日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
夏物語

毎日出版文化賞

夏物語

川上未映子

大阪で生まれ育った夏子は、パートナーを持たずに妊娠・出産することを考え始める。精子提供で生まれ、父を知らない逢沢潤との出会いを通じて、産むこと、生まれること、身体をめぐる自己決定の非対称が、切実な対話として浮かび上がる。

生殖身体母性自己決定大阪

作品情報

生命を選ぶことと選ばれずに生まれることの隔たりを、笑いと痛みを交えて問う長編。

第73回毎日出版文化賞芸術部門受賞作。文藝春秋刊の単行本で、版元ドットコムに ISBN-13、ISBN-10、ページ数、書評掲載情報がまとまっている。芥川賞受賞作『乳と卵』の登場人物を引き継ぎ、子どもを持つ願いと、その願いが他者の生に及ぼす影響を、濃密な会話と身体感覚で描く。

レビュー要約

  • 重い倫理的主題を扱いながら、語りのユーモアと会話の勢いが作品を支えている。身体と生殖をめぐる問いを多方向から受け止める姿勢が、読者に深い余韻を残す。

書籍情報

出版社
文藝春秋
発売日
2019-07-11
ページ数
545ページ
言語
日本語
サイズ
13.8 x 2.9 x 19.5 cm
ISBN-13
9784163910543
ISBN-10
4163910549
価格
1602 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

パートナーなしの妊娠、出産を目指す夏子のまえに現れた、精子提供で生まれ「父の顔」を知らない逢沢潤―― 生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と泣き笑いに満ちた極上の筆致で描く、21世紀の世界文学! 世界十数ヵ国で翻訳決定! * * * * * * 生まれることに自己決定はない。だが産むことには自己決定がある。この目も眩むような非対称を、 どうやって埋めればよいのか? 母になる女たちは、この暗渠をどうやって越したのか? どうすれば、そんな無謀で勝手な選択ができるのか? 作者は、「産むこと」の自己決定とは何か? という、怖ろしい問い、だが、これまでほとんどの産んだ者たちがスルーしてきた問いに、正面から立ち向かう。 ――上野千鶴子(「文藝」秋季号) 笑橋で今日も生きる巻子の、物語終盤での言葉に、誰もが泣くだろう。(中略) この作品は間違いなく傑作である。 ――岸政彦(「文學界」8月号) この作品は、全方向からの意見に耳を傾けているような、極めてフェアな作りになっている。 それも生殖医療を論じる難しさの中で、 子どもを持つ、というシンプルな願いをどう叶えるかと、模索した結果であろう。 川上未映子は、難しいテーマを、異様な密度で書き切った。 ――桐野夏生(「文學界」8月号) これ以上ないほどシリアスな倫理問題を扱っているが、 大阪弁を交えた語りやセリフの爆発的な笑いの威力よ。 破壊と創造を同時になしとげる川上語も堪能されたし。 ――鴻巣友季子(「毎日新聞」7月28日書評) * * * * * * この物語には、人が生まれて生きて、そしていなくなることの、すべてがある。

レビュー

  • 完ぺきです。

    完璧。本に対する評価、尊敬、全て申し分ありません。

  • 『乳と卵』の続編です

    川上未映子さんの小説はこちらで2作目です。 『すべて真夜中の恋人たち』を読んでもう少し読みたくなりすぐに入手しました。 すべて真夜中の恋人たちは、集中しての2日で読み終えましたが こちらはいったん挫折したのも含め3週間かかりました。 どうして挫折したのかというと間に挟まれる姪っ子の緑子ちゃんの日記とか とにかく読みづらかったし、感情移入できないし、文章力、表現力には惹かれましたが 多分読み終えることはないかなと。 でもやはりまた気になって読み始めそこからは一気読みです。 世界に入ることができました。 読んでよかった本です。 『すべて真夜中の恋人たち』でも思いましたが回収しない部分が多い作品ですね。 伏線回収が身についてるので違和感があります。 一部と二部の極端な差にも置いていかれそうになりました。 思っている感情を、リアルなら絶対人には語らない ネガティブで身勝手な感情や意見をいう登場人物が多いのも特徴ですね。 慣れるまで辛いです。 でもそれが醍醐味なのかもしれないと後半は感じました。 そんな剥き出しの感情が飛び交うのはまさに小説(創作)ならではのことだとも。 今回のことさら重いテーマに対して様々な立場の、境遇の、 様々な視点での意見を聞くことが出来ました。 綿密な取材によるリアルが詰まった力作だと思います。 『夏物語』は『乳と卵』の続編であるということで 先ずはそこからずれていたんですね。 『乳と卵』を読めばこの違和感はなかったのか…。 あとは今更ですが…これは純文学作品なんですね。 知らないで読んでいました(汗) 純文学に多い、救われないラストが苦手ですが 今作のラストも良かったです。

  • 筆力の凄さが光る最高傑作です。

    筆力の凄さが光る最高傑作です。生命の意味をめぐる深い洞察と切なさの表現のうまさが光ります。

  • 登場人物の結末が気になる

    本屋大賞2020 第7位 前半は芥川賞をとった『乳と卵』のリブートらしい。後半が主人公の8年後ぐらいになるか。 結論から言うと、登場人物のそれぞれの最後の描かれ方になんだ微妙な気持ちになった。 極力ネタバレしないようにいうと、子どもを産まない人、壮絶な過去を以て子供を持たない人の最後がこれで、苦しくても家族がいたらいいみたいなエンディングが違和感。自分の読み方がおかしいのかもしれないが、なんかこれは違和感を読ませるためのものだと言われたらまだ納得できる。 人間が命を紡いでいく中で、このように理不尽なことがあるけどこうやって命は続いていくんだみたいなことを訴えたいならギリギリわかる…というところ。 どうしても主人公の気持ちに共感ができないというか伝わってこないという方がいいのかなあ…自分には最終的に合わなかったと感じた。

  • 無限の点景 計り知れない質量

    深紺の壮大な宇宙空間に鹿威のごとき鳴りわたる銭湯の響き。お好み焼きのジュー!

  • 読みました

    読んだことがある人に出会いたいと思う。それぐらい生きていく上での根幹を揺るがされました。

  • いろいろ語りたくなる作品

    三十歳男性です。小説としてとにかく言葉のリズムがよく、巻子が出てくるあたりの諧謔味のある関西弁にはつい笑みがこぼれてしまった。ほかのレビューにあるような反出生主義とその流れからの結末部分の倫理的あいまいさについては、これが哲学書ではなはく小説だということを考えれば、語り手≒作家の自意識に行為が委ねられるのは健全であるし批判されるべきではないと思う。 私が気になるのはこれはフェミニズム文学であり素晴らしいものであるが、同時に露骨すぎるほど「ミサンドリー文学」でもあるという点。 まず、男女を表すさいにかたや「女性」かたや「男」というふうな非対称な人称代名詞が用いられている。さらには「男」という大きな主語をつかって男=有害という前提で話が進められるのは、読んでいてなかなかしんどいものだった。しかしながらこれもまた作者は「織り込み済」かもしれず、あくまで語り手・夏子の自意識が反映されているものとして作品内倫理と一般倫理を混同せずに読むリテラシーを読者は持たなければならない。 ジェンダーの進歩にはミソジニーもミサンドリーもいれない努力をし、純粋にフェミニズムとマスキュリズムの折り合い云々が必要になってくるがそんなことここに書いてもしかたがないから言わないでおく。ただ別のレビューで「男性にこそ読んでほしい」というのを見かけたが、もし女性であるあなたが、男性が女の悪口ばかり言っている小説を「これこそ女性が読むべきだ」と勧められたら、まず読む気が起きないだろう。だから男性はこの本を読んできつければ無理して読まなくていいと思う。 とはいえ、しかし私はこの本を読んでいて夏子に共感する箇所が少なからずあった。性的なことで生きづらさを感じるところとか、女性である夏子の苦しみがダイレクトに、男性である私が共感できるものとして。 で、私みたいなこうした男性は、男社会の中では窒息するし、女社会からは「男」という大きな主語によってひとくくりにされ有害なる存在として嘲られるために生きづらさを抱えていることが多い。『夏物語』は傑作だが、その主題からこぼれ落ちた生きづらい人たちの傷に光をあてる作品が生まれることを願う。

  • 私の孤独を表現してくれて、ありがとう。

    最初に川上未映子の本を読んだのは高校生の時くらい。女友だちがすすめてくれたけど、冒頭の数ページで私には合わないかな、、と読むのをやめたのを覚えている。 18年経った夏、一人旅の機内で読める本を探して空港内の書店へ入った。 タイトルが気になった本をひたすら手に取って、冒頭からグッと引き込まれたのが川上未映子の「夏物語」、、、。 彼女の文章を楽しめるようになるのに随分時間がかかってしまった。 最初は1人の女の人生を覗き見してるようで面白かった。だらだらと長い巻子の話も、緑子の話もリアルにありそうで面白かった。 でも男や性の話、結婚、妊娠の話になったときこれは私の話ではないかと思った。 私は夏子だった。もちろん、港町で産まれたわけでもないし小説家でもない。藍澤みたいな素敵な男がいるわけでもないし、結婚は一度しているが離婚し子どももいない。 ただ女の、女として産まれてきて願うこと、叶わないこと、1人で、独りで、生きていくことの風景、見えるものや感じるものが、、手に取るように分かる。共感できる。 女の人生が重いのは人間の生に関われるからかもしれない。死は男も関われる。 女は嫌でも誰かの生に直接関わってしまうリスクがある。産むことができてしまう性。 生まれたくなかった百合子と、産みたい夏子の気持ち。正直、両方分かるなあ。 私も若い頃は子どもが無性に欲しかった時期があった。 それを過ぎたら子どもを幸せにできる自信がないから産まない方がいいんじゃないかと思っている。 この世で辛いことや切ないことは終わること、死ぬことではなくて、何があっても続いていく「生」ではないかなあ。 私にとって2025年の夏は、夏目夏子という親友がいてくれた夏だった。 ラストで夏子は私とは違う選択をしたけど、現実なら複雑な気持ちになって疎遠になるところだけど、これは物語だから。 夏子が、川上未映子が、表現してくれた女の孤独や逞しさを私は拠り所にして生きていきます。私の孤独を表現してくれて、ありがとう。

関連する文学賞