書籍情報
- 出版社
- 文房夢類
- 発売日
- 2008-12-24
- ページ数
- 334ページ
- ISBN-13
- 9784998075738
- ISBN-10
- 499807573X
- カテゴリ
- 本/文学・評論
タクシードライバーの亜夕子は、希望も恋人もほしくない、風のような39歳。 武州麻生のダルマ市の夜、とつぜん臨月近い妊娠に「感染」、最愛の娘を授かるが、大飢饉の天明時代にタイムスリップ、赤ちゃんと引き裂かれる。 現世の記憶を封印された亜夕子は、前世の自分、お鮎として恋に落ち、別れと死の運命のスパイラルに巻きこまれてゆく。 ベビーシッターに虐待される赤ちゃんを助けるのは誰。ダルマ市で出会った謎の婆。生まれ変わりの不思議、デジャヴュ、夢が見せる世界。幼子の持つ記憶。 偶然ではない、これは必然。虚構ではない、これは真実。 時を超えて、見失った愛と魂を探し求める感動の物語。
1935年 東京生 短編小説集『白い猫』『帰国主婦 心の手帖』(彩流社) 小説『部屋物語』ほか。「月は船 いかに漕ぐらん」のTVシナリオで、読売ゴールデンシナリオ最優秀賞受賞。日本テレビで放映後、ギャラクシー奨励賞受賞。 文芸誌「夢類」年2回発行。 出版社 文房夢類 (ぶんぼう むるい)経営 。刊行書『古代和歌集点描 恋心を孤悲と詠む万葉びと』『周防中の浦のななふしぎ』『周防徳地のななふしぎ』など。
レビュー
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時空を超えた、読み応えのある小説
天明童女、引き込まれるようにして、一気に読んだ。リズム感あふれる文体もさることながら、構成の見事さに圧倒された。 場所は新百合ヶ丘、小田急線の沿線、そこは近年、住宅地として開発されたところである。駅周辺は買い物客であふれている。 ところがその土地には、隠された歴史がある。天明の飢饉と呼ばれた事件があった。 その歴史を、作者は、見事に蘇らせてみせる。それはまるで、作者がその場所の地霊に、とり憑かれたごとく迫力でもって、貧苦や飢えに苦しむ人々を描き出す。 この本は、この時代を描くだけで充分だったはずだ。 だが才能ある作者は、それを現代とからめて、遠い時代の人々の情念を、今に蘇らせ、幼い命にそれを吹き込んでいく。 真に恐ろしい小説である。そして、今、私たちの情念は、どのような形で、未来に蘇るのであろうか。 久しぶりに、小説の醍醐味といったものを味い、満足感を覚えながら、本を閉じた。
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私たちの中に眠るもの
確かに面白い。作者は筆力のあるストーリーテラー。だが、フィクションを書き連ねるのではない。作者自身の中に眠る声を、作者は言葉にする。真摯に、深く、鋭く・・。私たちはとかく目に見える現実の世界だけに生きていると思いがちだ。しかし、私たちのDNAに時代を経てインプットされているものはないか・・人だけではなく、私たちが生きている土地にも、時を経て降り積もった歴史と人々の想いがあるのではないか。それに耳を傾けようとすると、私たちは決して目の前にある単層の社会だけに生きているのではないと気付く。この現実の世界は、実はいくつもの層をなしているのかもしれない。ある人はそれを異次元と呼ぶかもしれないが、世界は本来薄っぺらではないのだ。そういう壮大な背景を抱えつつ進行する物語だが、読み手に長さを感じさせない。一晩で一気に読んでしまいたくなる話だ。そして読み終えたとき、私は涙が止まらなかった。