作品情報
雪の庵で語られる父子の断絶が、戦後日本の深い亀裂を照らします。
上下巻で刊行された長編の上巻です。保守王国の内部で起こる造反と、地方政治の行き詰まりを背景に、家族と国家、信仰と権力の関係を重層的に描きます。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2005-10-26
- ページ数
- 475ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784103784043
- ISBN-10
- 4103784040
- 価格
- 1287 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
保守王国の崩壊を予見した壮大な政治小説、3年の歳月をかけてここに誕生! 父と子。その間に立ちはだかる壁はかくも高く険しいものなのか――。近代日本の「終わりの始まり」が露見した永田町と、周回遅れで核がらみの地域振興に手を出した青森。政治一家・福澤王国の内部で起こった造反劇は、雪降りしきる最果ての庵で、父から息子へと静かに、しかし決然と語り出される。『晴子情歌』に続く大作長編小説。
レビュー
-
会話劇の中でサスペンドされたもの
高村薫の圧巻の三部作、その中間に位置するのが「新リア王」。 上下巻込みの感想になります。 父子ふたりの会話劇が小説の基礎です。 座して会話しているだけですが、話しの内容に動きがあるのが、せめてもの救いでしょう。 ダイナミックなカタルシスは捨て去られているため、特に上巻は読むために忍耐が要ります。 前作「晴子情歌」は純文学としての豊穣と達成がありました。 しかし「新リア王」は会話劇という形態のために、反小説的な側面さえあります。 実際に後の「太陽を曳く馬」は小説としての成り立ちまで放棄されたようなもの。 「新リア王」は「晴子情歌」ほど、小説的ではなく、「太陽を曳く馬」よりは小説的なのです。 父子ふたり、また小粒な登場人物すべてが想い入れを排するような愛嬌のない者たち。 進んでいえば吐き気がするようなダメ人間です。 しかし人間の業を見続ける高村薫は、そのクズさを断罪したりはしません。 私たち読者は判断を宙吊りにしたまま、辛い読書をします。 テーマは多岐に渡ります。 中選挙区制度の中の地方の王。 その絶対的な父権性。 あるいは原子力事業というものの悲惨。 政治家が今より大粒、大物だった時代と、その瓦解。 そう、下巻では宙吊りにされた一切が音を立てて崩れ去り、「ああ、ここまでの布石はサスペンドされたものか」とハッとさせられるでしょう。 つまりはやはり高村薫は「新リア王」でサスペンスを描いて、私たちをあっといわせるのです。 とはいえ、このサスペンスにたどり着くまでには相当な我慢を強いられます。 乗り越えた読者にだけ見えるものはスケールも巨大な戦後日本社会という渦です。 今と地続きであることまでも丁寧に描きます。 日本の典型的な保守政治家を軸に、明らかにその保守性に異議を抱えた著者が軽々と断罪しない辛抱強さを魅せてくれるのです。 賛否両論あるのは当たり前。 眩暈がするような読書体験でしたが、「晴子情歌」のように万人に薦められる小説ではなく、まごうことなき問題作になっています。
-
GOOD!
早い対応と、丁寧な梱包で、とても良かったです。
-
レオ
名文とすばらしい洗礼された表現、こんなすばらしい本が安く入手できて、感動です。
-
現代政治・社会の教科書
(上・下巻通してのレビューです) 『晴子情歌』の続編。ほとんど登場しなかった代議士福澤榮の回想談が延々と続きます。これはこれで面白い。現代政治・社会の教科書としてもいいくらい。仏門に迷う?影之のその後が読みたい……と思ったら、『太陽を曳く馬』に続くようです。
-
状態表記に疑問あり
状態が「最も良い」との表記だったがカバーなどそこまでの状態ではない。これなら「良い」との表記にするべき。尚、中身は問題なし。
-
難しい
すみません。理解できませんでした。 文章も読んでいて難儀でした。 というのが感想です。
-
非常に良い
頼まれ物での注文でしたが、届いたらとても気に入って貰えました。
-
上巻第一章まで〜人間の存在意義を問うた骨太の作品
「晴子情歌」の続編であるが、題名からして「現代のドストエフスキー」から「現代のシェークスピア」へと幅を拡げる意図か。重い十字架を背負った作家の宿命ではある。地方を牛耳る政治家一族、国と地方の政治と金権の関係と構造、更に宗教を絡ませて描いた骨太の作品。時代設定も私の大学生時代から社会人時代に重なるもので、物語に生々しさを感じた。「レディ・ジョーカー」で娯楽作家と言う偽のレッテルを払拭した以降の作品は作者本来のものと言え、「書きたいものを書く」との姿勢が窺え頼もしい。 榮の政談、彰之の宗教談義は口頭にしては精緻過ぎるが、これが持ち味だろう。宗教を採り入れたのは政治・現実の混迷と宗教の体系の対比の意か。作者は政治家に<空>を求めている様である。私が同時代を生きたせいもあるが、政治面は大部の割には既知の情報が多く新鮮味が無かった。それにしても、これほど実名の政治家を入れての政談は、小説なのか時事放談なのか判然とせず、「書きたいものを書く」難しさを痛感させる。一方、仏行の描写も別の意味で破天荒で、仏教の解説書以外で、仏行や教義の問題をここまで突き詰めた書物は前代未聞であろう。宗教と言うよりもハイデッガーの意識論をも持ち出した哲学書の趣き。極論すれば、本作は人間の存在意義を問うた作品である。<リア王>をモチーフにしている以上、この後、<王>榮の疑心暗鬼、後継者問題と言った俗な世界に入る筈だが、その展開及び宗教・哲学との係わりが如何に描かれるか第二章以降に期待したい。 以下は作中の齟齬と私の勝手な願望である。 ・角栄を保守本流、福田を反主流と記しているが"誤り"で、保守本流は福田の方。 ・岩手四区も俎上に載せていれば現在の政局に"just fit"だった。 ・「むつ」を話題にするなら、「非核三原則」や「安保密約」まで踏み込むべき。
関連する文学賞
- 親鸞賞 第4回(2006年) ・受賞