作品情報
イスラーム国の衝撃は、中東政治を軸に読者を作品世界へ導く。
中東情勢と過激派組織の実態を、思想、資金、メディア戦略、国家崩壊後の空間から整理する新書。日本社会で急速に高まった関心に応える分析的な入門書。
レビュー要約
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時事的な危機を煽情的に扱うのではなく、組織の思想と地域政治の背景を整理する点が評価されている。急いで全体像を把握したい読者に、分析の入口を与える本として読まれた。
書籍情報
- 出版社
- 文藝春秋
- 発売日
- 2015-01-20
- ページ数
- 238ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 10.8 x 1.3 x 17.3 cm
- ISBN-13
- 9784166610136
- ISBN-10
- 4166610139
- 価格
- 83 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
謎の「国家」の正体に迫る イスラーム国はなぜ不気味なのか? どこが新しいのか? 組織原理、根本思想、資金源、メディア戦略から、その実態を明らかにする。
レビュー
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ゼロからわかる
予備知識なしでも読みすすめられます。 様々な基本的な用語の説明などとてもわかりやすいです。 ただ、世界史をもっと学んでおけば、 より理解できたなと感じました。 これは著書のせいではないです。
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とても不吉な未来が、とてもよくわかる
これほど目配りの効いた本をこのタイミングで出したのは著者も編集者もお見事。 それまでの既発モノを集めたとはいえ、章立てがとてもよく 順番含めできており、リライトもされたせいか、寄せ集めのにおいはみじんもありません。 一気通貫してなるほど、なるほど、の連発。その後。。。 たとえ現「イスラム国」を潰しても、バグダーディを殺しても、さらに拡散、個人化するだけで、 この対「グローバル・ジハード戦争」は100年では終わらない、 500年でも終結しまいという絶望の未来が待っていました。 いま最前線で戦っているクルド部隊も、今後ここぞと独立国を目指すでしょうし。 第一次大戦後の国境線引きは、今後のイラン、トルコの野望もあり崩壊は確実でしょう。 なんというか、「独裁国家」「警察国家」のほうがいまのあまりの無秩序よりはまだましなのではないか、 という最悪の二択を考えてしまいました。 ふたつ疑問が残りました。 シーア派とスンニ派はなぜここまで仲が悪いのか。 ムハンマドの跡目解釈の違い以外に何が原因なのか。 現世の最高イスラム権力者、カリフを「イスラム国」が勝手に 擁立して、なぜ、世界のイスラム教徒は激怒しないのか。
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オープンソースでも読める内容ではありますが、製本版としての価値がある
おそらくオーサーの池内さんという人はネットでよく読まれている`イスラームの専門家`のひとりでしょう。 電子書籍、通販の販売ページなので、ここにお集まりの方々はきっとお名前を他所で聞いてこられていると思います。 その上で、期待に応える内容かどうか、ということでレビューしますと、一冊の本として必要十分であり、 卓越した分析(おそらく文書を読まれての分析)の結果だと思います。評価が浅いのはお日柄的な事情でしょう。 日々、金にもならないメディアで「自分の言葉を必要とする人々のために」記事を書かれている努力の延長線上にある 読者フレンドリーな一冊であったと評価すべきです。電子書籍版と書籍版両方一応買っときました。Kindle良くなったし。 大学教授もウハウハではないこのご時世、トレンドな本くらいはよく売れていってほしいものです。教授が貧しければ、 その成果物も劣化の危険性がおよび、知性・学術的権威そのものが揺らぐ可能性がありますし。 ここのところのFacebook更新はご心労を伺える内容になっているので、懇切丁寧にきれいにまとまった内容をご参考になさりたければ、 有料な質の高い情報をソースになさるべきです。どんな評価をするにしても800円の価値はありますよ、きっと。
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「チェンジ」
一時,雨後の竹の子のように出てきていたダーイシュ(イスラーム国を自称するテロ集団)関連本のうち,本書は思想解析寄り. 著者のこれまでの著作がそうであったように,本書もまた,イスラームにのめり込むことなく,客観的たらんとする姿勢であり,その点では好感度高し. ▼ 本書の主旨は,あとがきからも分かるように,以下のごとし; ・グローバル・ジハードの変容の軌跡が,中東諸国・国際秩序の変動と交差し,激しく花火を散らしたのが,『イスラーム国』という現象である(p.226-227) それは裏を返せば,イスラームが自らグローバル・ジハード論を糺し,また,イスラーム諸国が自ら政治体制を正さねば,たとえダーイシュが滅びても,また同じような現象が繰り返されるだろうということでもある. それは著者自身, 「『イスラーム国』そのものを崩壊させることはできても,その後に無秩序・混沌状態が続けば,同様の性質を帯びた勢力が,名称や形を変えて出現してくる可能性は否定できない」(p.136) と述べているが如し. そしてそのような変革を,著者も希望しているように感じられる. 事実,本書の中にも,変革を促すような言葉が散見; ・イスラーム世界が統一されてカリフが統治するという理念に異論を挟むことは,イスラーム教徒の間では困難(p.16) ・「一般のイスラーム教徒にしても,『イスラーム国』の過酷な統治を歓迎する者が,現状で多数を占めるとは考えにくい.しかし,各国の政権の統治が不正義と見做されている状況がある限り,また,それらの政権に追随して宗教解釈を融通無碍に切り替えるウラマーの信頼性に疑いを持つ市民がいる限り,多数派ではないにしても,社会の中の一定数が『イスラーム国』に賛同・共鳴していく可能性は十分にある.この運動が潰えても,同様の運動が今後も各地で生じることが予想される」(p.20) ・「征服地の異教徒を奴隷化することは,イスラーム法上,明確に規定された行為である」(p.28-29) 等等. そして本書終わり近くでは実際に, 「イスラーム世界にも,宗教テキストの人間主義的な立場からの批判的検討を許し,諸宗教間の平等や,宗教規範の相対化といった観念を取り入れた,宗教改革が求められる時期なのではないだろうか』(p.203) と,控えめな表現ながら変革を迫っている. ▼ 第1章はダーイシュ概説: ・カリフを名乗ることを早くから想定していたとみられる,「クライシュ族に属する」という自称(p.13-14) ・全世界のイスラーム教徒を指導することを主張するカリフが存在していたのは,アッバース朝まで(p.14-15) ・理念に沿ったカリフの実態を備えていたのは,4代の正統カリフの時代のみ(p.15) ・卓抜なメディア・キャンペーンの具体例(p.17-19) 「バグダーディーのカリフ位就任の主張に現実味があるかどうかよりも,インターネット上でタイミング良くこのような映像を流し,イスラーム世界の耳目を集め,カリフ制・イスラーム国家の理想への注意を喚起し得ていること自体が,『イスラーム国』の力の源泉である」(p.19) ・「バグダーディーは,演説やコーランの朗誦でも確信に満ちている.イスラーム学への学識の深さが窺われる.敬虔な信者から尊敬され易いタイプの人間類型であると,映像を見る限りは言える」(p.19) ・なぜ処刑を動画公開するのか?(p.24-27) ▼ 第2章「イスラーム国の来歴」では,アフガーン戦争から記述を始めているが,正直言って,イラク戦争から始めてもよかったと思う. ・マスード殺害の目的(p.37) ・「水面下の諜報協力により,時には米国の敵対国とさえも協力して作戦を行った.[中略] 米特殊部隊とCIAが,反米的な活動に従事することも多いイランの民兵集団「クドス旅団」の協力を得て,ヘラートの住民による反ターリバーン蜂起を引き起こし,内側から支配を崩壊させたことで,早期の解放がなされたとみられる」(p.38) ・バクティア県のシャーイコート渓谷に集結した,アル=カーイダの残存勢力を掃討するための,アフガーン戦争最大の戦闘,アナコンダ作戦(p.39) この辺りは,当方がこれまでに得ていた知識と微妙にずれがあるため,要クロスチェック. ・米国の「対テロ戦争」の特色は,非通常型の軍事力や,適法手続きを逸脱した手法を駆使し,また,最新の高度なテクノロジーを生かした新兵器の投入(p.40-44) ・アル=カーイダが生き残った要因(p.44-60) ▼ 第3章からようやくダーイシュ史; ・「イラクのアル=カーイダ」とは?(p.62-71) ・ザルカーウィー・グループが国際的に知られるに至ったのは,殺害予告の映像を流布させ,関心を高めたうえで,実際の殺害映像を配信するという手法のため(p.71) 味を占めた,といったところか. ・斬首一覧(p.72-73) ・「トルコ人やエジプト人の労働者も殺害されたことで,イラク再建に支障をきたす効果も大きかった」(p.73) 労働者殺害にはそういう意味があったとは. ・実在の疑わしいアブドッラー・アッ=ラシード・アル=バグダーディー(p.74) 要クロスチェック. ・実権はエジプト人アブー・アイユーブ・アル=マスリーら外国人の手にあったとみられるアブー・オマル時代(p.75) 指導者をアブー・オマルと書いてあるデータや,アブー・アイユーブと書いてあるデータがあって当方は混乱していたが,そういうことか. ・ニスバの中に「クラシー」が加えられていることは,カリフを宣言するための予めの布石(p.75-76) アブー・オマルの時代からそうだったということは,アブー・バクルの独創ではなかったということか. ・終末論的な要素が,極めて強く強調されている機関誌(p.84-85) こいつら「ムー」だったのか. ▼ 第4章は,「アラブの春」の影響について. すなわち,上述の >グローバル・ジハードの変容の軌跡が,中東諸国・国際秩序の変動と交差し,激しく花火を散らした のうちの「中東諸国・国際秩序の変動」を解説するパート; ・「「アラブの春』によって,それまで盤石な支配構造を築いていたと見られていたアラブ諸国の政権の多くが,社会からの異議申し立てに対して,意外なほどの脆弱性を露呈して,崩壊或は分裂した.しかしそれに代わる,民主的な規範に基づく中央政府の統治を可能にする安定的な制度と体制は,短期間では構築されなかった」「唯一の例外は,そもそもの発端となったチュニジアである」(p.91-92) ・エジプトでは,「長く弾圧下にあって統治の経験を持たないムスリム同胞団は,能力不足や非妥協的な態度を露呈した.さらに司法や官僚機構,世俗主義的野党の根強い抵抗に直面して,国政の運営に行き詰った」(p.92) ・各地に出現した「統治されない空間」(p.94) ・アサド政権は,首都ダマスカス中心部や,アサド大統領一族を輩出したアラウィー派が住民の多数を占めるラタキアを含む北西部など,政権を強固に支持する地域を確保して,政権中枢の生存を図る消耗戦に入った.その結果,反体制派が支配的な大都市近郊や北部・北東部の統治は,いったん放棄された.限られた兵力を巡回させて各地で順に掃討作戦を行うとともに,無差別空爆による集団的処罰によって,住民の反政府組織からの離反を狙ったが,多くの住民が難民・国内避難民として流出し,大規模な人道的悲劇をもたらした」(p.96) ・周辺地域にテロや紛争の火種を捲いたリビア内戦(p.97-101) リビア自体もその後,国内が二分され,解決の目途立たず. ・「『アラブの春』がもたらしたもう一つの帰結は,イスラーム主義の穏健派が,急速に台頭した上で失墜し,そこから生まれた政治的空白に過激派が台頭したことである」(p.102) ・イスラーム主義には,歴史的に2種類の潮流がある.制度内改革派と制度外武闘派である.(p.103-104) どちらかといえば,後者は「攘夷派」と形容したほうがふさわしいような. ・「旧政権の強権的な支配が失墜し,代わりとなる民主的政体の発展が不全のまま,中央政府の弱体化や辺境領域の統治の弛緩が進み,イスラーム主義過激派が台頭するうちに,多くの国で,宗派主義,部族主義,地域主義といった原初的な靭帯が政治的結集軸となり,社会的な亀裂がより深まっていった.各国の宗派主義紛争は連鎖して,地域規模の国際問題に転化しがちである.また,宗派主義紛争の当事者の背後には,それぞれの宗派のつながりを利用して影響力を及ぼそうとする地域大国の思惑があり,代理戦争の様相を濃くしている」(p.106-107) 独裁政権崩壊⇒国内がバラバラになる理由が,非常によく理解可能. ・サウジアラビアやUAEなどは,イランによる各国のシーア派支援に対抗して,各国のスンナ派の政権や武装勢力に資金や武器を援助しており,『イスラーム国』に対しても,その活動の拡大をある程度不可避ととらえ,イランとシーア派諸勢力への対抗上,好都合と考えて,個人や宗教慈善団体による援助や義勇兵の渡航を,これらの政府が黙認してきた可能性あり(p.108) どうしてサウディなどが『イスラーム国』を支援してきたのか?,自分たちの首を絞めるようなものではないか?と不思議だったが,イランに対抗するためだったとは. ▼ 第5章は,類書に比べ,どちらかといえばイラクのスンナ派の問題のほうに,記述の力点あり; ・ダーイシュが「バグダードの制圧やイラク全土の支配すら達成しかねないとする危機感が国際社会に高まったが,これは過剰な警戒だったと言えよう」(p.112-113) 要はダーイシュは,スンニ派地域では快進撃することができるが,それ以外の地域ではからっきし,ということらしい. ・「当面は非常に有利な連邦国家体制の枠内で自治の実質を高めつつ,もしこの枠組みでのイラク国家が立ち行かなくなれば,民族自決の権利を行使して,クルド国家の独立を達成する,という二段構えの姿勢を,クルド人の政治指導者はとっている」(p.113) トルコが脅威に感じるのも道理. ・「スンナ派が多数を占める4県だけで,現体制の成立の時点に反対の民意が強く表明されていたのである」(p.114-115) ・「イラクの連邦制と議院内閣制の問題点は,議会が一院制で,単純な多数決原理によって運営されており,宗派間の均衡を図る比例原則が組み込まれていないことだ」(p.116) 子供でも分かりそうな問題点だが,なぜこんな制度を作ってしまったのか? ・「米軍の全面撤退により,米国の圧力を気にする必要のなくなったマーリキー首相は,『イラク覚醒国民評議会』などとの約束を反故にし,その傘下の民兵たちへの給料支払いを止めた.『イラクの息子』を野に放ってしまったのである.また,反政府勢力だけでなく,政権内のスンナ派勢力にも,テロ支援の嫌疑をかけ,訴追や放逐を行った」(p.118-119) ・ISIが旧フセイン政権幹部の秘密組織をつながりを深める過程での介在が囁かれる「ナクシュバンディー教団軍 JRTN」(p.119-120) ・「国際的な正当性を大きく損ない,国土の大きな部分への実効支配権を失うか放棄したアサド政権そのものも,主権国家を統治する政府というよりは,政権中枢とその強固な支持層だけが生き延びることを最優先の目標とする,『最強の民兵集団』と化したと見ることができる」(p.122) ・「イラク戦争後の反米武装闘争への,外国からのジハード戦士の流入の大きな部分は,シリアからだった.そこにはアサド政権の黙認があった.アサド政権にとって,米軍のイラク統治が軌道に乗れば,『力による政権転覆を通じた民主化』というモデルが成立し,やがてシリアにも適用されかねない.アサド政権は,イラクの戦後処理と新政権の成立プロセスを妨害しておくことにメリットを見出していたのである」(p.123) ・反アサド政権の武装闘争の中で頭角を現したゴーラーニー(p.124-125) ・「ヌスラ戦線がシリア人主体の,アサド政権打倒を目標とする集団となっていったのに対して,『イラク・イスラーム国』はイラク人主体で,イラク政府を打倒してスンナ派の支配的地位を回復することを目指し,シリアの組織を,その目的達成のための下部組織として扱った.これが両組織の反目の根本原因だろう」(p.125-127,134-135) ・「イスラーム戦線」とは?(p.127-129) ・「『イスラーム国』がシリアでも領域支配の範囲を広げることが可能になった背景には,多数の武装集団が入り乱れて抗争を繰り広げる状況をきらい,政府の無差別空爆の脅威に晒されることを恐れる,シリアの辺境地帯の住民感情も作用していると見られる」(p.129-130) ・資金源の「通説」に対する疑問点(p.130-132) ・「重要なことは,略奪で賄える程度の組織であるということであり,そうであるが故に,国際的な資金源を断つ努力も,短期的に大きな効果は生みそうにない」(p.132-133) それでも,やらないよりはマシなのだろうが… ▼ 第6章は,外国人戦闘員について; 特にこれのみにて一章設けてあるのは,著者曰く, ・「外国人戦闘員がどれほどの割合を占め,どのような役割を担っているかについては,慎重な検討が必要だ」(p.138) ・「欧米出身者を前面に出して欧米メディアの関心を高め,報道を増やすことそれ自体が,『イスラーム国』の宣伝戦略の一部でもあるからだ」(同) とのこと. ・「ここで重要なのは,実態としては,考えの浅い粗暴な人間が多く集まっているだけだとしても,その集団と行為を正統と見做すジハードの理念が,共同主観として存在し,広く信じられていることだ. 支持する者の目には『イスラーム国』に参加する戦闘員が浅慮の持ち主ともならず者とも見えず,聖なる戦いに身を投じた,純粋で志操堅固な人物に見えてしまう. 価値観の内側と外側で,同じ現象が異なって見えてくる,ということに留意が必要なのである」(p.141-142) 残念ながら,そうした留意ができる人は,決して多くはないのだが. ・「イスラーム世界が植民地主義の支配下に置かれたり,国家が独立していても超大国の覇権構造に組み込まれ,従属的立場に立たれたりする状況を前にして,『自分の国は既に異教徒に支配されている』,または『イスラーム教そのものが危機に瀕している』といった現状認識を抱き,それを理由にジハードの義務が自らにも課せられていると意識する者たちが,繰り返し現れてきた.そういった人たちがジハード主義者と呼ばれる. ジハード主義者は,イスラーム教徒が支配権を失った,イスラーム法的にはあってはならない状況下で,なおも国家がジハードを行わず,それどころか国民にジハードの実践を禁止したり妨げたりしていることは違法行為である,と考える」(p.144-145) こうしたジハード主義者の考え方は,当方には単なる他罰志向にしか見えないのだが. ・「広く受け入れられた規範の体系を構成する概念やシンボルを,現代のジハード主義者たちは,宣伝戦で自在に活用している. 独自の思想を考案するのではなく,共有された概念やシンボルを用いることで,出身地や民族を異にする個々人が,互いに意思を疎通させ,方向性を一致させて,足並みを揃えて行動していくことが容易になるのである」(p.146) ・「アンサール」とは?(p.147-151) ・過大評価はしないほうがいい,外国人戦闘員の割合や役割(p.152-153) まあ,欧米系マスメディアとしては,過大評価というよりも,「絵になる目新しさ」といった程度の浅い考えでクローズアップしているだけなのだろうが. ・ダーイシュの規模についての各種統計(p.154-159) ・宣伝の材料としての,欧米出身戦闘員(p.159-162) ・ブリュッセルのユダヤ博物館テロ(p.162) ・帰還兵への過剰な警戒は,自己成就的な予言となりかねないため,注意が必要(p.163-165) ・「『先鋭的』であることに存在意義を見出す論者は,しばしば『イスラーム』を理想化し,それを「アメリカ中心のグローバリズム」への正当な対抗勢力として,あるいは『西洋近代の限界』を超克するための代替肢として対置させる」(p.166-167) 「進歩的言論人」の炎上商法的言説も,これの延長上にあるのだろうか. ▼ 第7章はメディア戦略について; ・「思想としての目新しさの無さ,より正確に言えば,目新しい思想を提示する事への無関心こそが,『イスラーム国』の特徴だろう」(p.171) ・「独裁政権の暴力に頼っている限りは,過激派の発生はやまず,かといって過激派の抑制には,独裁政権を必要とする.このジレンマにアラブ世界は疲れ切っている」(p.171) ・「途方に暮れ,戦乱に怯えた市民の前に,「議論は終わった,行動あるのみ』と言わんばかりに,一方的に宗教理念を提示し,従わなければ実力行使で殺害・排除する,という集団が現れた.それが『イスラーム国』である」(p.172) ・『イスラーム国』の発信する映像・声明文や宣伝文書は,要するに徹頭徹尾プロパガンダ(p.172) ・『イスラーム国』の殺害映像は,毎日どこかのチャンネルで放送されているドラマのように演出されているからこそ,人々はそれを見ることが出来てしまう(p.180-183) ・「善政」も演出(p.183) ・機関誌に見られる終末論的色彩(p.186-201) ・クルアーンからの引用で奴隷制を正当化し,「それどころか,奴隷制の復活こそが,終末の時の前兆である,とハディースを引用して主張するのである」(p.201-203) やっぱ,こいつら「ムー」だ. ▼ 第8章は,今後の行方考察; ・イラクのスンナ派主体の4県と,シリアで反体制諸勢力が割拠する東部と北東部を越えての,ダーイシュの領域支配の拡大には限度がある(p.217) ・「『イスラーム国』を消滅させることも困難である.バグダード周辺やクルド地域政府の勢力圏においてテロを続け,国家への脅威であり続けることは想定しておかなければならない」(p.218) ・「むしろ生じやすいのは,遠隔地での,直接つながりがない組織による合流の表明である」(p.218-219) 2015年3月現在,リビアに版図を広げるのでは?との観測も流れているが,これはこのパターンによるだろうか. ・『イスラーム国』現象は,アラブの更なる分裂を誘い,WW1直後に起きた戦乱の再発をもたらす可能性あり(p.219) ・「イスラーム国」台頭によって,米国覇権の希薄化が一層進行しかねず,米国の抑止力の下で安全保障を確保してきた中東の同盟国は,今後独自の行動をとりかねない(p.219) ・影響は中東地域にとどまらず,日本は自らエネルギーとシーレーンの安全を確保しなければならなくなる(p.219) このあたりは,中津孝司編『中東社会のダイナミズム』(創成社,2014)とも,見方が一致. ・「短期的には地域大国の勢力圏の拡大は,地域的な覇権競争の激化と,大国間の競合に繋がり,むしろ紛争を激化させかねない」(p.223-225) ▼ 参考文献一覧は,新書にしては比較的豊富. ただし,著者自身の著述が頻繁に登場する点には,一抹の不安あり. ▼ なお,余談だが,当方は本書を書店でなかなか見つけることができなかった. 書店店頭の検索機で,検索に引っかからなかったため. そのため,「発売日が伸びたのだろう」と早合点し,通販注文をしたところ,その後まもなく,書店に並んでいるのを発見. キーワード入力を「イスラム国」としたため,「イスラーム国」では検索に引っかからなかった模様. 書店常連の皆様は御注意を. ▼ 読め. 【関心率65.13%:全ページ中,手元に残したいページが当方にとってどれだけあるかの割合.当方にとっての必要性基準】
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共感と批判
コーランやハディースの言葉の中に今日の「イスラーム国」を生み出す原因があることを指摘したのは、貴重な指摘だと思う。「イスラーム世界にも、宗教テキストの人間主義的な立場からの批判的検討を許し、諸宗教間の平等や宗教規範の相対化といった観念を採り入れた宗教改革が求められる時期なのではないだろうか」との指摘も、今日のイスラム諸国の現状を考えるとその通りだと思う。しかし、オバマ政権の中東への関与の低下は、中東の一層の混乱をもたらしただけであり、中東の混乱を収拾するには、米国の指導力の発揮が必要であるかのようにこの本を終えているのは、何を意味するのか。 アメリカのアフガニスタン、イラク戦争が「イスラーム国」のようなテロ集団誕生の最大の原因の一つであるという観点からの分析があまりにもなさすぎる。アメリカとイスラエルのアラブ、イスラム諸国への空爆によって多くの子ども、女性、一般市民の生命が無残にも奪われたことをどのように評価するのか。ファルージャでのアメリカ地上軍の戦いをどのように評価するのか。アメリカがどのような指導力を発揮すれば、中東に平和と自由がもたらされるのか。今のような空爆とさらには、アフガニスタンやイラクでの戦争のように地上軍を導入することでは、さらなる混乱と悲劇が中東にもたらされるという可能性はないのか。池内氏はどのように考えるのか。 ・追伸 「イスラム国」に関する書籍、雑誌、新聞をその後読み進めるうちにますます池内氏への批判が強まったので、追加します。 アメリカは、2004年にイラクを攻撃しました。理由は、第1に、イラクが大量破壊兵器を開発、所有しているという疑惑があるということでした。第2に9.11同時多発テロを起こしたアルカイダを、イラクのフセイン政権が支援している疑惑があるということです。この戦争によって、イラク市民に15万人の犠牲者が出ました。空爆やファルージャなどでの地上戦で多くの非戦闘員である子ども、女性、一般市民が無差別に殺されました。 アメリカ政府のイラク調査グループは2004年10月、「開戦時イラクは大量破壊兵器を持たず、開発計画さえなかった」する報告を発表しました。また、2006年9月に上院情報特別委員会は「フセイン政権はアルカイダと無関係だった」とする報告を公表した。安倍晋三総理は、これに対して「無実を証明しなかったイラクが悪い」と発言しています。無実を自分で証明できなければ空爆されてもスナイパーに市民が撃ち殺されても仕方がないということです。 内藤正典氏の「イスラム戦争」には次のような記述があります。「2002年アフガニスタンで結婚式に集まった人々を空爆して48人の死者と100人以上の死者を出しています。」また、2014年内藤氏がトルコに滞在していた時に、イスラエルのガザに対する攻撃がおこなわれ、多くのニュース番組が子供の遺体を抱えて泣き叫ぶ父親の姿を延々と流していたということを述べています。「白い布に包まれ、血がにじむ遺体、凄惨の一語につきるものでした。中でも、国連パレスチナ難民救済事業機関の学校が攻撃された時には、人々の怒りは頂点に達した。」とあります。アメリカのアフガニスタンとイラクの戦争によって、またイスラエルのパレスチナ攻撃によって、いったいどれだけのテロリストと無関係の人々の命が奪われたのか。 内藤氏はイスラム思想は、「『テロリスト』や『過激派』を掃討すると称して、爆撃機やドローンによる度重なる誤爆で子や母を殺すような残虐なことをした場合には、命を賭けて戦う戦士を生み出します。」と指摘する。すなわちこれまでアメリカがイラクやアフガニスタンで行ってきた侵略が「イスラム国」生み出した原因の1つであることをして指摘しているのです。 また池内氏は、「イラクの政権は、米国が軍事的な支援に躊躇すればいっそうイランとの同盟関係を強めていくだろう。オバマ政権の理論的には精緻に練られた対処策は、単に米国の影響力の低下を招き、イランの中東地域での覇権の確立を許すだけかもしれない。」また、アメリカの中東における指導力の低下は、「中東地域秩序の流動化」をもたらすと述べているが、そもそも宗派紛争をイラクに惹起させたのはアメリカだという見方もあります。栗原禎子氏は、つぎのように指摘します。 「現在の事態は、すべて2003年の米国の侵略とそれに続く占領から始まっています。米国占領体制のもとで『宗派別』政治が導入され、それまで共存したスンナ派・シーア派・クルド派を意図的に分断し、対立を煽る政策がとられました。その結果、宗派間抗争が激化し、暴力がエスカレートして社会がメチャクチャになり、その過程で『イルラム国』が生まれてきたのです。」 こうした指摘に対して池内氏はどのように答えるのか。
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オススメします
「イスラーム国」が驚異なのは、カリフによるウンマの統治と いう、イスラム教の本質に迫る志向性を持ち、それを現実化し 始めていることにある、とこれまで感じて来たが、日本のマス コミは、そこには触れて来ないようだった。 この本は、このカリフ制の問題から始まるので、信頼して読み 進めることが出来た。 著者は、イスラーム政治思想史と中東の比較政治学・国際関係論 の二冊の著作を、数年かけて、完成直前まで来ているという。 そんな折に、「イスラーム国」問題への日本での関心が高まった ので、急遽、纏めてみた本だという。 しかし、この本は、そんな急遽などという言葉が信じられない くらいに、緻密かつ濃厚である。 準備中の二冊のエキスが、浸透しているのであろう。 その内容は、アル=カイーダ以降のグローバル・ジハードの推移、 「イスラーム国」の組織変遷、周辺国を含めた政治情勢、思想を 含めたメディア戦略、中東史における位置付け、今後の行方等々、 まさに緻密かつ濃厚であり、知りたいことに、漏れなく答えて くれる感じがある。 「イスラーム国」関連本を読むならば、まずはこの一冊である。
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タイムリーで深い知見が得られます
とても勉強になりました。 文章は論文形式ですが、論理的 and 読みやすいです。
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複雑な問題です。
イスラム国の来歴について詳しく解説した本。 主にアルカイダからイスラム国までの流れと、イスラム国の戦略や宣伝(あのセンセーショナルな処刑動画も計算され尽くしたものだとのこと)、イスラム法学的なイスラム国の活動理念の立ち位置などが解説されています。 なかでも、アラーに従わない異教徒や統治者は打ち倒すべき対象である、というイスラム国の主義主張は、①目新しいものではない。②イスラム法学的には否定されていない。という解説は、この問題の解決の難しさを一部なりとも理解するのに十分な内容でした。 将来イスラム国が滅びたとしても、本文中にも述べられているように、こういった現代世界の規範から外れた解釈がイスラム教の中で否定されない限り、第二・第三のイスラム国が現れるのは想像に難くありません。 一点だけ不満を。著者はこの問題にひといちばい思いがあるためでしょう。「イスラーム」に代表されるように日本語表記もこだわりを持って綴っています。気持ちは理解できますが、ここは読みやすさを重視してもよかったのでは。最後の方は慣れてきましたが、読書のテンポが削がれます。
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- 毎日出版文化賞 第69回(2015年) ・特別賞