作品情報
さざなみのように揺れる記憶と土地を描いた幻想小説。
さざなみのような揺らぎを軸に、土地と共同体の記憶を立ち上げる幻想小説。
書籍情報
- 発売日
- 2021-02-21
- ページ数
- 203ページ
- 言語
- 日本語
- 価格
- 1870 JPY
- カテゴリ
- Kindleストア/Kindle本/文学・評論/SF・ホラー・ファンタジー
第23回日本ファンタジーノベル大賞、大賞受賞作。 同賞は第1回以来、中国あるいは中国的な世界を舞台にした優れた物語を輩出している。本作もそのなかの1作で、高い筆力、豊かな叙事性で、ファンタスティックチャイナの山脈のなかの高峰のひとつとなっている。 深山の懐にある湖の畔の村で育った少年さざなみの数奇な運命、今上帝の落とし子甘橘(かんきつ)、剣技に秀でた少女桑折(そうせつ)など、魅力的な登場人物たちによって描かれる運命の絵巻。近年修辞家としての声価が高まる勝山海百合の優れたストーリーテリングを堪能してください。 表紙画は大谷津竜介。400字詰め原稿用紙換算約280枚。800円 抜粋 苦労人の銭壺春を見込み、あるいは慕って一座に加わりたい孤児が集まって来たが、壺春姐さんは芸に厳しかった。可哀想な孤児だからというだけでは雇わず、紹介された子どもでなければ会うこともなかった。桑折と会うことになったのは偶然で、すぐに返すつもりだった。剣が多少使える少女ということで、一目会えば義理は果たしたはずだった。 壺春が見た桑折は、手足の長さがほどよい子どもだった。?せてはいるが、病気でもない。関節も柔軟だった。度胸があるというか、堂々としている。 この少女を連れてきたのは、いかにも文弱な、幼さが残る青年だった。少女の兄とも従兄弟ともつかないことをもごもごと自己紹介した。父親が亡く、困窮しているらしかったが、そんな子どもは大勢いるのでいちいち取り合わないことにしていた。 壺春は桑折に芝居用の派手だが軽い剣を渡した。 「右右左、右左、でかかってきなさい」 壺春も剣を持つと、桑折に合図をした。 桑折は言われたように斬りかかり、寸止めした。責められる壺春が五歩下がったが、次は壺春の番で、五歩前に出た。 「そうそう、その調子」 それを何度か繰り返し、壺春が「勝負を決めて、討ち取って」と言うと、桑折が壺春を袈裟懸けにした。 が、壺春は反射的に身を引いてかわしてしまった。 壺春の視界からふっと桑折が消えた。あっと思ううちに、背後に回り込まれ、木とは思えない刃物の冷ややかさを背中に感じた。心臓まであとわずか。 勝負はあった。 自分に言われたとおりにしただけなのに、壺春は桑折に斬られ、逃げおおせたつもりが一刺しされた気持ちになった。侮っていたのを悔やんだ。「――おまえ、筋が良い」 思わず壺春は言った。桑折は運動したせいか照れたのか、頬を紅潮させて、 「父上もそう申しておりました」 と言った。 勝山海百合(かつやま・うみゆり) 岩手県出身。「軍馬の帰還」で第四回ビーケーワン怪談大賞、「さざなみの国」で第二十三回日本ファンタジーノベル大賞受賞。「あれは真珠というものかしら」で第一回かぐやSFコンテスト大賞受賞。近著は『厨師、怪しい鍋と旅をする』(東京創元社)。ブログは「鳥語花香録」https://umiyulilium.hatenablog.com/ 翻訳 “Pure Gold”「純金」by Umiyuri Katsuyama (勝山海百合) translated by Toshiya Kamei. The Fortnightly Review, December 8, 2020. https://fortnightlyreview.co.uk/2020/12/micro-fictions/
レビュー
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このお話を、愛しています。
勝山海百合は、大好きな作家さんなので読みました。わたしは非常に満足しています。かなしい気持ちにはなりましたが。 評価の高くないレビューが多いのは、多分そもそも方向性の違う期待をして読んだのだろうなあ、と思われました。 無理もないとも思うのですが、残念なことです。 つるん、とした可愛らしいうつくしい玉を手に置いて愛でるような時間を私は過ごしました。 表紙絵は、とても可愛らしいけれど、別な物語を連想させます。 外したら綺麗な花の地模様が薄い青で描かれていたので、外して読むことにしました。 また、古本で買ったために帯を見ていないのですが、もしかしたらそれも何か違うことを期待させる言葉だったのではないかなと何となく思いました。やる気や元気やらに満ちた物語ではないです。 終始静かに、生かされて生き、与えられたものに感謝し、愛し尊敬して生を送った主人公には水が流れるように自然な選択だったのでしょう。決して不幸な物語だとは思いません。 でも主人公の死に方に、「何これ!?」と思う人は多いような気がします。 彼の妻の「桑折」が最も哀れだと思います。「彼」も「姫」も彼女ほどに不幸ではないように思われます。 いわゆるファンタジーノベルや、自分の力を恃み自分の運命を切り開く話を期待してはいけません。 (これを書きながら十二国記を思い浮かべています) ぽかんと人を放り出すような「聊斎志異」に風味の似た話でもありません。 『勝山海百合』というジャンルの物語だと思って読むのが一番間違いがないような気がします。
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ひとすぎる
楽譜通りに弾かれた、音程が正しいだけの、ただ上手で正確なピアノを聞いているようだ。 つまらない。 最後まで平坦だ。 起伏のない、裁断前の、色もついてない生地を眼前に広げられているかのようだ。 作者しか解っていないことを、ろくに解説もせずに、結論だけ差し出している。読者が、至る思考の飛び石すらない。作者は、読者に何を差し出したいのかわからない。 この淡々さがよいという人もいるだろう。しかし、人物に人間味がなさすぎる。まるで一冊まるまる死体である。 血の通っていない文体、雰囲気、造形。 ひどすぎる。
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拍子抜けです
私も表紙に騙されて買いました。 起承転結がないというか、淡々と進んでいく物語に何が起こるんだろう?とドキドキしているうちに終わってしまった、というような印象です。 期待していただけに残念です・・・。
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誰も仕合せになることのない不思議な話
果してこれが志怪小説のパターンなのか判らないが,最後の場面には主人公とその猫が消えていて,主人公の故郷の人々も消え失せている,と言う惨状を見て,声を失わない読者がいるだろうか.話の初めと終りを比較して,仕合せになる人がどこにもいないのだ.納得できないし,理解もできない.これが癒しの極致 ? 何かの間違いでしょう.著者は怪談もののヴェテランと承知しているが,この作の場合何かの計算違いがあったのではないか.残念.
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心癒される摩訶不思議の話
〈このままでは愛する村が滅亡する。未来を悟ったとき、少年さざなみは旅立った。一匹の猫とともに・・・ 執拗に続く謎の襲撃、馬を愛する王女・甘橘との遭遇、剣の使い手の美少女・桑折との奇縁。やがて巷に死病が流行した時、さざなみの身体に潜む不思議な力が、人びとの運命を一変させていく。 古代中国を舞台に、癒しの極地を描く志怪ファンタジー!〉 ・・・という帯のストーリーダイジェストを読んで「強い使命感を持ったヒーローが、力強く運命を切り開き、大活躍の末に人びとを救ってハッピーエンド!」というようなハラハラドキドキの冒険物語を期待した人は、たぶんがっかりしたと思います。 残念ながらこの作品は、そういう話ではありません。 さざなみという平凡で地味な男が、ただ運命のままに生きて死んだその人生が、巡り巡って故郷の湖の再生という奇跡を起こす、そんな巡り合わせの摩訶不思議を描いた物語です。 人間は、無力でちっぽけで、でも巨大な世界にとって必要な存在なのだなと、そんな気持ちにさせてくれる心癒される不思議の物語。