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林芙美子の昭和

毎日出版文化賞

林芙美子の昭和

川本三郎

『林芙美子の昭和』は、川本三郎が林芙美子の作品と生涯を昭和の都市風景のなかに読み直す評伝。戦争協力という単純な断罪では捉えきれない作家像を、東京、放浪、映画化された小説、女性の自立といった視点から描く。

林芙美子昭和文学都市女性の自立評伝

作品情報

昭和の街を歩くように、林芙美子の文学と時代をたどる評伝。

新書館刊、427ページ。『放浪記』の誕生から、東京の生活者としての林芙美子、映画化された小説、戦時下の評価までを追い、作品の内側から昭和という時代を照らす。

レビュー要約

  • 戦時期の林芙美子を一面的に切り捨てず、作品を丁寧に読み返すことで複雑な作家像を示す点が評価されている。文学史と都市文化史の両方から読める厚みがある。

書籍情報

出版社
新書館
発売日
2003-01-01
ページ数
427ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784403210822
ISBN-10
4403210821
価格
3080 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

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レビュー

  • 本書は、林芙美子が生きた昭和の時代を描いたのではなく、昭和の時代に生きた林芙美子や生活者の人々を描き、私もその一人として共感しながら読んだ。

    毀誉褒貶のある戦時期の林芙美子も高等な理屈を言う人々でなく、生活する庶民だから時代の流れゆくままに流れ生きたのだと納得した。

  • 文学青年の間で当時有名な詩人野村吉哉

    昭和7[1932} 年十一月号の「中央公論」に発表された「小區」という小説がある。『放浪記』の作家はついに「改造」と並ぶ総合雑誌の雄「中央公論」に小説を書くのである。(P125) 昭和四 [1929] 年には”うれしい大事件”が起きた。「中央公論」と並ぶ総合誌「改造」から突然、原稿依頼が来たのである。ーーー (p119) このとき林芙美子が書いた文章が「改造」昭和四 [1929] 年十月号に載った「九州炭坑街放浪記」でこれは翌 [1930] 年改造社から新鋭叢書の一冊として出版されベストセラーになる『放浪記』の「序文」になった。(p120) 当時(大正14[1925] 年、林芙美子は詩人の野村吉哉と太子堂に住んでいて(p53)、とあるが、林芙美子は田辺若男と同棲していたのにすぐに別れて野村吉哉と一緒にな(p42) ったのだった。 野村吉哉は大正13[1924] 年11月に創刊されたダダの詩雑誌『ダムダム』同人12人の一人で大正12[1923] 年6月刊行の「中央公論」定期増刊「知識階級と無産階級」号に「プロレタリア作家とその作品」を弱冠21歳(戸籍上の年齢)で執筆、翌大正13[1924] 年には第一詩集『星の音楽』を出していた。 野口冨士男は『感触的昭和文壇史』のなかで、このころ二十歳くらいの文学青年から見れば「中央公論」は「高嶺の花」だったと書いている。(p125)

  • 林芙美子の昭和

    川本さんはもう少し言葉を選んで短く書いて欲しい。無駄な言葉と繰り返しが多いのが。気になる。

  • 昭和とともに生きた女流の精神史。

    戦前戦中戦後と近代日本を駆け抜けるように多くの小説を書いて逝った林芙美子。この女流作家は激動の祖国を決して大所高所から眺めることなく、常に市井人を見つめ描き続けました。 林芙美子と言えば、戦前の「放浪記」のような、貧しくとも朗らかに前を向いて生きる女性を多く描いたと思われがちですが、さにあらず。戦中は戦争未亡人など不幸な女性を描きながら次第に沈黙がちになり、戦後も、解放されたかのようなその明るい世相に背を向けて、引き続き不幸な女性たちを描きました。 本書は一筋縄ではいかないこの作家の内面を昭和という時代とともに追いつつ、「放浪記」の人気に隠れた他の作品も数多く紹介。著者の丁寧な解説に、そのどれもが読みたくなります。

  • 推奨

    川本三郎氏の昭和史探求の集大成とも評すべき一冊です。ただ、A5判で400頁超の大著ですので、完読するにはかなりの根気が必要です。軍人や兵士を題材とする昭和史が多い中で、本書は林芙美子の著作から垣間見える昭和初期の庶民史です。林芙美子が社会の下層で働く女性であったため、その著作には金銭出納や食べ物に関する記録が盛りだくさんである。川本氏が林芙美子の著作に魅せられるのも、それが生きた生活史としても貴重な資料だからだろう。働く女性の月給が30円前後であった昭和初期に、国産の蓄音機が800円したという記述には驚いた。戦後も60年代までは各地に「名曲喫茶」があったが、蓄音機が庶民の手の届かない贅沢品であったことがその由来であることを知った(99頁)。「ラーメン」「とんかつ」など、食に関する記録にも興味津々たるものがある。 ただ残念ながら、いくつかの事実誤認がある。例えば、満州国の成立を昭和9年としているが(216頁)、昭和7年の間違えだろう(満州帝国の成立は昭和9年)。

  • 「放浪記」「浮雲」以外の林芙美子がわかる作品です

    川本氏の得意とする「文学と都市論」ではなく、あくまでも「林芙美子論」で、その中に「都市」があるといった感じの構成になっています。個人的には、林芙美子と新宿の関係(同時代に「発達」した 第一章)、樋口一葉との比較(まだまだ働く女性の生活は苦しいとはいえ、職業の選択肢の増加 第二章、32ページ)、社会的弱者に注目してきた芙美子が、中国人弱者にはその同情・同感が感じられないこと(本当に感じられなかったのか、軍の言論統制を意識してのことか不明であること 第十四章)、などの議論を興味深く読みました。 特に、若い頃から詩人としても小説家としても日本社会の最底辺で生きる人々に暖かいまなざしを送っていた芙美子が、虐げられた中国人へは感情が「断絶」してしまう様を「異様」であると語っているところは同感しました。戦中の芙美子については謎が多いし、また氏も指摘している通り「漢口一番乗り」などのよく知られたエピソードからから「軍部と組んだ」という印象もあるせいか、研究もそこまでされていないと感じます。そんな中で川本氏のこの丁寧かつ挑戦的なところもある著作は貴重だと思いました。氏は戦時中の芙美子を「時代状況の重圧のなかで、なんとか肯定的な生を探り出そうと悪戦苦闘している」(エピローグ 380ページ)と描写していますが、そんな態度が好いか悪いかはともかく、川本氏の後に追随する研究を待ちたい気分になりました。三千円近い本ですが、林芙美子に興味のある方には価値ある投資になると思います。

  • 影を書いてほしい

    川端康成が、林 芙美子の葬儀で、個人が後数時間で灰になるので悪いことなど忘れて・・・というような主旨のことを述べたが、それは林 芙美子をよく知る人の言葉であろう。あまりに理想的な芙美子像を作成していて・・・人間それだけでは割り切れないところがあるのではないか?

  • 最良の評伝

    林芙美子の魅力のひとつは、自分をあるがままに表現する明るさ、力強さ、楽天主義にあると思っていた。ときには切なく悲しいまでにさらけ出してしまうところも。林芙美子の作品を辿りながら、林芙美子その人と生きた時代を描いた評伝。後から振り返って林芙美子を判断しようとすることを徹底的に避け、時代の中で、ときには迷う林芙美子の人物像をいきいきと描いている。食べ物に対する林芙美子の執着は生きることへの意欲とエネルギーの現れ。まさにそう思う。この本を読んでますます林芙美子が好きになった。最良の評伝。

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