日本の文学賞

← 受賞作品一覧に戻る
風よ僕らの前髪を

鮎川哲也賞

風よ僕らの前髪を

弥生小夜子

書籍情報

出版社
東京創元社
発売日
2021-05-10
ページ数
261ページ
言語
日本語
サイズ
13.5 x 2.2 x 19.4 cm
ISBN-13
9784488028374
ISBN-10
4488028373
価格
3019 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作 これは罪と罰、そして一生終わらない初恋の物語だ。 才能と環境に恵まれた二人の少年。 その周辺では不審な死が相次いでいた― 心理の迷宮に潜む残酷な真実を青年は追う 弁護士の伯父が何者かに殺害された。犯人は未だ杳としない中、伯母は密かに養子の志史を疑っていた――伯母から志史の身辺調査を依頼された元探偵事務所員の若林悠紀にとって、志史は家庭教師として教えた子供の一人だった。誰にも心を許そうとしなかった志史の過去を調べるうちに、悠紀は愛憎が渦巻く異様な人間関係の深淵を覗き見ることになる。圧倒的な筆力に選考委員も感嘆した第三十回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。

レビュー

  • 残酷で美しく切ない物語 ネタバレ含みます

    私が書きたかった。この小説を読んで、まずそう思った。 体裁はミステリ。心と身体に傷を負った青年悠紀が、伯母の頼みで殺人事件を追い始める。 その過程で徐々に浮かび上がっていく幾つもの死、そしてあまりにも哀しい真実。 悠紀の視点で物語は進む。読者は彼とともに螺旋のように真実に迫っていく。 けれど、この心と身体に傷を負ってなお真っ直ぐでどうしようもないほど善良な彼は、決して「物語」の主人公ではない、 悠紀の行動によって明らかになっていくふたりの少年ー志史と理都ー、そしてふたりに寄り添うひとりの少女の生そのものこそが、この小説の主人公なのだろう。 志史はほんの数回しか登場しない。だがその度に鮮烈な印象を残し、その姿は強烈に脳裏に刻まれる。理都にいたっては、全く読者の前に姿を現さない。けれど理都を取り巻く人々の語りから、私たち読者は彼の心を、姿を容易に想像できる。 さらに彼が詠んだ一連の歌が彼の心をも浮かび上がらせ、私たちの胸に迫るのだ。 メタセコイアの木の下で全てが明らかになり、物語が幸福に収束するのかと思いきや、作者はそれを許さない。 彼らはもう十分苦しんできたのに。まだ足りないとでも言うのだろうか。 この先にふたりを待つのは希望か絶望か、作者は語ってくれず、余韻を持って物語は終わる。 魂の奥底から求め合い、惹かれ合い、相手のことだけを想ってきたふたりの少年。 「あどけない夢など見ない僕たちが肩を合わせてうたた寝をする」 「掌を形見に置きて肋骨の内心臓は咲き誇るかな」 彼らの相手をを想い恋慕う心は、同じ重さであり同じ性質であった。けれどふたりはそれに気付いていない。 ふたりともその想いを秘めたまま一生を過ごす覚悟であったのだろう。それが相手のためなのだと信じているから。 たとえ決して伝えることのない想いを抱えて生きていくのだとしても、それでも物語の終わったその先、志史と理都そして少女に幸せな未来が待っていることを切に願う。 ミステリの賞である鮎川賞の優秀賞受賞作ではあるが、謎解きに主眼がおかれている訳ではなく、事件のトリックそのものには、比較的早い段階で気付く。けれど、それによってこの小説が損なわれることは全くない。 抒情あふれる静謐な文章に身を委ね、少年たちが味わわなくてはならなかった残酷な現実と彼らの哀しみに心を寄せ、少年たちの切なくも美しい物語にただひたすら浸ればそれでよいのだ。 美しい物語であった。 さて、この本にはひとつ素敵な仕掛けがある。紙の本を選んでほしいのだ。電子書籍ではなく。 そして読み終えたら(読み終えたら、である)カバーを外してみてほしい。きっと「本」を手に取ることの喜びを感じられることと思う。 これは出版社の「本」ー電子書籍ではない紙の本ーへの愛の具現化、そんな風に感じられた。

  • 描写がとても丁寧でした

    静かで切ないお話でした。 描写がとても丁寧に表現されており、情景がすぐに浮かんできます。 子供は親を選べない。 大人の欲に支配されてしまった子供達の悲しい選択の先に、明るい未来が訪れてくれることを願わずにはいられない作品でした。

  • 透徹な語り口が魅力

    透徹な語り口が、少年の感情をあらわにしない雰囲気と非常あいまっているなと。それでいて、一瞬の表情の変化を、まるで見たかのような気持ちにさせてくれます。ことの真相へと迫っていくもと家庭教師の悠紀の、かつても見えていたはずなのに立ち入らなかった、という言葉に近いものを感じながら、読み進められました。

  • 色々複雑にしすぎ

    ラノベミステリーのBL風味です。 登場人物達の過去を変わった不幸詰め込みすぎて、昼ドラみたいになってる。 文章が美しいところがあるのと、男子2人に儚い脆さがあるので、それがこの小説の魅力かな。 とりあえず気を衒いすぎ。 若い人向けの小説。

  • ポチって良かった

    ランキングにあったので何となくポチった本。 在宅の暇つぶし用でしたが、引き込まれて一気読みでした。 とても耽美で切ない物語で、頭の中にぶわっと映像が浮かんでくる感じ。 終わり方めちゃ好きです。 次作も読みたい作家さんです。買ってよかった〜!

  • 登場人物紹介が載ってるのに、人物描写がわかり辛い。

    これは致命的な汚点。 どの人物も現実感が無く、どことなくボヤけていてこれといった魅力にも欠ける。 大きな事件が起こっても特別騒ぎもせずに、主人公の探偵が冷静にテンポ良く解決(容疑者の周囲に簡単にアポが取れちゃう)していくのも物語ジミてて興醒め。 ミステリーというよりライトノベルの恋愛小説かな。癖のある恋愛かもしれないけど今時小説の正解ではありふれてるし、カバーに答えも出ちゃってるし。

  • 期待を込めて、辛口のコメント

    繊細な語り口で好感が持てるのですが、表現が丁寧なためか、いくつか欠点が目につきました。 一つ目は、おおもとの仕掛けが予想できてしまうこと。さすがに個々のトリックや細かい伏線までは分かりませんが、小説を読みなれた人なら、これはあの仕掛けでしょとか、最後はこうなるのでしょという先読みが安易にできて、それが当たってしまうように思います。 二つ目は、キャラクターの造形が極端で類型的に思えること。救いのない悪意や狂気、そういったものに踏みにじられる心といったものが描かれていますが、唐突だったり、一面的な描写なので、理知的に考えて作られた作り物めいて、作家さんてこういうキャラクターを使いたがるな、と思ってしまいました。 三つ目は、どこかで読んだような話とテイストが似てしまっていること。10年以上前に年末のミステリランキングで上位になった同系統の2作品と、雰囲気、設定が似ているように思いました。 これだけの作品を書き上げるのは大変だと思います。ただその一方で、辛口のコメントになってしまいますが、過去のいろいろな作品をよく勉強してきれいにまとめた”だけ”という印象も持ちました。 他の作家さんでは、藤原伊織氏や逢坂剛氏がマーケティング的によく考えられた読者にアピールする名作を書かれていますが、この作品だけ読むと、テストで良い点は取れたけど、もう少しキャラクターや謎の見せ方やひねりを考えないと厳しいかなといった感じです。 辛口のコメントを書きましたが、語り口は好感が持てるので次回作も多分読むと思います

  • 繊細で 香しく 切ない物語

    ストーリーに引き込まれて 一気に読み終えました。 第一印象は もう一度ゆっくり味わいたいと思ったことと この物語の続きを絶対読みたい、と感じました。 繊細な心の描写や 情景や 色や香りまでも 目に浮かぶようなストーリーに 一気に読んでしまったのが勿体ないので もう一度じっくりと味わって読もうと思います。 弥生さんは女性ですが 少年から青年期に成長する男の子の描写が素晴らしく 儚げであるのに大胆な心理も細やかに書かれていました。この男の子たちを救う大人がいなかった、と絶望感もありますが、希望を感じさせるラストもとても良かったです。夢が希望をもたらしてくれるといいな、と思えました。

関連する文学賞