日本の文学賞

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誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論

日本エッセイスト・クラブ賞

誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論

松本俊彦

依存症医療の現場から、薬と人間、社会の関係を問い直すノンフィクション。

ノンフィクション医療依存症

作品情報

医療は、孤立をほどくための技術でもある。

みすず書房刊「誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論」として確認した。松本俊彦による医療エッセイ/社会論。

書籍情報

出版社
みすず書房
発売日
2021-04-02
ページ数
232ページ
言語
日本語
サイズ
13.6 x 2.1 x 19.5 cm
ISBN-13
9784622089926
ISBN-10
4622089920
価格
2860 JPY
カテゴリ
本/ノンフィクション/思想・社会/その他

********************************* ある患者は違法薬物を用いて仕事への活力を繋ぎ、ある患者はトラウマ的な記憶から自分を守るために、自らの身体に刃を向けた。またある患者は仕事も家族も失ったのち、街の灯りを、人の営みを眺めながら海へ身を投げた。 いったい、彼らを救う正しい方法などあったのだろうか? ときに医師として無力感さえ感じながら、著者は患者たちの訴えに秘められた悲哀と苦悩の歴史のなかに、心の傷への寄り添い方を見つけていく。 同時に、身を削がれるような臨床の日々に蓄積した嗜癖障害という病いの正しい知識を、著者は発信しつづけた。「何か」に依存する患者を適切に治療し、社会復帰へと導くためには、メディアや社会も変わるべきだ――人びとを孤立から救い、安心して「誰か」に依存できる社会を作ることこそ、嗜癖障害への最大の治療なのだ。 読む者は壮絶な筆致に身を委ねるうちに著者の人生を追体験し、患者を通して見える社会の病理に否応なく気づかされるだろう。嗜癖障害臨床の最前線で怒り、挑み、闘いつづけてきた精神科医の半生記。 [月刊「みすず」好評連載を書籍化。精神科医による迫真のエッセイ]

松本俊彦(まつもと・としひこ) 1967年生まれ。精神科医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物 依存研究部長。1993年佐賀医科大学卒。横浜市立大学医学部附属病院精神科、国 立精神・神経医療研究センター精神保健研究所司法精神医学研究部、同研究所自殺 予防総合対策センターなどを経て、2015年より現職。著書に『自傷行為の理解と 援助』(日本評論社 2009)『自分を傷つけずにはいられない』(講談社 2015)『もし も「死にたい」と言われたら』(中外医学社 2015)『薬物依存症』(ちくま新書 20 18)他多数。訳書にターナー『自傷からの回復』(監修 みすず書房 2009)カンツィ アン他『人はなぜ依存症になるのか』(星和書店 2013)他多数。

レビュー

  • エッセイですが、小説的な名著

    依存症について知りたくて、作者の『世界一わかりやすい依存症入門』を読み、続けてこの本も読了。 単なる医者のエッセイという枠を超えて、彼の人生観を綴った稀有な自伝になっている。加賀乙彦が好きだった少年時代、中学の時に友人がシンナー中毒になったこと、そしてモラトリアム期間が欲しいがために地方の医大に進んだことなど、その全てが医師への道に繋がっていたことが、巧みな構成力で綴られている。小説を書きたいと思ったこともある、と自身も語っていたが、それも納得の文章力。

  • 自叙伝。ぐいぐい引き込まれた。

    心揺さぶられる文章でした。しっとりした感じがものすごくいい。面白い。

  • 読み物としてたいへん面白く、それでいて精神科臨床のあるべき姿や薬物と人との関係について深く考えさせられる一冊

    本書は月刊『みすず』で連載されたエッセイに一章分の書き下ろしを加えて編まれた一冊であり、薬物依存症、自殺、自傷、トラウマ、ベンゾジアゼピンの処方の問題、車の改造と身体の改造の類比、カフェイン中毒、触法少年の問題などについて扱っている。 本書の持ち味として、まず読み物として非常に面白いということがいえる。どのエッセイも20頁程度の短いものだが、読者はのっけから著者の巧みな筆致に一気に引き込まれ、著者と同じ時空間を生き、そこで著者と同じように感じ、また考えているかのような臨場感を味わうことになるだろう。実際、評者は著者とともに精神科医療の理不尽に憤り、患者や当事者の悲惨に涙する、そういう場面に多々出くわしたのである。あたかも著者とともに著者の生きた世界を経験するかのような趣があるという点においては、本書はエッセイというより小説に近いといえるのかもしれない。 しかし、本書はもちろん読み物として面白いというだけにとどまらない。著者の半生における体験と臨床での経験と思索が有機的かつ複雑に絡まりあい、そこから精神科臨床について鋭い考察が加えられ、薬物依存症とそれを取り巻く社会の本質が深く抉り出されていく。 本書を読むことで、読者は、薬物依存症について、これまでの「常識」とは正反対といってもよいくらいのまったく新しい理解を得ることができるだろう。従来の「常識」が著者の臨床経験とそれに基づく考察によって次々に覆されていく様は本当に目から鱗といった様相を呈しており、実にエキサイティングである。 加えて、評者が深く感銘を受けたのは、著者が安易に技法や理論に走らずに精神医療そのものの理念や哲学を実直に語っているところだ。様々な限界に行き当たるなかで漫然と薬の処方に頼らざるをえない己に対する懐疑や自嘲にもまた、著者の真摯な態度が如実に表れているといえるだろう。 それでいて他方では、車の魔改造に入れ込んでみたり、ラスタ帽を被ってレゲエフェスに行ってみたり、はたまたちょっとしたトラブルがあったテレビ出演では制作側に一矢報いて「ざまあみろ」と溜飲を下げてみたりと、四角四面ではない著者の人柄もしのばれ、非常に個性的で面白い人物であるとの印象も受けた。 さて、ごく一部ではあるが、評者にとって印象的だった一節を以下に抜粋しておく。しかしながら、これらの一節はこの「小説」全体のなかに埋め込まれた部分として読むからこそ、より味わい深く説得力を持つのだということは強調しておきたい。それはちょうど器官と人体の関係のようなもので、器官を人体から切り離してしまえば、それは本来の機能を失ってしまっているだろう。先に「有機的かつ複雑に」と評したのは、この辺りの事情を考慮してのことである。 ・これはもはや治療ではない。営業、いや誘惑といったほうがよいかもしれない。 ・その薬物が、これまでずっと自分を苛んできた「苦痛」を一時的に消してくれるがゆえ、薬物を手放せないのだ(=負の強化) ・この世には「よい薬物」も「悪い薬物」もなく、あるのは薬物の「よい使い方」と「悪い使い方」だけである ・「悪い使い方」をする人は、必ずや薬物とは別に何か困りごとや悩み事を抱えている。 ・いま「ダメ。ゼッタイ。」が、薬物依存症者を孤立させ、彼らを回復から遠ざける呪文となっている。 著者の体験と精神科臨床や薬物依存症などの本質が見事なまでに絡まり合うことで醸し出される妙味が本書の類い稀な持ち味であろう。体験が掘り下げられ、そこから各エッセイで扱われるテーマの深い洞察が展開されていくこの「論文的私小説」ともいえる独特の文体はなかなか他で味わえるものではなく、読者諸氏にもこの不思議な妙味をぜひ味わっていただけたらと強く思った次第である。

  • 秀逸で正直な文章で依存問題を説いています。何より良心的な医師だと感じました

    松本先生は厚労省の啓発企画で、元野球選手(有名すぎるので名前は出しません)で薬物を使ってしまった方に講演してもらったり、ご活躍されています。 文章は始めて読みました。秀逸で非常に面白くかつ真面目です。医師としての良心も感じます。 「人間は薬物を使う動物だ」と述べて、ご自身のカフェイン錠剤使用体験なども記載されており、物質使用障害が他人事でないこと、懲戒より治療をと主張しています。 松本先生が述べているように、米国では古くは禁酒法が制定され逆効果だった経緯などあり、現在では治療を優先する方向になっています。多くの努力を払ってそのような社会を実現されようとしており、尊敬できますし本書もそのような方向性でかかれています。 ちなみに、米国では70年代にはすでにScienticfic American(日本では別冊サイエンス心理学特集「不安の分析」)でなぜ薬物に厳しい対処がなされるようになったかが記載されています。

  • 精神医療に関係なく一般の人でも楽しめる本、だが……

    薬物依存が専門の医師による自伝的なエッセイ。冒頭の章では、自身の中学生時代の青春ストーリーを通じて薬物依存症へ取り組むことになった動機が語られ、まるでドラマのような展開に引き込まれますね。詩的な比喩が多く巧みな筆致で綴られており、エッセイではなく一人称視点の青春小説かと勘違いしたくらい。なかなか読ませます。 本書のなかの薬物依存患者の言葉ですが、「薬物をやめるのは簡単、難しいのはやめつづけること」。つまり「わかっちゃいるけどやめられない」ということですかね。けどそれって依存症患者だけでなく、人間の誰もが悩むことなわけで。依存症患者とはある意味でとても人間らしく親しみやすい人なのかもしれません。そんな気持ちになるのは、この本が著者の依存症患者に対する温かいまなざしでフィルタリングされて描かれているからでしょうか。筆者自身も医者らしくない学校をサボりがちな学生時代を過ごしたようで、そういうエリートっぽくない筆者の人柄がにじみでています。 薬物依存とか精神医学とかを別にして、エッセイとしても普通に間口が広く面白い本だと思いますが、やや高めの価格設定が敷居を高くしてしまっている印象はある。新書で1,000円くらいなら万人に勧められるのだが。自身または身近な人の薬物依存問題を抱える方や、進路に悩む若い医療関係者におススメ。

  • こころの痛みと辛さへの処方箋

    同級生の方、身近な人の辛そうな姿を見て、放っておけない思いを感じました。 秋田のお酒の学会で、先生の講演会での姿を思い出し私なりに納得しました。 以前ダルクの皆さんと出会い元気をもらったことを思い出します。 本を書いていただきありがとうございます。

  • 勇気が湧いてくる本

    とにかく文章が素晴らしくて、他のレビュアーさんが書かれているように一気読みしてしまいました。 ページを繰る手が止まらないとはこういうことなんだ、と。 著者は医師ですが、「自分が患者の側かもしれない」という赤裸々な告白も嫌味なく読めて、本当に真剣に患者さんの気持ちを考えているんだろうと思いました。 悲しいエピソードもありますが、心の底から勇気が湧いてくるような本で、きっと何度も読み返したくなると思います。 おすすめします。

  • 依存症の捉え方が変わった

    精神医療の現状や、これまでの経過がよくわかった。人が病に至るくらい薬物に依存してしまう背景を、はじめて納得いくように書かれた本に出合えた気がした。何より文章が心地よく読めた。

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