から2017年7月に刊行された上田岳弘の短編集。表題作のほか「重力のない世界」「双塔」を収録する。新潮社公式と版元ドットコムで ISBN、ページ数、電子書籍の有無を確認し、文化庁資料で芸術選奨文部科学大臣新人賞の対象作であることを確認した。

レビュー要約

  • 言葉によって世界を定義しようとする試みと、その定義からこぼれ落ちるものを描く構成が評価されている。表題作と併録作が重力や塔のモチーフを響かせ、単一の解釈に収まらない読後感を生む。

書籍情報

出版社
新潮社
発売日
2017-07-31
ページ数
205ページ
言語
日本語
サイズ
13.6 x 2 x 19.7 cm
ISBN-13
9784103367345
ISBN-10
4103367342
価格
1760 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

忘れられないのね。可哀そうに。17歳の冬、僕らが眠るホテルは倒壊した。あの地震がなければ初体験の相手は彼女になるはずだった。

レビュー

  • 超越派らしい傑作だ

    超越派と呼ばれている作者です。構成力、文章が素晴らしい。

  • 会話を追いかけるだけで満たされる

    上田岳弘の小説はセリフがよい。 「結局お前がどこでも浮いて見えるのは、0か100かでしか物事を見ていないからだ。全部思い通りになるか、完全にどうでもいいか。だから他人に興味が向かないし、溶け込めない。異常にプライドが高いんだよ。」 「正直に言ってね、私、人が亡くなることをどう思えばいいのか全然わからない。」 テーマや背景を深く考察しなくとも、会話を追いかけるだけで満たされる。 亡くなった元恋人の身代わりを探し続ける美希子アサイン、Facebookのアカウントを躊躇なく受け渡す葵、"個人"が廃止され肉の海となった未来・・均質化しゆく世界で会話の可能性が探られる。

  • 仮想と現実のせめぎ合い

    中東のテロリストからアメリカの大統領までもがツイッターを駆使する時代ともなれば、SNSはすでに現実を凌駕している。 だから水上は「美希子アサイン」と称して、20年前に阪神・淡路大震災で死んだはずの美希子を次々と田辺にアサイン(割当て)する。SNSが現実を凌駕している以上、全ての人間は代替可能で、しかも世界には35億の女がいるのだから、たとえ死んでいようと美希子は存在する、という水上の「神ポジション」からの理屈を田辺も受け入れざるを得ず、何番目かの「美希子アサイン」を美希子として承認する。Facebookで友だち申請を承認するかのように。 しかし水上も田辺も完全にSNSの支配下にあるわけではないらしい。水上は「商業出版の限界を超えた小説」をFBにアップし続け、世界中で行われるリツイートを体内に溜め込んでサルトルのように嘔吐を繰り返し、田辺は涙腺を崩壊させてセックスに明け暮れる。SNSに付きまとう虚無感に拒絶反応を起こしながらも、その苦しみを表明することはせず、わずかに日常を押し出すことで2人は自分を保とうとする。どんどん高く伸びる塔と重力とがせめぎ合うように。 設定は松田青子の「スタッキング可能」を類推させるし、頻繁なセックスシーンと文体は村上春樹を思わせる。「十五年。ちょっとした時間だ。」(P16)みたいな。けれどもこの著者にしては物語性が強く面白く読めた。 表題作と共鳴する2編のうちの「重力のない世界」では、「個人」が廃止され「肉の海」の中の座標として演算された人生を生きる家族が描かれる。「双塔」の作風は三島賞を受けた「私の恋人」に近く、時空を超えてRejected(拒絶)された人々を描く。どちらも観念的な作品ではあるけれども、言語以前、あるいは、言語の外にあるかもしれない世界の可能性について書こうとしている。

関連する文学賞