日本の文学賞

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八月のマルクス

江戸川乱歩賞

八月のマルクス

新野剛志

芸能界を舞台に、引退したお笑い芸人が失踪した相方と過去のスキャンダルに向き合うサスペンス。

書籍情報

出版社
講談社
発売日
1999-09-01
ページ数
325ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784062098571
ISBN-10
4062098571
価格
2400 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

現代の放浪作家が人生を賭けた渾身のサスペンス 第45回江戸川乱歩賞受賞作! レイプ・スキャンダル。私はお笑い芸人を引退した。5年後、余命わずかな相方の失踪が、過去を甦らせる……。 ●選評より ・赤川次郎氏――入り組んだ、よく考えられたプロット。 ・大沢在昌氏――芸能界を「罠」によって去らざるをえなかった男の屈折が滲み、バー「ホメロス」の描写など、秀逸である。 ・北方謙三氏――輻輳(ふくそう)した人間関係の中での物語の展開は、読ませる。 ・宮部みゆき氏――何よりも楽しめた。

1965年、東京生まれ。立教大学社会学部卒。1989年、旅行会社入社。1995年、「自分にイヤ気がさし」会社にも実家にも無断で失踪。その2日後、江戸川乱歩賞受賞を決意する。終夜営業のファミリーレストランを転々としながら応募原稿を書き続け、寝るのはもっぱら始発電車かカプセルホテルという放浪生活を3年半続けた後、本作で第45回江戸川乱歩賞を受賞。3年半ぶりに実家に帰った。

レビュー

  • 古さを感じさせないハードボイルドの傑作

    新野剛志『八月のマルクス』読了。 本書は1999年に出版されている。この年の江戸川乱歩賞受賞作でもある。 なぜ今頃、こんな古い本を読もうと思ったのか。それは、3月の日経新聞で、小川哲(『地図と拳』作者)が、本書に触れていたからだ。どのような紹介であったかは忘れたが、どうしても読みたくなって古書店から取り寄せたのだった。 本書はハードボイルドに属し、作者の処女作である。カバーの説明によれば、作者は旅行会社に就職したが、「自分にイヤ気がさし」て失踪した。その2日後、江戸川乱歩賞の受賞を決意して、終夜営業のファミレスを転々としながら本作を書き続けた。寝るのは始発電車かカプセルホテル。そして3年半かけて書き上げ、江戸川乱歩賞を受賞した、とある。 何ともハードボイルドな生き方だ。ぼくは、ハードボイルドはこれまでかなり読んできた。チャンドラーの「フィリップ・マーロウ」シリーズ、フィリップ・カーの「グンター」シリーズ、原遼の「沢崎」シリーズ等々である。そして、並べて見て思うのは、こうした作家たちの生き方と、ハードボイルドという作話スタイルには、何か通底するものがあるということだ。 新野が会社を辞めて失踪しながら創作活動に没入したことは既述したが、チャンドラーは石油会社の副社長を酒と不祥事で失い、以後は創作に没頭した。原遼はもともとジャズベーシストであり、小説がヒットした後は故郷の北九州市に引っ込んで、印税が無くなるまで新作を書こうとしなかった。またフィリップ・カーは、広告業界に居たが馴染めず、結局はそこから離れて創作活動に進んだ。 つまり、彼らは組織と馴染めない一匹狼的な生き方を、個人としても送っている。また、表現にこだわり寡作なのも共通点のようだ。 だからハードボイルドは、作家の生き方がベースになっていると書きそうになって、いや待てよ、北方謙三や大沢在昌のハードボイルドはどうなんだ、と思い至った。この2人からは上記した4人のような共通点は感じない。むしろエンターテインメント作者として次々と新作を繰り出す。 そして、ぼくはこの2人のハードボイルド作品も好きで、ほぼすべてを読んでいる。 おそらく、前者の作者の傾向と作品群、そして後者の作者の傾向と作品群があるのだ。ひょっとしたら、ぼくが知らないだけで第3や第4の傾向もあるのかもしれないが。 作者のかなり尖ったエキセントリックさに刺激されて、作品のレビューに入る前に多くを書きすぎたが、本作についてである。 レイプスキャンダルに嵌められて、芸能界を去ったお笑い芸人が主人公である。5年も経ってから、コンビを組んでいた相方が現れ、痛飲した後に失踪する。そして、そこからストーリーが転がり始めていく。 ハードボイルドとして正統的である。社会や業界へのニヒルさ。その一方でのストイシズムと何かへの「こだわり」。奥深くに秘めたロマンティシズムもハードボイルドには必須である。 最後のどんでん返しも、これまで読んできたハードボイルド作品にはお約束のようにあったが、本作も例外ではない。そのため、少し無理筋をご都合主義的に乗り切っていると感じるところが無いわけではないが、それが気になって読み進められないというほどではない。つまり、主人公の魅力で読者を引っ張っていき、各所に埋め込まれた伏線をつなげて最後のどんでん返しで唸らせてくれるのだ。 江戸川乱歩賞も当然の出来上がりだが、これを深夜営業のファミレスを転々としながら書き上げたことに、改めて感嘆する。 ところで、本作は今から27年も前に書かれたものだが、1つのテーマになっているのが何と「推し活」なのである。もちろん当時はそんな言葉はなかったわけだが、そうした心情と振る舞いは、すでにファンの中にあらわれ始めていたのかもしれない。 それから、どうでもいいことだけれど、作中にこんなセリフがある。「まさか名刺にフリーライターとか、ただのライターとだけ肩書きを付けるわけにもいかないでしょ」。だからオフィス○○代表とかの肩書きを付けているという説明である。しかも、そうした「ライター」しか肩書きを付けられないやつは、有名どころのクライアントも持っていない、日銭稼ぎしかできない、というような説明が続く。 ところが、ぼくときたら名刺の肩書はずっと何十年も「ライター」だけなのである(仕事によっては必要であるため「ジャーナリスト」という肩書の名刺もあるが)。それで何十年も食えてきたのだから、ライター界の例外ということになるのかもしれない(笑)。 そんなことを感じながら読んだのではあるが、30年近く前に書かれたのに古さを微塵も感じさせない作品であった。

  • 「テロリストのパラソル」を彷彿とさせる雰囲気が良い

    本書を読んで思い出したのは、藤原伊織氏の「テロリストのパラソル」です。ストーリーや登場人物の設定に明確な共通点はありませんが、雰囲気が似ていると思います。 スキャンダルで引退した元お笑い芸人で今は世捨て人のように生活する主人公の元に、元相方が訪れたことがきっかけで、過去を振り返るうちに、それが現在の事件に結びついていくというプロットや、登場人物のキャラクター設定や並べ方が、読んでいて似た雰囲気だなと思いました。 真相として明かされる事柄が込み入りすぎて作り物めいた印象を与えること、語り手が最終的にたどり着く心境が唐突過ぎて違和感がある、といったマイナス面がありましたが、雰囲気は良いので読んでも損は無いと思います。

  • 練りに練られたプロットに惹かれる

    (作品の核心部分に触れる記述があります)全国的人気お笑いタレント立川誠、これは立川談志と北野武の武をネジってのネーミングと誰しも感じる事が出来、このキャラクターはビートたけしにダブらせてしまった御仁も多いだろう。しかし主人公はその相棒笠原。この作品を読み進む推力となっているものは誰しも興味の多い芸能界とその世界固有の慣習や闇の部分に触れながら進むところだろう。 数度読んでしまうと、アラは多い。ただの田舎の高齢父母がそんな立ち回り出来るかよとも思うし、尻軽の追っかけファンが、そこまで売れてないタレントに執着を見せるか等々。しかしエンタメは最初の読み進む際の説得力と迫力が成り立っていれば良いので、この作品をそこで毀損するべきではない。 個人的には笠原のキャラクタはお笑いタレントにしてはハードボイルド過ぎて読み進むなかで「あれ?こいつ仕事何だっけ?」と別作品に踏み込んだ錯覚を覚える事もあった。 ここまで業界を垣間見させて練ったプロットは秀逸で、読んで決して後悔する事はないだろう。

  • 体温の低そうな作品

    読みにくい文章だと感じた。 会話も、誰が言ってるのか判りづらい部分がある。 プロットについても、良く練られているとは思うが、 やはり判りづらい。 主人公はプロットを淡々とトレースしているだけ。 読み終わった後の感動もなし。

  • タイトルがいい

    八月 マルクスと来れば なんとなく違う方向を想像してしまうのだけれど いい意味で裏切られた。 良質のハードボイルド。 メディアのいやらしさを扱ったミステリイには 同じ乱歩賞受賞作の名作 『破線のマリス』があるけれど あちらが報道なら こちらはバラエティ こちらもまた メディアのいやなところを 巧みに描いてくれている。 ハードボイルドの ダメな男に降ってかかる災難 当に忘れていた情や義理のために やむなく動き出し 一度動くとそれは見事な仕事をし 信じていた友人が実は… などのお約束も これまた見事にそして結末を想像できないように 果たされていて。 なんと言っても評価したいのが ほんとにささいな感情が これほどに多くの悲劇を生み 人生を動かすという ドラマのようで実際にもよくある話 読後感も悪くないし 読んで損はしないと思う 追記 文庫版表紙の挿絵 なぜかプロ野球の新庄選手に似ているような 偶然だが 作者名も 新野剛志 あはは。

  • 駄作・・・と言いけれない何かがある。・・・ような

    ミステリーとしてのできはお粗末だと思う。 重要な小道具であるヴィデオにたどり着くきっかけは、安直すぎて不自然だし、犯行の動機もあまりにゆるくて説得力がない。謎解きも延々と続く説明文会話で処理されてるだけ。首輪のエピソードもひどいと思う。駄作と言っても過言じゃない。 なのに、なんか心に残ると言うか、つい読み返してしまうのはなぜ!!! エピソードがいいから?登場人物たちが魅力的だから?文章が冴えてるから?テーマに共感できるから?・・・いや、どれもちがうんだけどな・・・。 しいて言えば、さめた主人公のキャラと語り口は好き。190ページの3行目はすごくリアルだと思う。変な比喩も好き。シュールなお笑いのネタも悪くない。 折り返しにある、著者略歴がすごく興味深い。もしかしたら、「彼が作品を執筆してた時の暮らし、その時の想い」を主人公の向こうに想像しながら読んだから、おもしろく読めたのかもしれない。

  • 元お笑い芸人が探偵役

    この作品が江戸川乱歩賞を受賞した後に、週刊誌で作者のインタビューを読んだのですが、設定・舞台のユニークさと、ホームレスをしながら作品を書き上げたというエピソードにとっても興味を持ちました。 2002年になって、文庫がでたので、そのことを思い出して、読んでみました。 狂言レイプ事件で芸能界を追放された元お笑い芸人が主人公。そんな彼を突然訪ねてきた元相方が直後に失踪、彼ら二人のスクープに関わる記者が殺される。相方のために立ち上がる主人公は、自らの過去の事件ともつながる真相の鎖をたぐり寄せようとする。 ショウビズ業界と言うことで、そのきらびやかな世界と、事件も壮大なスケールにつながるのではと思わせつつ、読み進めていくうちに、芸能界の人間的なしがらみ、意外な人間関係のもつれ、複雑な権利関係など、意外に地味な設定です。しかし、心理描写や個性的なキャラクターなどが、迫力があってページをどんどん読み進めていきます。 とにかく、最後に全ての鎖がくみ合わさっていく過程は、その真相の意外さとともに、よくできていると思いました。 あえていうと、終盤は、早足のようで、終わり方も予定調和的になって、すっきりしすぎかなって思いました。

  • おすすめ!

    ストーリー自体に、色々と突っ込みどころは、ありますが、面白くて、テンポが良く一気に読破しました。。最後の文章では、 ホロっと来ました。おすすめ!

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