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みずうみの満ちるまで

ハヤカワSFコンテスト

みずうみの満ちるまで

土形亜理

気候変動と戦争に荒れた未来、富裕層は精神を仮想空間に移し永遠の命を得たが、全財産を次世代に託し死を選ぶ者もいた。彼らの望む最期を約束する楽園〈ヘヴンズガーデン〉で、元難民のコーディネーター・エルムは、異なる死生観を持つ人々と向き合いながら、人類の過ちと生きる意味を問い続ける。第13回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作。

気候変動格差社会死と選択難民仮想空間ポストアポカリプス死生観

作品情報

温暖化と戦争によって取り返しのつかなくなった地球で、人類が残した傷を見つめ、もがく人々を描いた静謐なSF譚。

気候変動と戦争が地球を荒廃させた近未来。精神アップロード技術により富裕層は永遠の命を得たが、一方で全財産を次世代に寄付し自らの死を選ぶ者のための施設〈ヘヴンズガーデン〉が存在する。元難民のコーディネーター・エルムはその施設で働き、さまざまな死生観を持つ人々と向き合う。人類が取り返しのつかない傷を負った地球で、もがく人々を静謐な筆致で描くSF長編。

レビュー要約

  • 「ひとりひとりの死生観を問う物語」として高く評価され、選考委員の小川一水氏は大賞推薦を行い「未知を残した余韻に感嘆した」と述べた。「あらかじめ用意された答はない」構成が特徴的で、経済格差と死の選択、人道支援の倫理性など複雑な問いを丁寧に描く。

  • 美しい文体や世界観の完成度を評価する声がある一方、ラストの余韻については「スッキリ感がない」という意見と「余韻が素晴らしい」という意見に分かれる。テーマの深さとして生と死の選択、環境問題、階級格差への問いかけが評価されており、評価傾向は賛否両論。

書籍情報

出版社
早川書房
発売日
2026-01-21
ページ数
320ページ
言語
日本語
サイズ
13.1 x 1.8 x 18.8 cm
ISBN-13
9784152104922
ISBN-10
4152104929
価格
2750 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

第13回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作 温暖化と戦争の果て、壊れゆく星。 絶望の先に生まれた庭で、受け渡されてゆく命の物語。 気候変動と戦争に荒れた未来。 生を脅かされる難民が地表に溢れる一方、富裕層は仮想空間に移住し永遠の生を得ていた。 しかし、次世代のために全財産を寄付し死を選ぶ者もいる。 〈ヘヴンズ・ガーデン〉は、彼らに理想的な最期の時間を提供し、その遺産を難民保護に充てる施設だ。 コーディネーターとして寄付者の〈旅立ち〉に寄り添う元難民のエルムは、地球を壊してしまった過去を引き受けようとする寄付者のローズやリゲル、ガーデンを訪れた元難民のリンクス、施設の創設者「三毛猫」との日々を通じ、自らの過去、そして生きる意味に向き合うこととなる。 人類の残した傷跡を見つめ、失われゆく世界に寄り添う静謐なSF譚。

土形亜理(Ari Tsuchigata) 1980年生まれ。埼玉県出身。2025年、『みずうみの満ちるまで』で第13回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、デビュー。

レビュー

  • 荒廃した未来からのメッセージ

    情景描写がとても巧みで美しく、また登場人物の心理描写もリアル。 SFであり、哲学的であり、そしてメッセージ性のある物語。 管理人三毛猫の苦悩や葛藤は、この現代社会で、紛争や飢餓に向き合い医療、教育、食糧支援や難民支援などで活動する人々の苦悩、怒り、やりきれなさにも通じるものがあると思う。 気候変動、科学技術への安全神話、分断、紛争、飢餓、それらを見て見ぬふりして自分の半径100mの安全安心に満足して生きているこの時代の人々への未来の若者からの怒り、そして何もできなかった、何もしなかった、現代人の後悔、後ろめたさを感じさせる物語。

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