日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
名前も呼べない (ちくま文庫)

太宰治賞

名前も呼べない (ちくま文庫)

伊藤朱里

書籍情報

出版社
筑摩書房
発売日
2022-09-12
ページ数
288ページ
言語
日本語
サイズ
14.8 x 10.5 x 1.1 cm
ISBN-13
9784480438416
ISBN-10
4480438416
価格
836 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品

第31回太宰治賞を受賞し、その果敢な内容と巧みな描写で話題を集めた著者のデビュー作がより一層の彫?を経て待望の文庫化! 解説 児玉雨子

1986年、静岡県生まれ。2015年、「変わらざる喜び」(「名前も呼べない」に改題)で、第31回太宰治賞を受賞。他の著書に『稽古とプラリネ』『緑の花と赤い芝生』『きみはだれかのどうでもいい人』『ピンク色なんてこわくない』がある。

レビュー

  • 相手の心の機微に触れらるような、、、

    二編収録されています。『名前も呼べない』、『お気に召すまま』どちらもタイトルと内容は?という感じです。前者はこれまで自分の周りにはいなかった(気づかなかった)人の話です。違和感を感じつつ読むことになりますが、読み進めていくと段々わかってくるミステリーのようなストーリー展開です。 後者は、教師と学校が舞台なので想像しやすい設定です。普段接する人でも、表には出さないけど、こちらには分からない何かを抱えているんだろうな、という気づきを与えてくれます。徳に私は人の心の機微に疎いので、勝手な解釈はしないほうがいいと感じました。 この人の作品は中毒性があるというか、読み返して覚えているのに新たな発見があります。糸が解れるというより、糸(意図)の絡まり具合がわかってくる、この本もそんな感じです。

  • 端正で、光り輝くシュールレアリズム作品

    かなりシュールな主人公の生活に、息切れしながら読み終えて(他の方も書いておられましたが)「なるほど太宰治賞!」と感じました。端正で瑞々しく、鮮やかに輝くような作品だと思います。個人的に巨匠・太宰先生の作品を、必ずしも好きとは言えませんが、この作品は、どっぷり「はまる」こと請け合いの傑作です。 他の方もおっしゃっていたのですが、私も『メリッサ、良い!すごく魅力的!」と感じました。できたら映画化もドラマ化もしないで頂きたいと思います。読み終えたら、目の前にゴスロリ姿の「メリッサ」が生き生きと見えるように感じましたので。読了感がそうなる確率は高いと思います。「きみはだれかのどうでもいい人」もかなり秀逸で素晴らしいリアリティ溢れる作品です。伊藤朱里先生の作品は「ミステリーかつ純文学」という印象で、グイグイ引き込まれます。ページを開けば読み終えるまでノンストップですね。次回作が楽しみです。

  • 純文学だけど、ネタバレ厳禁な作品 ※このレビューにはそのネタバレ含みます

    第31回太宰治賞受賞作品。 表題作『名前も呼べない』ほか、書下ろし短編『お気に召すまま』も収録されている。 どちらも子ども時代に負った傷を身の内に宿したまま大人になった女性が、自らの罪と対峙するというモチーフが織り込まれている物語だった。傷を負った場面の状況は詳細に描写されていない。ただその時や現在の主人公の感情が、日常生活の合間にふと現れ痛切に語られる。だから読んでいる途中相当心抉られたのだが、でも最終的には癒しの物語だと思う。 次回作も楽しみ。これは波長が合う人にはとことん合う系統の小説だと思う。孤独な女性の、生臭くない透明なリアリティがある。 以下重要な部分のネタバレ含みます。 『名前も呼べない』の方で、 「宝田主任がどうこうじゃない。みんなが当たり前みたいに、男と女は結婚して子ども作るのが当然で、結婚してる男と女が近づいたら不倫で、父親の死に目にも遭わない結婚しない娘は親不孝で何かがあって、そんな目でしか物事をみないで、見るだけならまだしも当たり前みたいに圧しつけてきて、そんな中で生きなきゃいけないのが最悪って言ってるの」(p138) 主人公のこの台詞、自分に投げつけられたような気がしてはっとした。だって、主人公の「恋人」は明示されるまでずっと宝田主任の方だと思っていたから。自分より背が小さいとか、回想での「恋人」の口調とか、あからさますぎる程本当の「恋人」は宝田主任の「妻」の方だと示されていたのに。当たり前のように「男と女が近づいたら不倫」だと思い込んで、些細な違和感を流していた。これはけっこう、かなり読者に対する強烈なパンチだと思う。衝撃を受けた。 こんなんじゃ確かに生きにくいよね、ごめんなさい。

  • 文学であり心理ミステリー

    不倫の恋の終わりに際した女性の心理を執拗に描いた作品。 一言で言うと「死ぬほど面倒くさい女の内面を死ぬほど面倒くさく描いた小説」。 その死ぬほど面倒くさい性格を嫌というほど感じさせてくれる、端正で緊張感のある筆致はさすが太宰治賞。文章の隅々までが現代のうまく生きられない女性の生々しさで満たされており、ディテールの細かさが素晴らしい。 ミステリーのようなトリックもあるが、それは読者をひっかけようというよりは主人公が死ぬほど面倒くさいがゆえにそうなっているだけという感じで、無理を感じさせない。それでいて真実が明らかになった瞬間、それまでの些細な違和感が一気につながって「ああ!だから!」と声が出そうになってしまった。文学と心理ミステリーが見事な形で一つに融合している。 また主人公の親友であるオカマのメリッサが大変魅力的。昼は男として働き、夜は女装して過ごす彼女の筋の通った生き方は格好がよく、それでいてそうとしか生きられない人間の切なさがある。 同時収録の『お気に召すまま』はやはり家庭に問題のあった女性の話。 表題作よりも重さはないが、おはり心理の襞を描く筆致とディテールの細かさが素晴らしい。 が、より文学的というか、特にヤマやオチがあるわけではないため、いささか拍子抜けの感がある。いや、文学ってわりとそういうものだけど、表題作がミステリー的だったから、そちらを期待してしまったもので……。 今後に期待したい新人。

  • 叙述トリック

    一般に推理小説で使われる叙述トリックを純文学で使ったものが表題作、「変わらざる喜び」の改題。いや別に政治的に身構えなくても普通に面白いです。しかし太宰賞の選考委員はあまり推理小説は読まないのか、叙述トリック特有の無理、は指摘していなかったようである。最初のほうが、がさがさした酒呑みの世界じみていてここは乗り越えないといけないらしい。

関連する文学賞